飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

「直感を信じるな」と主張されている信頼すべき3冊の本

      2017/09/01

「直感を信じるな」と主張されている信頼すべき3冊の本

 近年、書籍、雑誌、ウェブ上などのあらゆる場所で「物事は直感で選べ!」と過剰に主張されているように思う。検索エンジンで「直感」と入力すれば、「直感で決めればうまくいく」「直観力を鍛えよう」という言葉に溢れている。

 人間はおおよそ怠惰である。「直感で決める」の反意語はおそらく「よく考えて決める」だと思うが、人は基本的によく考えることを嫌う。フェイクニュースが拡散されるのは人々の「直感=よく考えない」によるところが大きいことは自明である。人生設計において合理的でない保険に加入してしまったり、割高な携帯電話料金を払い続ける羽目になったり、ギャンブルに生活費を突っ込むのも投資で損をしてしまうのも同じこと。

 
 私は「直感で決めればうまくいく」には懐疑的である。全ての直感が信じるに値しないとまでは言わないけれど、「直感で決めればうまくいく」を盲信することはおおよそ、思考停止に陥り、楽な方へと流され、怠惰な人がさらに怠惰の泥沼に嵌まり込むことになると思う。

 本稿においては、本来はよく考えることのできる賢い人が「直感で決めればうまくいく」のような偏った考え方に影響されて人生を棒に振らないために「直感を信じるな」「直感で選ぶな」「直感で決めるな」と主張されている3冊の本を紹介していくものである。

 

1. エッセンシャル思考(グレッグ・マキューン著)

 私たちの目的は、やってもやらなくてもいいことを何十ページもブラウズすることではない。「これしかない」と思えることを、ひとつだけ見つけることだ。(P144)

 『エッセンシャル思考』がビジネス書として卓越している点は「よく考えること」を重要視している点である。殆どのビジネス書や自己啓発書において「とにかく思い付いたことをすぐに行動せよ!」と私たちを唆しに来るのとは極めて対照的である。
 
 『エッセンシャル思考』の論旨は「自分の頭で良く考え、たった一つの本質を選び取ること」に要約される。やってもやらなくてもいいことはやらない。周りの意見や世論に惑わされることなく「何を選ぶべきか」を「自分で考えて選ぶ」ことが重要であり、それこそが大きな成果を上げ、人生を豊かにするたった一つの秘訣であると説いている。

 
 もちろん、その「自分で考えて選ぶ」際に直感が作用することは往々にしてあるだろう。人生においては何気ないときに突然「これだ!」と思うことがやってくる。ただ、それを直感で選び取る際には、自分で考えるというバックグラウンドが必要である。だからこそ、それを「これだ!」と直感で選ぶことができる。

 自分の中に「本質を自分で考える」という芯がないと、「これしかない!」と直感で選び取ったたった数カ月後に「やらなきゃよかった」と後悔することになる。あるいは、全てに直感を感じてあらゆることに手を出した挙句、何も得ることなく時間だけを無駄にすることになる。

 
 直感が大事な場面は確かにある。だけどそれ以前の問題として「本質を自分で考える」という信念がなければ、うまくいくための直感が上手に機能しないのである。

 

2. 敗者のゲーム(チャールズ・エリス著)

 直感を信じて投資してはいけない。うまくいって有頂天の時は、大火傷が待っていると思ったほうがよい。落ち込んだ時は、夜明け前が一番暗いということを思い出そう。(P153)

 個人投資家のための最も信用できる書籍が『敗者のゲーム』である。本書の卓越は「投資に勝つこと」ではなく「負けないこと」に力点を置いて、市井の人にも非常にわかりやすく解説されている点である。未曾有のマイナス金利政策によって投資が資産運用の賢明な手段となりつつあるものの、投資にイマイチ馴染みのない現代日本の私たちにおいては特に必読の書であると私は考えている。個人型確定拠出年金(iDeCo)を始める人にもおすすめである。

 もしあなたが、401(k)、すなわち確定拠出型年金や非課税投資口座(訳注:NISAなど)に加入したら、まずその資産運用をどうしたらよいか悩むだろう。この本はそういった方々のために書かれたものである。(P11)

