飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

君もデロリアンを作れる!『タイムマシンのつくりかた』ポール・デイヴィス【著】

      2016/11/20

タイムマシンのつくりかた (草思社文庫)

 「タイムマシンさえあれば」と唇を噛んだことはないだろうか。
 私は殊更、大袈裟な事象においてそうやって悔しい思いをするほどまでに人生経験が豊富ではないため、或いは、もう一度人生をやり直すなんて面倒で仕方がないし、未来の自分なんて怖くて知りたくもないので、泣きながらタイムマシンを切望するシーンには直面してはいないが、例えば、電車に乗り遅れてしまった時や食あたりをしてしまった時などには「ああ、戻れたらな」と思うことはある。

 不運が重なるなどして、もはやどうすることもできない状況に追い込まれてしまった人にとっては三つの選択肢がある。
すなわち、

 一、開き直る
 二、死を覚悟する
 三、タイムマシンに乗り込む

 賢明な者であればあるほど三番を選び取る傾向が高いことがわかっている。過去に戻ってなかったことにしてしまえば、誰にも迷惑をかけずに全てが大団円に収まる。
 ただ、唯一にして重大な問題が我々の前に立ちはだかっていることにお気づきだろうか。
 タイムマシンなんて持っていない。

 だが、安心したまえ。ここに一冊の本があり、そこにはタイムマシンの詳細な作り方が掲載されている。誰にでも作成できるよう、平易な文章で書いてさえある。たった200ページの文庫本だ。
 我々は救われた。権威ある物理学者であるポール・デイヴィス著『タイムマシンのつくりかた』(草思社文庫)が手元にあれば、全てのピンチを帳消しにできる。電車に乗り遅れたとしても代わりにタイムマシンに乗り込めば良い。腹を下してもトイレではなくタイムマシンに駆け込めば万事解決だ。
 いや、腹を下してタイムマシンに乗り込んでも、過去の自分が食あたりに遭遇するのを阻止することはできても、自分自身はお腹が痛いままで、タイムマシンが便器のないトイレになるだけか。ま、いいや。

 ともかく、早速作り方を見ていこう。たったの4ステップにてタイムマシンは完成する。

 

ステップ1=衝突器で10兆度の高温を作る

 いきなりの無理難題だ。
 2012年にアメリカの研究者が行った実験による4兆度が、人類が作り出した最高の温度だそうなので(2015年3月時点)、我々一般庶民にとっては少しハードルが高いかもしれない。
 ただ、10兆度の高温を作り出すことがタイムマシン実現への第一歩であるということはわかっているのである。
 ゴールが明確に設定されていれば、あとはそこへ向かって走るだけだ。電車に乗り遅れないために全力で疾走するのと同様である。

 
 

ステップ2=圧縮器で高温の塊を圧縮する

 著者はこのステップのかなり早い段階でこう記している。
 「どうすればこれが実現できるのかは明らかではない」
 大事なことなのでもう一度言う、「明らかではない」。
 どうしよう。ゴールが見えない。
 従って、このステップの大部分は推測によって成り立っている。曰く、「爆発的な磁気ピンチ効果(磁気による締め付け効果)が解決策をもたらすのではないかと期待される」そうである。
 期待しよう。

 

ステップ3=膨張器で負のエネルギーを注入する

 負のエネルギーというものについて、ここで説明するつもりはない。なぜならよくわからないからだ。エネルギーが負、つまりマイナスであるとはどういうことなのか、さっぱり見当もつかない。
 代わりに、「負のエネルギーは本当に作れるのか?」という問いに対する著者の力強い返答を紹介しよう。

「できるとも!」

 曰く、負のエネルギーを生み出す方法はたくさんあるが、例えば、たった一枚の鏡を激しく動かすことによっても作り出すことができるらしい。
 これは朗報である。なぜなら、我々は衝突器も圧縮器も持っていないが、鏡なら誰でも持っているからである。さあ、鏡を手に激しく動かしてみようではないか!
 と言いたいところなのだが、最先端の技術を総動員したとしても、タイムマシンを作るために必要な負のエネルギーを確保するには「宇宙の年齢よりもはるかに長い時間がかかるだろう」とのことである。
 ぬか喜び。

 

ステップ4=差分器で時間差を作る

 いよいよ最後の段階だが、我々はまだ10兆度の高温さえ作り出せていない。しかしながら、万が一作り出せた人もいるかもしれない。参照されたし。
 ステップ3まではワームホールという二つの異なる時間を繋ぐ抜け道を作り出す作業だった。このワームホールは光よりも速い速度で通過することになるため、タイムトラベルが可能であるというわけだ。
 このステップ4では、差分器によってその時間差を恒久的なものに仕立て上げ、タイムマシンという装置を確立することが要請されている。
 実現可能だろうか? どうなんだろう。ずいぶん難しそうだな。

 
 いかがだっただろう。
 こんなにも絶望的に長く感じるたったの4ステップは他に類を見なかったのではないだろうか。
 それでも私のタイムマシンに対する憧れは止まない。タイムマシンが完成したいつかの未来にタイムマシンに乗って今すぐ行きたいくらいだ。

 
こちらもおすすめ:

▲科学雑誌『ニュートン』でも絶賛されていたタイムトラベルものの傑作。

 - やんごとなきハウツー本