飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

【書評】『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』から学ぶ5つのこと+α

      2017/08/18

USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? (角川文庫)

 本書『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(森岡毅・著、角川文庫)はマーケティングの優れた入門書であると共に、胸熱のノンフィクションであり、仕事をする全ての人のための書籍である。

 USJの業績V字回復は森岡氏のシナリオ通りであった。つまりは偶然などではなく、戦略に基づいた当然の結果であったということである。周囲からとってみれば大胆不敵な戦略だらけだった。けれど、森岡氏は「マーケティングの力」「数学の力」によって計画を立案し、鉄壁のマーケティングと数字を根拠に「その計画は何ら突飛なものではなくむしろ合理的なものである」と周囲を説得し、事実結果を残すことによってそれを証明してみせたのである。

 読んでいて面白い上に多くのことが学べる。『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』から私が学んだ5つのことを簡単に紹介していこう。

 

1. 奇跡なんてない。あるのは意志と計画だけ

 私は「奇跡」という言葉があまり好きではありません。外から見たら「奇跡」のような成功に見えるのかもしれませんが、ここで起こったことはただの偶然ではないのです。(P5)

 たった一度の成功は偶然や奇跡でも達成できる。だけど、成功させ続けるためには偶然や奇跡では力不足である。思考停止して偶然に頼り、奇跡を待つ人に決して奇跡が起こらないのは誰もが知るところ。

 明確な意志、綿密な調査と計画によってのみ成功は継続する。これは本書を貫く重要なテーマだ。

 

2. 目標から逆算して考えること

 著者はUSJの業績を回復させるために「The Wizarding World of Harry Potter」(ハリー・ポッターのアトラクション)を建設するという英断を下す。コストは450億円(!)。だけど、綿密な検証により多額の建設費を支払っても必ず成功するという確信があった。
 問題なのはハリー・ポッターに多額の経営資源を捻出しなければならない中で、完成するまでの3年間をどうやって生き延びるのかということ。お金はない、だけど毎年新たな仕掛けでお客さんを呼ばなければならない。さあ、どうする、というのが本書の見どころである。

 ここで重要なのは、まず「業績を回復させるためにハリー・ポッターを誘致する」というゴールが先にあって、「そのために何ができるか」という思考の順序になっているということ。

 往々にして私たちは「いくら売れるかな」「どのくらい契約が取れるかな」と考え、結果「このくらい売れた。上出来だ」「このくらいしか契約が取れなかった。まずまずだったな」と考えがちである。違うのである。

 本来であれば「このくらい売る!」という目標があって「そのために何ができるか」と考えるべきなのである。「いくら売れるかな」「このくらい売れた。上出来だ」思考の会社が次々と潰れているのは、シャッター商店街を見れば明白なことである。

 

3. 既存のアイデアを活用すること

 本書のタイトルにもあるように2013年にUSJは「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」というジェットコースターを逆向きに走らせるというイベント「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド〜バックドロップ」を打って空前絶後の大盛況を得た。また、同年にはスパイダーマンのアトラクションの映像出力を4K3Dに強化し、大きな集客につなげることができた。

 これらに共通するのは、既存のモノ・アイデアを利用するということである。傍から見れば、既存のジェットコースターを逆向きに走らせるだけ、既存のアトラクションの映像を4K3Dに改良しただけのこと。だけど結果的にそれは大成功を収めた。しかも、新しいアトラクションをイチから建設することなく、限りない低予算によって。

 アイデアは世界中に転がっている。もしかしたらすぐそばに答えがあるのかもしれない。インターネットによって既存の秀逸なアイデアをかき集めて検討することは極めて容易になった。だけど私たちはついついゼロから物事を作り上げようとしてしまいがちだ。

 テンプレートがインターネット上に無料で誰でも利用可能な状態で落ちているのに、ついついゼロから枠組みを作ってしまいがちだ。それは職人としては誉められたことかもしれないけれど、多くの場合は無駄な時間であり、テンプレートよりもクオリティの低いものが出来上がる可能性が高い。既存のアイデアを再利用するという発想は、この飽和状態の世界において意外と重要なものだ。

 商売をしている人であれば、明日の売上の予測をする最善策は「いくら売れるかなー」と闇雲に手探りで考えることではなく、昨年の売上データを見ることである。昨年の売上データという既存のアイデア、テンプレートがすぐそこにあるのに「いくら売れるかなー」と無駄な時間・労力を費やす必要はない。

 

4. 自分で実際に体験してみること

 著者がUSJにハリー・ポッターのアトラクションを誘致しようと決心したのは、先にアメリカのユニバーサル・スタジオに完成していたハリー・ポッターのアトラクションが好調だったから、ではない。著者は実際に米国ユニバーサル・オーランド・リゾートに視察に出かけ、そこにあったハリー・ポッターのアトラクションを体験し、「これはすごい」と大きな感銘を受けたからであった。

 同様にして上述のスパイダーマンの4K3D化についても、先に米国ユニバーサル・スタジオが実践していたものを実際にその体で体験し、来場者が満足できるものかどうかを自分の感覚で確かめてからゴーを出した。ワンピースのイベントを推していく際にも実際にコミックを全て読破し、アニメ・映画も全て観たと書いてある。

