飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

『俺ガイル。続』ラノベ原作の感想とアニメ版との比較

      2018/06/18

『俺ガイル。続』原作の感想とアニメ版との比較

 アニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の特に二期(「続」のほう)が大変に良かったので、原作を読んでみた。

 アニメにおける「続」のほうに対応する原作巻(7巻〜11巻)しか読了していないものの、本稿においては原作とアニメ版とを見比べて気づいた点を紹介していくものである。

 予め書いておくと、アニメが気に入ったなら原作は読んでも損はないと断言できる。一巻につき300ページ前後であるが、長さは全く感じられず、楽しく読み進めることができる。

 

原作では川崎沙希が意外と登場する

 アニメ版においては川崎さんは5話と12話くらいにしか登場して来ず、12話においてどうやら比企谷のことが気になっているようであることがようやく明確に示唆されるのに対し、原作では忘れない程度に比企谷と恥じらいながら会話するシーンが散見される。

 ゲーム版では川崎ルートもしっかりと用意されているようであり、秀逸なダークホースであると言える。同じ物語を川崎視点で描いたものがあれば是非読んでみたいと個人的に思う。

 

雪ノ下の進路には留学という選択肢がある

 原作10巻は進路、主に文理選択がテーマとなっている。その中で国際教養科に在籍している雪ノ下雪乃が、進路において留学を意識しやすい環境にあることが示唆されている。アニメ版においては留学については全く触れられておらず、原作においても雪ノ下本人が留学について言及するシーンはないけれど、結末に向けての何らかのキーワードになる可能性がないわけではない。

 例えば、雪ノ下雪乃が進路として留学を選択するということになれば、彼女の自立を最大限に強調する結末になり得るだろう。

 

地の文により物語に深みが出る ―原作の醍醐味

 原作小説が映像化された際に何か物足りなく感じてしまうのは地の文のせいであるに違いない。映像化できない主人公の心情や思考が原作にはふんだんに盛り込まれているからである。ひとつの同じ台詞でも原作と映像では印象が大きく異なる場合もある。

 

第8話「……けど、苦しんだから本物ってわけでもないでしょ」

 「考えてもがき苦しみ、あがいて悩め。――そうでなくては、本物じゃない」という平塚先生からの助言に対して、比企谷は「……けど、苦しんだから本物ってわけでもないでしょ」と返す。もちろん、この比企谷の台詞を額面通りに否定の意味で受け取るのは野暮ってものだけれど、それにしてもこの台詞はなくてもよかったのではないかとアニメ版を見て思っていた。

 原作を読んで謎は解けた。

 言葉の雨を叩きつけられて、胸の内にはいくつもいくつも声が溜まっている。けれど、それを吐き出すことはしない。これはきっと、俺が自分で考えて、醸造して、飲み下すべきものだ。
 だから今は別のことを言おう、礼代わりの憎まれ口を。
「……けど、苦しんだから本物ってわけでもないでしょ」

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』9巻(P235-236)

そう、「……けど、苦しんだから本物ってわけでもないでしょ」は素直じゃない比企谷の礼代わりの台詞だったのである。

 

第11話「俺も一つ言い忘れてた。……俺もお前が嫌いだよ」

 比企谷はマラソン大会の打ち上げパーティーでリア充クラスメイトの葉山に「俺も一つ言い忘れてた。……俺もお前が嫌いだよ」と放つ。これも額面通りに「比企谷は葉山が嫌い」と言う意味として受け取ってしまうのは誤謬を招くものである。

 昔から人の期待なり、希望なりに答え続けた結果、それに即した行動しかとれなくなっていた。最適解以外の答えを持つことを許されなかった。戸部に、自分で選ばないと後悔するぞと言いながら、その実、後悔していたのは葉山だったに違いない。それはまさに、懺悔だった。
 そうやって葉山は人の期待に応え続けるのだろう。これからは自分自身の意志で。
 だから、俺だけは否定しないと。期待を押し付けない奴がいると思い知らせてやらないと。
 的を射た否定だけが、きっと本当の理解で、冷たい無関心こそは優しさだと思うから。無理解者の肯定は彼にとって足枷にしかならない。
「俺も一つ言い忘れてた。……俺もお前が嫌いだよ」

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』10巻(P334-335)

 皆の人気者でリア充に見える葉山は、昔から期待され、その期待に応えなければならないという足枷に囚われていることを比企谷は見抜いていた。だから、比企谷は「俺もお前が嫌いだよ(=俺はお前に全然期待していないよ)」という台詞を優しさとして放つことができる。もちろん、葉山も比企谷の台詞の真意はわかっている。

 一般的に「愛の反意語は無関心」だなんて言われるけれど、ここでは無関心を優しさの表現として逆説的に用いている。尋常ではない。

 

第8話「俺は、本物が欲しい」

 原作9巻は5話分(第6話〜第10話)を使ってアニメ化されており、本作における要所である。7巻が2話分(第1話、第2話)、10巻がほぼ1話分(第11話)であるのと比べても非常に丁寧に映像化されていることがわかる。特に伝説の神回と評される第8話は原作たった50ページを1話分としており、ほぼノーカットである。

