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仮想通貨投資に役立つ行動経済学用語集の備忘録(4/5)見たものが全て編

      2018/05/06

仮想通貨投資に役立つ行動経済学用語集の備忘録(4/5)見たものが全て編

Photo by Steve Corey

 
とある殺人事件において「長年の勘で、こいつがホシ(犯人)に違いないと思った」(警視庁捜査一課長)と逮捕されたネパール人の被疑者は15年間拘禁された後に再審、無罪が言い渡された。「刑事の勘」という主観が冤罪を生んでしまったのである(参考文献『入門 犯罪心理学』原田隆之)。

人は自分で見たものや自分の経験を過剰に重視して物事を考えてしまう。客観的に考えることが重要であるとは知っていても、なかなか難しいようである。

賢明な人は物事を「メタ化」して思考することができると言われる。「メタ化」とは「一段階上の」というような意味であり、自分の思考や主観を上から見下ろすように客観視することである。下記に示す認知バイアスについて知っておくことによって、思考が主観に偏らないように注意する一助になる。

 
関連記事「仮想通貨投資に役立つ行動経済学用語集の備忘録」(全5回):
(1/5)現在と将来に関わるもの編
(2/5)利益と損失に関わるもの編
(3/5)結果に関わるもの編
・(4/5)見たものが全て編(この記事)
(5/5)その他の認知の誤謬編

 

「見たものが全て」効果 ―知っている情報から理想のストーリーをでっちあげること

手持ちの限られた情報を過大評価し、ほかに知っておくべきことはないと考えてしまう。そして手元の情報だけで考えうる最善のストーリーを組み立て、それが心地よい筋書きであれば、すっかり信じ込む。逆説的に聞こえるが、知っていることが少なく、パズルにはめ込むピースが少ないときほど、つじつまの合ったストーリーをこしらえやすい。

『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン、P352-353

「見たものが全て」効果とは、手持ちの情報だけを手がかりにもっともらしいストーリーをこじつけてしまうことである。そのストーリーが正しいという保証はどこにもないけれど、自らにとっては理路整然としているように思えるので安心し納得してしまうのである。

人の本能として「物語を作り上げること」と「因果関係を追究すること」が挙げられる。これらが相乗効果をなすと「見たものが全て」であると強く思い込んでしまう。

 
仮想通貨という新興で難解な投資対象においては、この「見たものが全て」効果が大いに発揮されている事例が散見される。仮想通貨投資は「投資の知識」と「テクノロジーの知識」を要するものだけれど、手軽に投資できるために私を含めた殆どの人が何が何だかわからないままに情報に踊らされがちである。

「○○がそう言っている」「○○という秘密裏の情報がある」「○○取引所に○○コインが上場するらしい」「○○にそう書いてあった」などのあまりにも断片的な情報を無理矢理に一つのストーリーとしてこじつけやすいのである。

 

利用可能性ヒューリスティック ―思い出しやすいことが重要だと認識してしまう

「CEOはこのところ続けざまに商談を成功させた。そのおかげで、失敗した案件のことはとんと思い出せないらしい。この利用可能性バイアスがCEOの自信過剰につながっている」

『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン、P243

利用可能性ヒューリスティックとは、自分が思い出しやすい(利用可能性が高い)ことこそが重要であると誤認してしまうことである。これは非常によくある身近で豊富な事例で説明できる。

かつて酒鬼薔薇事件が世間を震撼させた頃、当該事件の他にも視聴者の興味を引きそうな凶悪な少年犯罪が立て続けに報道された。そのため殆どの人が「少年犯罪は増え、凶悪化している」と認識していた。しかし、統計を見ると実際には「少年犯罪は減少傾向にあり、凶悪化もしていない」のだった。テレビで連日報道されているという「思い出しやすさ」に直感が影響されたのである。

他にも、何か事業を始めようとする際「飲食店(特にラーメン屋)」を選んでしまうことが挙げられる。事業の成功のしやすさではなく、「街でよく見かけるから自分でもできるのではないか」と思い込んでしまうことによるものだ。飲食店の廃業率は他業種に比べて高い(日本政策金融公庫「新規開業パネル調査」より)にも関わらず。

 
仮想通貨においては、例えばテレビなどで特にポジティブな情報が盛んに報道されている時には「盛り上がっている」と思い込んでしまい、報道されなくなると「もう終わった」と感じてしまうことがある。ブロックチェーンの将来性と報道の頻度やポジティブさとは何の関係もない。

あるいは、よく名前を聞くコインについつい投資をしてしまう(何だかよくわからなままにとりあえず最初はビットコインを買う)ことも利用可能性ヒューリスティックの範疇である。

 

