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【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

仮想通貨投資に役立つ行動経済学用語集の備忘録(2/5)利益と損失に関わるもの編

      2018/05/06

行動経済学における初期の重大な発見は「人は損をするのを過剰に嫌う」ということであった。従来の経済学では「10,000円の得」と「10,000円の損」は同程度の感情を引き起こすものとされていた。額面が同じなのだから人が本当に合理的に思考するならばそうなるはずである。

しかし、実際は違った。「10,000円を得した喜び」よりも「10,000円を損した悲しみ」のほうが強いのである。

想像してみてほしい。道端で10,000円を拾って「やったー!」と思う気持ちと、財布から10,000円札が風に吹かれて何処かに飛んでいってしまって「マジかよ…」と思う気持ちとどちらが大きいだろう。さらに言えば、投資やギャンブルで100万円の利益を上げることができる期待感と、100万円を溶かしてしまう恐怖感と、どちらが大きいだろうか。

このような「損をするのを過剰に嫌う」という習性は様々な私たちに様々な不合理な行動を唆す。以下で見ていこう

 
関連記事「仮想通貨投資に役立つ行動経済学用語集の備忘録」(全5回):
(1/5)現在と将来に関わるもの編
・(2/5)利益と損失に関わるもの編(この記事)
(3/5)結果に関わるもの編
(4/5)見たものが全て編
(5/5)その他の認知の誤謬編

 

プロスペクト理論(損失回避バイアス)―人は損をするのを過剰に嫌う

損失から被る苦痛が、同じ規模の利得から得られる喜びを上回る人間心理は、損失回避と呼ばれる。(略)損失がもたらす痛みは、同等の利得を手に入れる喜びの2倍も強く感じる。

『行動経済学の逆襲』リチャード・セイラー(P62)

冒頭で述べた通り、人は得をすることが好きだが、それ以上に損をすることを嫌う。これをエイモス・トヴェルスキーとダニエル・カーネマンは「プロスペクト理論」と名付けた。人は絶対に損をしたくないのである。これは人間の行動を規定する上で非常に重要となる考え方である。

相場が上昇して得をしているときには悠長に構えていられるのに、相場が下落傾向になって損失が出ているとなると不安になって必要以上に焦ってしまうのはそのためである。で、これ以上は損を出すまいと売ってしまう。全ての損切りが無用であるとは限らないけれど、パニック売りをしてしまった後に相場が再び上昇してくるというのはよくあることだ。

損が出ている時にはこのプロスペクト理論を思い出してみると、自分の心情を客観視することができ、パニックを避けることができるかもしれない。

 

ブレークイーブン効果 ―損失を挽回するためなら大きな賭けに出てしまう

ふだんはきわめてリスク回避的な人であっても、大きな損失を出しそうになっていて、それを取り戻すチャンスがあるときには、どんでもなく大きなリスクをとりにいこうとする。この人間心理はぜひとも覚えておいたほうがいい。みなさんもご用心あれ!

『行動経済学の逆襲』リチャード・セイラー(P130)

人は損をするのを極端に嫌う。この心理を一歩進めて考えると、大きな損失を出してしまっている人はそれを挽回するチャンスが与えられるとリスクを取りに行く傾向にある。これを「ブレークイーブン効果」と言い、実験では損失を挽回するためになんと過半数(!)の被験者がリスクを取りに行ったという結果がある(前掲書:P128)。パチンコで負けを挽回するためにどんどんお金を突っ込んでしまうのはこの典型だろう。

仮想通貨投資は極めてボラリティが高い(価格変動が大きい)ので、時に思いがけず大きな損失を出してしまうことがある。そんな時に「ブレークイーブン効果」が唆す行動としては下記が考えられる。

 
・損失を取り返すために暴落時に大量購入する(ナンピン買い)
・値段が上がりそうな他のコインを大量購入する
・期待できそうなICOに巨額の投資をする
・ハイレバFXに手を出す

 

サンクコストの錯誤 ―戻ってこないお金にとらわれすぎてしまう

経済学者はサンクコストは無視しろとアドバイスする。昔のことわざで言うところの「覆水盆に返らず」や「過ぎたことは水に流せ」というやつだ。しかし、それが難しい。

『行動経済学の逆襲』リチャード・セイラー(P104)