 で、『敗者のゲーム』においては「直感を信じて投資してはいけない」とはっきりと書かれている。これは本書を貫く重要なテーマと言っても差し支えないだろう。相場の値動きに一喜一憂したり喜んだり焦ったりする必要は全くなく、自分が信念を持って投資した対象をどんと構えて見守るべきであり、なんなら投資したことを忘れているくらいが丁度いいと説かれている。気まぐれな値動きに誘惑されて下手に売り買いすると結局は損をすることになる、と。

 
 投資戦略の詳細については本書に任せるとして、「直感を信じて投資してはいけない」という言葉は投資だけでなく人生における偉大な教訓としても転用できると私は考えている。というのは、株式相場は様々な人の思惑が入り乱れてランダムに値動きするのであり、決して自分の思い通りに行くものではない。

 これは人生の縮図になっている気がしてならないのである。人生だって有象無象が入り乱れたカオス系である。思い通りにならない。極めて不合理、不条理にできているのが世の中だ。

 
 であれば、株式市場における「直感を信じて投資してはいけない」という警鐘は、そのまま「直感を信じて人生の選択をしてはいけない」という教訓として成り立たないだろうか。私たちがすべきことは投資と同様、自分だけの信念を持ち、周りの意見に流されず、大局を見て自分なりの判断を自分の頭で熟考した末に導き出すことだ。

 

3. 動的平衡(福岡伸一・著)

 私たちは重要な箴言を引き出すことができる。「直感に頼るな」ということである。つまり私たちは、直感が導きやすい誤謬を見直すために、あるいは直感が把握しづらい現象へイマジネーションを届かせるためにこそ、勉強を続けるべきなのである。それが私たちを自由にするのだ。(P64)

 ベストセラー『生物と無生物のあいだ』の著者である福岡伸一氏の『動的平衡』における「直感に頼るな」という論証は極めて鮮やかである。直感で選ぶことを唆されそうになったとき、自分を戒めるために一家に一冊は『動的平衡』を置いておくべきではないか、あるいは「直感」で検索した際の検索結果の一番上に掲示しておいてもいいのではないかと私は勝手に思っている。

 
 人間の目が見た世界は、私たちの脳である程度のバイアス(=偏見)がかけられてしまう。私たちは世界をありのままに認識することはできず、脳内において自分の思い込みや「そうであるべきだ」という考えや一般常識などでフィルタリングされてしまう。ちょっと歪んだ認識が誰しもの脳内で提示されることとなる。

 例えば、ここ日本では虹は七色であると言われているが、本当は七色ではない。虹の色は切れ目なく続いているスペクトルであるので「何色」と言えるものではないのである。だけど私たちは誰かから「虹は七色だよ。赤とオレンジと黄色と…」なんて聞かされるので、七色に見えてしまうのである。

 なぜこのようなことが起こるかというと、それが人間がまだ野生動物と対峙していた頃、生存するために必要不可欠な機能だったからである。一見ランダムに思える事象に特定のパターンを見出し、決めつけることによって、迅速な決断や危険の回避ができるようになる。このような脳の合目的性によって、私たちは賢く危険を回避することができるようになった上に、言葉を覚えることができたり、歌を歌ったりすることができるようになった。

 もちろん、言葉を喋れたり歌えることは素晴らしいことだ。だけど、それは同時に虹は七色じゃないのに「七色に決まってるじゃないか」という強い錯覚をももたらす。

 「虹は七色だ」と思い込んでそれ以上考えない人生と、「おや、虹は本当は七色じゃないんじゃないか?」と疑問を持ってみる人生と、どちらが自由だろうか。どちらがより多くの可能性に触れることができる考え方だろうか。「虹は七色だ」と思い込んでいることは、世界をごく「直感的に」しか捉えていないことと同義なのではないか。

 著者の言う「直感に頼るな」というのは、自由と可能性への道標である。脳の錯覚がもたらす閉鎖的な経験則としての「直感」からの羽ばたきである。

 
 「自分には何の可能性もないから不幸だ」と思い込んでそれ以上考えない人生と、「おや、もしかしたらやろうと思えば何だってできるんじゃないか?」と疑問を持ってみる人生と、果たしてどちらが自由で幸福な考え方だろうか。


 

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