飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

【書評】人生を変える考え方『エッセンシャル思考』グレッグ・マキューン著

      2017/06/24

エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする

 「エッセンシャル思考」とは本当に重要なことを一つだけ選び、それに集中するための技術である。

 たった一つだけに集中することによって、少なくともその一つのことを成し遂げることができる。「たった一つだけじゃ少なすぎる」と思うかもしれないが、そうではない。特に現代においてはモノや情報、やるべきことが多すぎるが故に集中力が分散してしまい、結果、たくさんの時間がありながらも一つのことさえ達成できないという状況に陥りがちだからである。

 産業革命以降の私たちの暮らしは「増やす」ことを過剰に志向してきた。「増やす」ことが価値であり、ステータスであり、楽しみであり、目標だった。しかし、IT革命以降はどうやら様子が違う。「減らす」という選択肢が大きな価値を持つようになっているのである。

 減らすことによってリソースを一本化し、自分にとって本当に大切なことを達成することができる。それはすなわち人生を確実に前進させ、充実させることができるということだ。本書『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン著、高橋璃子訳、かんき出版)はそのための特別なガイドラインであり、特効薬であり、秀逸な道標である。

 極めて優れた考え方であり、学ぶべき部分が多くある。人生を変える力がある。捨てないで本棚にしまっておく価値がある数少ない本のうちの一つであると私は考える。

 

エッセンシャル思考とは何か?

 エッセンシャル思考になるためには、3つの思い込みを克服しなくてはならない。
 「やらなくては」「どれも大事」「全部できる」――この3つのセリフが。まるで伝説の妖女のように、人を非エッセンシャル思考の罠へと巧みに誘う。

 エッセンシャル思考を身につけるためには、これら3つの嘘を捨て、3つの真実に置き換えなくてはならない。
 「やらなくては」ではなく「やると決める」。
 「どれも大事」ではなく「大事なものはめったにない」。
 「全部できる」ではなく「何でもできるが、全部はやらない」。

 (P14-15)

 自分にとって大切で重要なことを見極めてそれにだけ集中することが「エッセンシャル思考」である。

 この成熟した情報化社会においてはとにかくもたらされる情報が煩瑣である。次から次へと手持ちのスマートフォンに仕事の指示が飛んでくる。ニュース媒体やエンターテイメントは多様化し私たちを誘惑してくる。結果、仕事を次から次へと無差別に引き受け、何か面白いニュースはないかなと漠然とアプリを眺め、暇つぶしにと生産性のないスマホゲームをだらっとこなして一日が終わる。

 仕事の多さやスマホアプリが悪いのではない。ニュースを見るべくしてニュースを探し、ゲームをするべくしてゲームを楽しむのなら構わない。問題なのはそれを「受動的に」「無差別に」「漠然と」「だらっと」「惰性で」してしまうことこそが問題なのである。

 あれもこれもに手を出すことによってリソースは分散され、結局は何も達成できないことに繋がる。何か目標を成し遂げるためには「あれもこれも」ではなく「たった一つだけ」を選んでそれにリソースを集中させる必要がある。そうすればうまくいく。

 そのためには自分の意志で選び取る必要がある。自分の眼で取捨選択をし、重要なこと以外は敢えて退ける必要がある。その「不要なものを退けて、重要なことを選び取る技術」こそが本書『エッセンシャル思考』で繰り返し述べられている重要素である。

 

誰でも「エッセンシャル思考」を身に付けることができる

 もちろん、やるべきことはわかっている、はずだった。人生の大仕事をやり終えた妻と、生まれたばかりの娘のために、そばにいてやらなくてはならない。そのとき電話がかかってきて、会議にはこられそうか、と訊かれた。私は反射的に、こう答えていた。
 「はい、行きます」

 もう誰にも、娘が生まれたときの私のような間違いを犯してほしくない。いつだって、本当に大事なことを選んでほしい。

 (P26, 49)

 上記引用は『エッセンシャル思考』著者グレッグ・マキューン自身のかつてのエピソードである。娘が生まれたかけがえのない日、本当は妻と娘のそばにいるべきだったのに仕事を優先させてしまった。そう、著者自身もかつては多くの仕事を抱え込み、大事だと思えないことでも断ることができなかったようである。

 でも、今は違う。大事なものを選び取る意志・技術・習慣を身につけ、その集大成である本書を書き上げた。

 本書『エッセンシャル思考』においては著者自身も含む、多くの人のエピソードが描かれている。それは「非エッセンシャル思考 → エッセンシャル思考」の過程であり、エッセンシャル思考を意識して生活の中に取り入れることが成功の秘訣であり、ストレスから解放されるという事実である。

 世界中の優秀な人たちでさえ「あれもこれも」と仕事を無差別に引き受けてしまい、頭の中がパンクしそうな日々を送りながらも何も達成できないという問題を抱えていることがわかる。それと同時に、誰でも「エッセンシャル思考」を身につけ、たった一つのやるべきことに集中するという環境を整えるだけで人生を変えることができることも本書では強調されている。そう、誰でも人生を変えることができる。

 

感想:エッセンシャル思考は安心であり赦しである

 誰もが気づいているはずである。マルチタスクは非効率であると。もっとやるべきことを減らしたいと。無駄な時間が多すぎるにも関わらずその誘惑に負けてしまうことに。

 私が『エッセンシャル思考』を読了して感じたことは「これでいいんだ」という安心である。赦されたような気分になった。目から鱗の新しい発見というよりは、本来はそうであるべきことの強い再確認であった。

 繰り返しになるけれど『エッセンシャル思考』は「たった一つのやるべきことに集中する」ことであり、その環境を整えるための技術である。これは、誰もが神経をすり減らしながらも心の中では「仕事が多すぎる」「集中させてくれ」「断りたいけど断れない」と思っていることに対する福音である。「仕事を減らしてもいいんだよ」「集中して仕事をすべきだ」「重要でないことは遠慮なく断っても構わない」という明確な回答である。

 「やっぱりそうだったんだ、仕事は減らすべきだし、重要でなくキャパオーバーな仕事はどんどん断って構わないんだ」という安心である。

 

「断固として上手な断り方」を身につけよう

 エッセンシャル思考を生きるのは、そう簡単なことではない。私もいまだに戦っている。人に何かを頼まれれば力になりたいと思うし、いいチャンスにめぐりあえば「忙しいけれど両立できるんじゃないか」とつい思ったりする。何度も何度も携帯電話をチェックしようとしている自分に気づく。

 (P288-299)

 そう、減らすためには「断る」ことが必要不可欠となる。本書『エッセンシャル思考』が単なる机上の空論、空想の産物となっていないのは「断ることは心苦しく、難しいことだ」という前提に配慮されているためである。「頼まれたことを断る/断られるのはお互いに良い気分はしないだろう」「断ったら評価や信頼が下がるかもしれない」――私たちは往々にしてそのように考えている。

 『エッセンシャル思考』においては、著者自身も断ることに対しては葛藤のあるときもあるとしながらも、それでも自己実現のためには心を鬼にして、相手をなるべく不快にしないように「断固として上手に断る」べしとしている。本書の特筆すべきは、「断ること」の大いなるメリットを様々な実例を元にわかりやすく提示しながら、「断固として上手な断り方」をきちんと具体的に提示している点である。

 断ることの重要性は本書全体を貫くテーマとなっているが、特に「第11章 拒否―断固として上手に断る」はそのエッセンスが凝縮されており、有用かつ実用的である。優柔不断な私のような人は特に、ここだけでもいいから読んで少しずつ実践していけば必ず人生が変わるだろう。

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