「サンクコスト」とは、既に使ってしまってもう取り戻すことのできないお金のことである。「サンク」とは「sunk=埋没」のこと。人はこのサンクコストに必要以上にとらわれてしまって、判断を誤ってしまう。これを「サンクコストの錯誤」と言う。

この例は枚挙に暇がなく、投資だけでなく普段の生活から会社経営まで様々なところに見られる。

 
・既に買ってしまったチケットを無駄にしないために、体調が悪いのに無理をして出かける。
・設備投資費を無駄にしたくないために、赤字にも関わらず店を閉めることができない。
・ずっと一つの夢を追いかけて努力を支払ってきたので、生活が苦しくなっても諦めることができない。
・コストコに年会費を払っているので、それを回収するために無理をしてでもコストコで買い物をする。
・運動の習慣をつけるために、ジムに年会費を払う。年会費を無駄にしたくないのでジムに定期的に通うようになる(ポジティブな効用)。

 
投資においては「なくしてもいいお金でやるべき」「投資した金額は忘れるべき」とよく言われるが、これはまさにサンクコストにとらわれすぎないようにするためであると考えることができる。「人は損をするのを嫌う=サンクコストを回収したい」と考えるために、損失が出てしまうと前述のように必要以上に不安になってしまい、平静さを失ってしまうからだ。

 

ハウスマネー効果 ―儲かったお金を自分のお金だと考えることができない錯覚

「ハウス」とはカジノの意味で、カジノで勝って手に入れたお金を自分のお金とは信じられず、カジノのお金でギャンブルをしているように感じてしまうのである。

『行動経済学の逆襲』リチャード・セイラー(P126)

本来、ギャンブルや投資における含み益は自分のものである。10万円儲かったとすれば、それは10万円の貯金があると考えるべきだ。だけど、人はその利益を自分のお金ではないように扱ってしまう。具体的には、その10万円で更に大きな賭けに出たり、自分のお金では手を出さないようなギャンブルに突っ込んだりしてしまう。これをハウスマネー効果という。

これは「メンタル・アカウンティング(心の会計)」の一種であるとされる。人は同じお金でも心の中で無意識にジャンル分けをしているということ。普段の給与では買わないようなものを、ボーナスを貰った途端に買ってしまうのはメンタル・アカウンティングの作用によるものだ。

これには誰もが思い当たる節があるのではないだろうか。私も仮想通貨において、含み益でわけのわからないコインを遊びで買ったりしていた。自分の貯金から捻出したお金では絶対に買わなかっただろうコインだ。「ハウスマネー効果」が悪いというわけではないけれど、必要以上に気が大きくなってしまうのは事実だ。

 

確実性バイアス(確実性の効果)

95%→100%への変化もまた質的な変化であり、こちらは「確実性の効果(certainry effect)」という大きなインパクトをもたらす。「確実」と「ほぼ確実」はまったくちがうもの。

『ファスト&スロー(下)』ダニエル・カーネマン(P147)

確実性バイアスとは、人は確実に得をすることに価値を見出してしまうということである。

例えば、「確実に1,000円もらえる」ゲームAと「50%の確率で5,000円をもらえる」ゲームBがあるとすれば、期待値が2,500円であるゲームBを選ぶのが合理的である。しかし、人は損をするのを嫌い、確実に得をすることに魅力を感じるのでゲームAを選ぶ人がそれなりに存在するということ。

 
確実性バイアスは投資に手を出しづらい理由にもなる。インデックス株式投資によって長期的に見れば年利3〜5%は堅いとは言え不確実である。しかし、銀行にお金を眠らせておけば確実にその金額は確保される。

また、私たちが騙されてしまうのは「100%儲かる」という話である。「99%儲かる」では足りなくて「100%確実に儲かる」である。心の中で「100%なんてあるわけないだろ」と思いつつも何か気になってしまう。で、実際に100%儲かる話なんてないので盛大に騙されることになるのだった。

 
仮想通貨においても確実性の効果を突いたと思われる事象が幾つか存在する(詐欺ではない)。

・応募すれば確実にコインが貰える「airdrop」
・同様にして、応募すれば確実に少額のコインがウォレットに送付される「蛇口(faucet)」
・コインをウォレットに寝かせておけば勝手に増えていく「PoSマイニング」

 
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参考文献:

 - コラム