 原作のエッセンス全てを映像化することはなかなか難しい。もちろん、逆も然り。原作では登場人物の細かな表情や声色、所作をエモーショナルに表現することはなかなか難しいだろう。

 とは言え、この第8話。ノーカットで忠実に映像化されているからと言って原作が無用であることにはならない。「俺は、本物が欲しい」のシーンが気に入ったなら、原作は是非とも読むべきだと思う。一つ一つの言葉や表情の意味が強固に肉付けされて「なるほど」と手を打つことになるだろう。

 手の届かない葡萄はきっと酸っぱいに違いない。
 でも、嘘みたいに甘い果実なんかいらない。偽物の理解や欺瞞のある関係ならそんなものはいらない。
 俺が欲しいのはその酸っぱい葡萄だ。
 酸っぱくても、苦くても、不味くても、毒でしかなくても、そんなものは存在しなくても、手にすることができなくても、望むことすら許されなくても。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』9巻(P254)

 

メインヒロインは雪ノ下雪乃

 原作中の地の文(要するに比企谷のモノローグ)で用いられる「彼女」という代名詞のその殆ど全てが雪ノ下雪乃を指していることは注目に値する。比企谷は雪ノ下という存在を、一人の人間として強く意識していることがよくわかる。それに対して、比企谷の日常生活の中で彼の脳内に由比ヶ浜が登場してくることは殆どない。

 アニメ版においては見方によっては「比企谷は雪ノ下と由比ヶ浜のどちらを選ぶのか」というような捉え方もできるように描かれているのとは大きな違いであると感じた。原作ファンが雪ノ下に贔屓的であるように思えるのも頷ける(私は由比ヶ浜が好きだ)。

 

8巻は個人的に傑作

 原作の中では8巻(アニメ第3話〜第5話)が一番気に入っている。生徒会選挙の回であり、一色いろはが登場するのもここからである。

一貫性のあるストーリー

 例えば。
 例えばの話である。
 例えばもし、ゲームのように一つだけ前のセーブデータに戻って選択肢を選び直せたとしたら、人生は変わるだろうか。
 答えは否である。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』8巻(P10, P357)

 8巻はこのような書き出しで始まる。で、約350ページ後、終わりも同じ言葉で締めくくられる。個人的な嗜好に過ぎないのだけれど、こういった演繹的な表現手法に弱い。一貫性があるように感じられるからである。

 

間違える主人公

 この8巻において比企谷は取り返しのつかない間違いを犯す。言わばこの8巻の結末はバッドエンドであり、それが冒頭から宣言されているのである。

 おおよそハッピーエンドに向かって驀進していく物語で世界は溢れている。あるいは、間違ったとしてもすぐにそれを取り戻せたり、都合よくタイムリープしたり、その間違いが良い方へ向かうきっかけになったり、誰かの間違いをヒーローである主人公が是正したりするようなリアリズムに欠ける物語が跋扈している。約束されたハッピーエンド。

 だけど、私たちが生きる現実世界はそうではない。物語の主人公である私たち一人ひとりがいろいろなことを見落としまくって取り返しのつかない間違いを犯しまくるのが現実だ。そんな現実から目を背けさせるために、約束されたハッピーエンドの物語は飽きるくらいに存在するのだろう。

 だけど、本作8巻の卓越は、そんな間違えまくるつまらない私たちの現実をそのまま描いたところにある。ルート選びに間違えた主人公をそのまま提示する。なかなかこういった物語は稀有であると思う。

 「俺は、本物が欲しい」の9巻も良かったけれど、重要な分岐点になっているのは8巻であるように思う。ここを契機に『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の物語は前半と後半にわかれるような気がしている。

 

10巻はアニメでは駆け足

 10巻はアニメ化においては第11話のマラソン大会の1話分に凝縮されてしまっている。原作ファンにとっては、特にアニメ二期は駆け足でダイジェストっぽくなってしまっているという意見を聞くが、それを象徴するのがここにあるように思う。マラソン中における葉山との会話も大幅カット。アニメーションの完成度もあまり高くなかったような…。

 いずれにしても、原作10巻はアニメ化に際して大幅カットされたシーンが盛り沢山であるので、アニメファンでも楽しめるだろうと思う。

 

原作のアニメ対応話

▲7巻、修学旅行編。アニメ二期第1話、第2話。第2話の竹藪での告白シーンはエモーショナルで非常に良かった。

 

▲個人的に好きな8巻。生徒会長選挙編。アニメ二期第3話〜第5話。

 

▲9巻、クリスマス合同イベント編。アニメ二期第6話〜第10話。神回「俺は、本物が欲しい」はここに収録。

 

▲10巻、文理選択&マラソン大会編。アニメ二期第11話。アニメでは大幅カットされたシーン多数。

 

▲11巻、バレンタイン&水族館デート編。アニメ二期第12話、第13話。おおよそ原作通りにアニメ化されているものの、原作でしかわからないこともある。特に賛否両論且つ難解な第13話ラストシーンを深く捉えるためには必読。私自身、原作を読んでみることで大分印象が変わった。

 - アニメ, やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。