 そこには頭でっかちにならずにきちんと自分で体験し、自分の感覚で確かめることの重要性がある。私事だがついつい机に座ったまま頭でっかちになりがちなので、これは良い教訓になった。

 

5. 諦めないで考え抜くこと

 夜もまともに眠れなくなってきました。考え続けると、疲れているはずなのにかえって目は冴えてきて、気がつけば一晩中天井を睨みながらアイデアを考え続けている日々。
 今考えると、そのときの私は明らかに万策尽きていたのです。毎朝、逃げ出したい衝動に駆られていました。それでも鏡に映る自分に「絶対に大丈夫」と暗示をかけて、出社してから周囲に不安を見せないようにしていたのです。

 (P121-122)

 アイデアはちょっと考えただけで出てくるものではない。著者の場合、まずは前提条件を炙り出し(「1.予算は○○円」「2.○○人の集客を見込める」「3.○○までに実行できる」など)、パズルのピースを嵌めるようにその条件に当てはまるアイデアを徹底的に考え抜くというスタイルを採っているのが本書では印象的である。

 とにかく諦めないで考える。「何か方法があるはずだ」と考え抜く。本書の冒頭における「私は「奇跡」という言葉があまり好きではありません」という理由がわかる。著者は努力の人だからだ。

 なぜUSJをV字回復させるアイデアをほぼ百発百中で出すことができたのか。それは「諦めないで考え抜いた」からである。もっと言えば「マーケティングの力によって正しい方法で諦めないで考え抜いた」ということだ。論理と情熱の相乗効果である。

 単なるサラリーマンに「夜も眠れなくなるほどに考えろ」と言うのは酷である。なぜなら単なるサラリーマンだからである。私なら嫌だ。だけど、誰でも人生で一度は「死なない程度に考え抜かなければならない」ことがあるに違いない。それは仕事に関することかもしれないし、恋愛に関することかもしれないし、人生を賭けた何かに関することかもしれない。

 そういった事態に直面した際、選択肢は二つある。「考えることを諦める」と「諦めない」である。諦めないから必ずうまくいくとは限らないけれど、その後の人生が大きく左右される事象である気がする。少なくとも著者は決して諦めなかったことによって、誰もが不可能だと思っていた数々の偉業を成し遂げることができた。

 

おまけ:+α. もっと遊ぶこと、多趣味であること

 私が本書『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』で最も驚いた点は、著者は仕事には妥協なく自分の意志は強く突き通す人物であると共に「よく遊ぶ」人物であるという点である。

 私の場合は、世のマネジメント層の人々と比べて、圧倒的にエンターテイメントのストックが強いと自負しています。昔からエンターテイメントやレジャーが大好きで、音楽鑑賞、観劇、映画、チェス、ゲーム、釣り、キャンプ、アニメ・漫画、スポーツ観戦、旅行、読書、テーマパーク、楽器演奏……それらの多彩な趣味に費やした時間と情熱は半端ではないです。
 それもこれも、私が幼少期から社会人になるまで勉強一筋で生きてきた人間ではなく、好きなことをして、あちこち寄り道をする人生をプラプラと歩いてきたおかげだと思っています。
 たとえば、おそらくUSJの5000人を超える全従業員(アルバイトのクルーを含む)の中で、人生で「ゲーム」(筆者注:テレビゲーム)に費やした時間の累計で私に勝てる人は一人もいないだろうと思っています。

 (P159)

 特に圧巻なのは「モンスタハンター」のイベントをUSJに誘致するためにモンハンをやり込むシーンである。

 興味を持った素材はとことんりかいするところから始めるのが、私の性分です。プレイステーション・ポータブル(PSP)と、ソフト「モンスタハンターポータブル 2ndG」をその週末に買い込んで、とりあえず自分自身でハンターライフを送ることにしました。
 私は睡眠時間を削ってモンハンをひたすらやり込みました。プレイ時間はわずか数ヶ月で400時間を超え、ハンターランクをグイグイと上昇させていきました。若い人たちが、このゲームをなぜそんなに好きなのかをもっと知りたい。そしてこのブランドをイベント化するとしたら、どのような切り口でユニバーサルの技術を発揮すれば、ファンがパークに来場して泣くほど感動してくれるだろうか? そんなことばかり考えて、ひたすらこのゲームをやりこんでいたのでした。

 (P77-78)

 数ヶ月でプレイ400時間って、一体いつ仕事をしていたんだ。仮に3ヶ月でプレイ時間400時間だとしても一日5時間以上はモンハンをしていたことになる。いったいどうなっているのだ。すごすぎ。

 「仕事ができてクリエイティブな人はよく遊ぶ」と言われるけれど、このモンハンの例はその極北である。私たち社会人の見習うべきはここにある。さあ、残業なんてしている場合ではないぞ。

 
関連書籍:

▲森岡毅氏の第二作。マーケティングについてその概念から実務的な部分まで詳しく書かれている最良の入門書。

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