確証バイアス ―自分が思っていることを裏付ける証拠しか集めようとしないこと

人は仮説を支持する証拠だけを探し、反証する証拠を探そうとしない傾向がある。

『行動経済学の逆襲』リチャード・セイラー、P247

確証バイアスとは、自分の信じる情報にしか耳を貸さないこと、自分が思ったストーリーを実証するような情報しか探さないことである。

インターネットの特徴として主体的に物事を調べることができることが挙げられるけれど、そうなると自分の信じる情報や興味のある情報しか取り入れなくなってしまうことが弊害として指摘されているが、それはまさに確証バイアスのことを言っている。

 
仮想通貨においては特定のコインを支持する熱狂的なコミュニティが形成されていることが多く、彼らは自らが応援しているコインの価値が上昇するためのポジティブな証拠しか集めない上、万が一何らかのネガティブな情報があったとしてもなかなか信じないし、それを情報として発信しようとはあまりしない。

こうして現状、仮想通貨界隈は様々な有象無象の情報が入り乱れて何が何だかわけがわからないことになっている。投資に関する確証バイアスを避ける最も有力な方法は「未来のことは誰にもわからない」と居直ることであると私は考えている。

 

偽の合意効果 ―自分が関心のあることは他人も関心があるに違いないと思ってしまうこと

人間は一般に、他の人も自分と同じ選考を持っていると考える傾向がある。

『行動経済学の逆襲』リチャード・セイラー、P389

偽の合意効果とは、自分が好きなものは他人も好きに違いないと思い込んでしまうことである。

前掲書によれば、iPhoneが登場して間もない頃に学生にアンケートをとったところ、iPhoneを持っている人は他の多くの学生も持っているに違いないと推測し、iPhoneを持っていない人はiPhoneを持っている学生は少ないと推測したという。

 
仮想通貨においては今や数千種のコインが存在する群雄割拠の状態である。いろいろと調べているとどのコインにも将来性があると感じられてしまってどのコインも欲しくなってしまうのだが、これは「自分の興味を示しているコインは他の人も興味があるに違いない」という偽の合意効果の影響を孕んでいる。

これはチャートを見ていても同じことである。気になっていたコインの価格が下がったのを見つけると何だか焦るような気持ちになってしまうのは、他の人も価格が下がったのに目をつけていて早く買わないと価格が上がってしまうのではないかと思い込んでしまうからである。

 

処理流暢性(認知容易性)―わかりやすいことだけを信じてしまう

認知が容易なときは、あなたはたぶん機嫌がよく、好きなものを見ていて、聴いていることをもっともだと思い、直感を信用し、慣れ親しんだ心地よい状況だと感じている。そんなとき、あなたはおそらく少々だらけていて、あまり深く考えようとはしていないだろう。

『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン、P111

処理流暢性(認知容易性)とは、わかりやすい(認知が容易な)ものを真実だと信じてしまい、わかりにくいものを敬遠してしまう現象である。わかりやすいものは直感で判断できるために受け入れやすく、わかりにくいものは熟考しなければならないので受け入れ難いために起こる。

処理流暢性の典型的な例に「単純接触効果」が挙げられる。よく耳に入る曲をいつの間にか好きになっていたり、よく会う人とは仲良くなりやすかったりする現象である。「好きな人と仲良くなって付き合いたい」に対するおおよその恋愛アドバイスにおいては「長いLINEのやりとりを1週間おきにするよりも、ごく短いやりとりを週5くらいでしなさい」と教えているのはこのためである。相手にとってLINEの頻度の高さが認知を容易にし、知らず知らずのうちに好感を抱くのである。

 
人はわかりやすいものを好む。経済学を俯瞰した難しげな500ページの書物よりも、『年収1億円を稼ぐための誰でもできる3つの方法』という150ページの本のほうが売れて好感が持たれるのもそのためだし、「投資をしないと損をする!」よりも「投資をしないと損をする!」のほうが真実味があって危機感を煽られる。

 
また、処理流暢性の投資への影響においては興味深い事例がある。

もし証券会社が「発音し易い名前の会社に投資すべき」とアドバイスしたら,真面目に仕事しろと思うでしょう。しかし,研究者達がNY株式市場の約700銘柄を90~04年まで調べた所,最も簡単な名前の10企業は最も難しい名前の10企業に比べ初日で11%,年間では33%,多く儲けていました。

「処理流暢性」ってなに?→「わかりやすい=真実」にみえてしまう心理です。|togetter(@podoronのツイート)

 
これを仮想通貨に応用すれば、当然の如くわかりやすい名前のコインに投資したほうが有利そうということがわかる。そういう意味では「ビットコイン」は最高のネーミングだ。また、個人的には「イーサリアム」はなかなか覚えづらいしよくわからない名前なのでなかなか価格が上がらない一因でもあるかもしれないと思っている。

もし、何らかの儲け話について猿でもわかりそうなシンプル説明がされていて「○○コインは半年以内に絶対に儲かる!」なんて書かれていたら、期待よりも警戒すべきだ。それが本当に儲かるかどうかはわからない。わからないからこそきちんと調べる必要がある。

 
関連記事「仮想通貨投資に役立つ行動経済学用語集の備忘録」(全5回):
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参考文献:

 - コラム