飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

死ぬまでに読みたい海外文学の傑作10選の備忘録

   

kaigai-bungaku

 
誤解なきように予め書いておくと、私はこれから紹介する本をまだ読んでいない。だけど、死ぬまでには読みたいと思っている。そういう意味での「死ぬまでに読みたい海外文学の傑作10選」であり、個人的な備忘録としての意味合いが強い。

ただ、なぜ読みたいと思っているかときちんと書いたつもりなので、新たな積ん読の足しになれば幸いである。

 

1.『1984』ジョージ・オーウェル

アメリカという国にトランプ大統領が誕生して以降、様々なメディアでこの『1984』が引き合いに出されて語られるのを目にするようになった。「世界は『1984』のようなディストピアに向かっているのかもしれない」などと。

今後の世界を占う上で最重要なフィクションであることは間違いない。ちなみに村上春樹『1Q84』というタイトルは本書を下敷きにしていると思われる。

 

2.『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ

「サディズム(=S)」という言葉がマルキ・ド・サドという作家に由来し、「マゾヒズム(=M)」という言葉がザッヘル・マゾッホという作家に由来するように、文学が元となって名付けられた用語は意外と多い。最も有名であるのが「ロリータ・コンプレックス(=ロリコン)」の由来となった本書『ロリータ』であろう。

そのセンセーショナルな題材から最も誤解の多い作品でもある。はっきり言っておく。本書『ロリータ』は著者の性的倒錯や性的欲求、自己顕示欲を満たそうとして書かれた作品ではない。著者であるナボコフは20世紀最大の文学者であり、文学の冒険者でもあった。例えば『青白い炎』は「詩篇とその注釈」だけによって書かれた文学作品である。

『ロリータ』の扱う題材は賛否両論あるだろうけれど、作品自体は恋愛小説であり、ロードノベルであり、ミステリー小説であり、文学への挑戦である。読まずに「どうせ気持ち悪いロリコン小説だろ」と先入観で切り捨ててしまうのはあまりにももったいない。

 

3.『黒壇』リシャルト・カプシチンスキ

「この世には2種類の女がいる。カプシチンスキを読んでいる女と読んでいない女だ」とフランスのジャーナリストが言ったと雑誌BRUTUSに書いてあった。

『黒壇』は一流ジャーナリストとしてのアフリカ体験記みたいなもの。「世界文学全集」という非常にお堅く見えるシリーズとして刊行されているので足踏みしてしまうけれど、常識では考えられないことが次々と起こるアフリカという場所を非常に美しくフェアな文章で描いているとのこと。世界を広げるためにも死ぬまでには読みたい。

 

4.『山椒魚戦争』カレル・チャペック

私はかつてサンショウウオと同じ両生類であるイモリを長きに渡って飼育していたことがある。のんびりとしていて何を考えているのかさっぱりわからないところが大変に良い。飼育が楽なところも良い。

本書『山椒魚戦争』は知能を持ったサンショウウオが人間を制圧つしつつある状況を描いたSF小説。こんな奇想天外な発想はどこから生まれるのだろう。

 

5.『コレラの時代の愛』ガルシア・マルケス

コロンビア出身のノーベル文学賞受賞者にして、世界文学に多大なる影響を与えたガルシア・マルケス。長編『百年の孤独』は20世紀文学の最高傑作のひとつにして、タイトルがとてもかっこいい文学作品でもある。私は半分くらいで挫折してしまったのでこちらもいつか読みたい。

で、ガルシア・マルケスのもうひとつの傑作が『コレラの時代の愛』である。映画化されたものは観た。純愛作品として知られているが、果たしてこれは純愛なのだろうかという論議に用いるのも有用。

私としては本作は「病気としての恋 vs 獰猛な病気であるコレラ」の対立が愛に昇華されたという枠組みで論じたいと思っているのだが、そのためにはまずは原作を読まなければならないのだった。

 

