飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

仮想通貨における「ブラック・スワン」が現実に起きてしまった

   

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質

「ブラック・スワン」とは極めて甚大であるにも関わらず誰もが予想できない出来事、といったような意味である。本書ナシーム・ニコラス・タレブ著『ブラック・スワン』はリーマンショックを予見したと話題になった。2018年、私はちょうどその『ブラック・スワン』を読んでいたところであった。

私は趣味で仮想通貨投資も行っていて、頻繁にではないが思い出した時にチャートを見たり、何かおもしろそうなコインはないかなと探してみたりもしていた。2018年に入って仮想通貨市場は暴落と緩やかな上昇が繰り返されており、長期投資として保有しているので全く悲観はしていないものの、あんまり下がり過ぎたら不安になるなーなんて考えていた。

で、事は起こった。1月26日。コインチェックにおけるNEM580億円分流出事件である。そう、これこそ「ブラック・スワン」だ。

 

黒い白鳥とは?

「白鳥は白いのが常識。黒い白鳥なんているわけないだろ」と誰もが信じて疑わなかったところ、オーストラリアで黒い白鳥が発見された、というのが語源である。「信じて疑わなかった」というよりは、誰もが想像さえしなかったというのが正しいかもしれない。

白鳥がいる、それは考えるまでもなく白い、おわり。だけど、突然に黒い白鳥が発見された。まさか、と誰もが虚を突かれたという話。

これをナシーム・ニコラス・タレブは現実世界において想像しやすいように本書において記述してくれている。下記は『ブラック・スワン(上)』P235〜237の要約である。カジノにおける黒い白鳥の例だ。

 

カジノにおけるブラック・スワン

カジノの経営は客の誰か一人が偶然にも大勝ちしたくらいでは傾かないようになっている。予測の範疇だからであり、そのようにレートは組まれている。誰かがたまたま大勝ちしたらカジノはきっと「おめでとう」と言うだろう。

カジノにとってのリスクはイカサマだ。誰がどのようなイカサマを使ってくるかわからない。そのため、カジノ側はイカサマをすぐさま見つけて排除できるように多額の予算を投じて高度で洗練されたセキュリティシステムを運用している。

さて、カジノにとってのブラック・スワンは思いもよらない客が堅牢なセキュリティをかいくぐって巨額の大勝ちをすることだろうか? いや違う。カジノにとっての本当の黒い白鳥は下記の実例である。

 
1. ショーに出ていたトラが突然に出演者に襲いかかり、出演者は再起不能、1億ドル近い損失を出した。そのトラは調教師たる出演者に育てられたのであり、観客席に飛び込むことは万が一にあっても、出演者に襲いかかることなんて全く想定しておらず、保険さえかけていなかった。

2. カジノの別館を建設中に建設業者がケガをした。慰謝料の少なさに不満を持った彼は、支柱に大量のダイナマイトを仕掛けてカジノを吹き飛ばそうという計画を立てていた。計画は頓挫したが、現実のものになっていたかもしれない。

3. 事務員のミスによって税務署に何年間にも渡って納税のための書類が送られていなかった。そのためにカジノは巨額の罰金を支払う羽目になった。

4. 他にも予測不可能な出来事は想像以上にたくさん起きている。

 
これらの予測不可能な事態がもたらした損失は、予測可能な例えば高度なセキュリティシステムへの投資金額やイカサマによって考え得る損失金額などの実に1,000倍にも及んでいる。リスクは常に不確実で、予測の外側から突然にやってくる。そして予想もしないほどの大きな損失をもたらす。

 

仮想通貨における予測の内側(私の例)とブラック・スワン

仮想通貨は極めてリスクの高い投資であると言われているのは周知の通りである。私もそのことはわかっていた。投資の素人たる私が例の580億円NEM流出事件以前に仮想通貨のリスクについて考えていたことは下記のようなことである。

 
・仮想通貨はボラリティが高い。特に今年に入ってからは何度も暴落しているから、いきなり価値が半分になることもあるかもしれないな。

・自分が所有している銘柄が暴落してほぼ無価値になってしまったら嫌だな。

・所有しているマイナーな銘柄がどこの取引所でも上場廃止になったら無価値になってしまうな。

・送金にあたってGOX(コインが消失)する危険があるから慎重に行わなければならないな。

・不正アクセス防止のために二段階認証は重要だな。それさえやっておけばとりあえず大丈夫だろ。

・ウォレット保管と取引所保管とどちらが安全なのだろう?(と思いながらよく調べなかった)

・ハッキングのリスクは確かにあるけど、飛行機事故くらいの低い確率だろ。まして自分の乗っている飛行機が事故を起こすなんて天文学的数値だから自分にはあまり関係ないな(本当にそう思っていた)。

・海外の取引所は何があるかわからないからコインを預けておくのは怖いな。

 
なんてぼんやりと考えていたら日本の取引所で人類史上最大の盗難事件が起きたのである。私も当該取引所にNEMを少し所有していたが、安全のためにウォレットに移そうだなんて微塵も考えていなかった。本当に全く考えていなかったのだった。

まさに『ブラック・スワン』を読んでいるところだったと言うのに、まさか自分にそれが降りかかるなんて思いもしなかった。で、起こった後に「うおー、これが黒い白鳥ってやつかー」と追認したのだった。

 

まとめ

「だからウォレットに移しとけって言っただろー」「仮想通貨は危ないと思ってたんだよねー」と事件が起こった後に言うのは簡単である。それらは後付けで理由をこじつけているだけであって、予測していたのとは違う。未来の予測なんて誰にもできない。誰もが予測していない時に、想像を遥かに超えることが起こる。

私たちにできることはリスクマネジメントを万全にしておくことはもちろんだけれど、想像もしないことが常に不定期に起きることを頭の中に入れておくことと、事が起きた後に訳知り顔で「こうなる予感がしたんだよねー」なんて無知をさらけ出さないことである。

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