飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

私たちが「寝てない自慢」「勉強してない自慢」をしてしまう生物学的理由

      2017/04/14

私たちが「寝てない自慢」や「勉強してない自慢」をしてしまう生物学的理由

 誰もが一度はしたこと・されたことがあるに違いない「寝てない自慢」である。正直「寝てない自慢」「勉強してない自慢」はされたほうからすれば非常に鬱陶しい。あなたが寝てなかろうが勉強してなかろうがどうでもいいことであるし、関係ないのである。

 「寝てない自慢」「勉強してない自慢」は、自慢することが目的となっている行為である。「寝てないから代わりに運転してくれ」とか「勉強してないから要点を教えてくれ」というのではない。ただ単に「寝てない」ことをこちらに伝達するだけ。だからこちらとしても「そうなんだ」としか思わざるを得ず、二度目になれば「はぁ」と反応もおざなりになり、三度目以降は「ウザい」となるわけである。

 私たちがついつい「寝てない」「勉強してない」を強くアピールしてしまう理由は、本稿における結論から言えば「モテたい」からである。同性のライバルに自分の優位性を誇示し、異性に対して自分は優秀な遺伝子を持っているとアピールするためである。

 では、「寝てない自慢」と「モテる」との間にはどのような関係があるのか。『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』(ジャレド・ダイアモンド著/長谷川寿一訳/草思社文庫)にそのヒントはあった。読み解いてみよう。

 

モテることと性的シグナル

 ある種の鳥に顕著なことであるが、オスは異性を惹き付けるための身体的シグナルを有している。色が鮮やかであったり、胸のあたりに模様があったり、鶏冠があったり、などである。これらシグナルは極めて単純な効果があり、例えば、胸の模様のより大きい個体は多くのメスを惹きつけ、同性のオスは自分よりも大きな胸の模様を有している個体からは無条件で退却してしまう。

 なぜ自然界ではたったひとつのシグナル(単なる胸の模様の大小)がこれほどまでに個体の力関係に大きな影響を及ぼすのだろうか。いまだにはっきりとした理由はわかっていないが有力な説が幾つかある。その中の一つにイスラエルの生物学者アモツ・ザハヴィの提唱した「ハンディキャップ説」がある。

 

なぜ長くて重くて邪魔なだけのクジャクの尾はメスを引きつけるのか ―ハンディキャップ説

 例えば、クジャクにおいてはより長い尾羽を有するオスが最もモテるということになっている。尾羽が性的シグナルになっているということだ。

 だけど、少し考えれば分かる通り、長い尾羽は飛び立つ際に邪魔だし、動くためには重いし、捕食者に見つかりやすくなるし、維持するためにエネルギーは必要だしと良いことがないように思える。なぜそんな無用の長物のようなものにメスは惹かれてしまうのか。

 ハンディキャップ説によれば、無用の長物であるシグナルを有していることによって「無駄に長い尾羽というハンディキャップを持っているにも関わらずこうやって生存している。つまり、自分は優秀な遺伝子を持っているのだ」と潜在的にアピールしているということになっているのだそうである。

 外敵に見つけられやすいし、動きづらいにも関わらずこうやってたくましく生き残っている。まして、エネルギーに余裕がなければ長い尾羽は作られることはない。従って、長い尾羽はそのオスが優秀であることを示すシグナルになっているのだ。

 メスの生物学的目的はより優秀な遺伝子を持つオスとの間に子孫をもうけることであるから、「尾羽の長い個体=優秀な遺伝子を持つオス」と識別できるということである。

 

ハンディキャップ説で「寝てない自慢」の本質が理解できる

 もうおわかりかもしれない。上記クジャクの例を人間に置き換えてみれば、なぜ私たちが「寝てない自慢」「勉強してない自慢」をアピールしてしまうのかが理解できる。

 「寝てない」「勉強してない」というのはハンディキャップである。要するに「昨日寝てないというハンディキャップを背負っているにも関わらずこうやってきちんと活動している」「勉強してないというハンディキャップがあるにも関わらず優秀な成績を取れる」ということをシグナルとして発し、アピールしているというわけである。もちろん、「勉強しなかったから成績が悪くても仕方ない」という言い訳として捉えることもできるかもしれないが、要するに同じことである。

 このハンディキャップ説に基づけば、人が見栄のためにブランド品を身に着けたり無駄に高価なクルマに乗ったりする理由も理解できる。

 どんな男性でも、女性に向かって自分は金持ちだと自慢して、自分とセックスすれば結婚したってよいと誘うことはできるだろうが、それはうそかもしれない。女性は、その男が高価なだけで役に立たない宝石やスポーツカーに金を注ぐのをみたときにはじめて彼が金持ちだと信じることができる。

 『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』ジャレド・ダイアモンド著/長谷川寿一訳/草思社文庫 P204

 

まとめと私見:寝てない自慢=偽のシグナルに騙されるな

 このハンディキャップ説は、動物の身体的シグナルに対する一つの考え方にすぎない。

 そう、ハンディキャップ説は「身体的シグナル」の話である。それらを人間の活動に当てはめた「寝てない自慢」や「高価なだけで役に立たない宝石に金を注ぐこと」は、人間が意図的にハンディキャップを作り出して勝手にアピールしているだけのものと考えることもできる。いわば「偽のシグナル」である。

 動物は愚かであり、人間には知性がある。だけど、動物における「クジャクの長い尾羽」のような一見してわかりやすい特徴をシグナルにしてパートナーを選ぶことと、賢い人間が職業、年収、育ちの良さ、容姿、身長、コミュニケーション能力などの複雑な要素を勘案した上でパートナーを選ぶことに優劣はない。

 むしろ、クジャクの離婚率よりも人間の離婚率のほうが遥かに高いのであり、そういった意味では「人間は賢い」と誇ることはできまい。もしかしたら、私たちは「寝てない自慢」や「高価なだけで役に立たない宝石に金を注ぐこと」などの付け焼き刃な偽のシグナルに踊らされてしまうことによって、相性の宜しくないパートナーを掴まされることになってしまっている可能性もある。

 クジャクの尾羽と同じように、私たち人間にもありのままの身体的シグナルが存在するのである。きらびやかな見栄に騙されることなく動物的勘に従ってパートナーを選んだほうがうまくいくのかもしれないし、「寝てない自慢」をするくらいならきちんと寝たほうがいいのかもしれない。

 - 動物・植物