6.『失われた時を求めて』マルセル・プルースト

「20世紀文学の最高傑作」には色々あるのだけれど、よく言われるのは『ユリシーズ』(ジェイムズ・ジョイス)と本書『失われた時を求めて』(マルセル・プルースト)が双璧であるというもの。

どちらも1万回のあくびをもってしても太刀打ち出来ないほどの長い物語なのだが、特に『ユリシーズ』の方は最初の1ページ目から難解で何が書いてあるのかよくわからない上に、最後の100ページほどはよく日本語に訳したなと思えるほどの地獄になっている。

それに比べて『失われた時を求めて』は物語が常軌を逸して長大である上に、フランス文学にありがちな「ひとつのセンテンスが異様に長い」という病気も発症しているものの、『ユリシーズ』に比べればまだ読みやすそうであると思っている。読んでいないので勝手に思っているだけである。

 

7.『地図と領土』ミシェル・ウエルベック

フランス文学のパンクスピリッツことミシェル・ウェルベックである。パンクすぎてノーベル文学賞は受賞できないのではないかと囁かれていると聞いたことがある。同著者の『服従』は2015年の「シャルリー・エブド襲撃事件」を予見したと話題になった。

また、『ある島の可能性』というかっこいいタイトルの長編小説もあるけれど、立ち読みしたところ1ページ目からとんでもないことになっていたので、まずはソフトであると思われるこの『地図と領土』から読もうと思っている。

 

8.『ドン・キホーテ』セルバンテス

文学の名作というと堅いイメージがある。賢い人が読むものだろ、みたいな。『ドン・キホーテ』は紛れもなく文学史上の傑作なのだけれど、簡単に言ってしまえばギャグ小説である。

あらすじは「騎士道物語を読みすぎて自分を騎士だと勘違いした冴えない男が旅に出る話」。「騎士道物語」という難しげな単語が出てくるので敬遠してしまいがちだけれど、現代に置き換えると下記にようになる。

「ヒーロー物の映画を観すぎて自分が世界を救うヒーローと勘違いした冴えない男が世界を救うために旅に出る話」

もっと砕けると下記のようになる。

「ハーレム物のラノベを読みすぎて自分がモテると勘違いしたオタク男がハーレムを築こうと奮闘する話」

こんなの絶対におもしろいに決まってるじゃないか。

 

9.『崩れゆく絆』チヌア・アチェベ

『ビジネス・フォー・パンクス』(ジェームズ・ワット)の中でアチェベはパンク小説家として紹介されている。本書『崩れゆく絆』はヨーロッパによるアフリカの植民地支配をアフリカ目線(アチェベはナイジェリア出身)で描いたものだが、それを受動的な悲劇として提示していないところに革新性がある。

ヨーロッパはアフリカを暴力で支配したと思われがちだけれど、著者の冷静な観察によれば、違う。アフリカの人々がヨーロッパから持ち込まれたキリスト教を進んで受け入れて、自ら生活様式を変化させていったのだと言う。その様が一人の男の人生を通じて描き出される。

物語として読みやすく、おもしろい上に、新たな知見まで得られる素晴らしい本とのこと。早めに読みたい。

 

10.『オブローモフ』イワン・ゴンチャロフ

タイトルの『オブローモフ』は主人公の名前である。オブローモフは無気力で、怠け者で、今で言うニートや引きこもりと呼ばれる存在である。何しろ最初の200ページくらいはベッドから起きてこないらしい。どんだけ怠け者なんだ。映画化されていたのでそちらは観たのだが、やはり最初はベッドから起きてこなかった。

変化を望む者もいれば、変化がストレスになる者もいる。変化を喜んで受け入れるドーパミン過剰な者からすればオブローモフはただの怠け者に映るだろう。

しかし、変化を望まない者は? ベッドに寝ているだけで幸せだという者は? こんな生活じゃ駄目だと思いながらも、新しい世界に飛び出す勇気が持てない者は? そういう者はきっとオブローモフと友だちになれるだろう。

ちなみに、この小説自体よりも本作を軸に社会批評がされている『オブローモフ主義とは何か?』(ドブロリューボフ)のほうが有名である。

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