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戦わないで勝つ!生き延びるためのフリーランス「弱者の戦略」5ヶ条

   

戦わないで勝つ!生き延びるためのフリーランス「弱者の戦略」5ヶ条

 
大企業が強者であるとすれば、零細企業は弱者である。まして個人で戦っているフリーランス(個人事業主)なんて雑魚である。はい、私のことです。

だけど、強者が常に勝つとは限らないのがおもしろいところ。イオンが郊外にどでかいショッピングモールを建てて集客し、アマゾンがオンラインで多種多様な商品を安く販売しているからと言って、全ての個人商店が潰れているわけではない。

サバンナでは百獣の王ライオンが常に草食動物を脅かし、ゾウは誰も太刀打ち出来ないほどの巨体を備えているけれど、絶滅の危機にあるのは彼らの方だ。強者から逃げ続けているシマウマが絶滅しつつあるという話は聞いたことがないし、齧歯類は世界で最も成功した哺乳類と言われている。

ライオンと直接対決をしたら負けるに決まっている。従って、弱者には弱者なりの戦い方や生き延び方があるのである。本稿においては複数の参考文献を元に「弱者の戦略」を考察していくものである。自分のための備忘録のようなものでもある。

 

1. そもそも戦わない

最も画期的な考え方のうちのひとつに「戦わずして勝つ」(兵法)というのがあると思っている。最高の省エネ戦略だ。誰も戦いたいなんて思っていない。だけど、勝つためには戦うしかないとの思い込みが無駄な兵力の浪費に繋がっている。

「戦わない」ためには何ができるだろうか。例えば、ニッチで生き延びることが挙げられる。ナマケモノは他の動物が食べることのできない毒のある植物を餌としているために食料を独り占めしている。それ故にあまり動き回らなくても良いので外敵に狙われるリスクが低い。誰もやっていない(やりたがらない)ことをやっているという点でナマケモノの戦略は秀逸だ。

大企業などの強者がやりたがらないことを仕事にすることで戦わずして勝つことが可能になる。例えばいま思い付く限りを挙げれば、

 
・組織で運営すると逆に非効率になってあまり儲からない分野
・倫理的にグレーゾーンである分野(大企業がやっているとバッシングを受ける可能性があるが、個人でやっている分には問題にならない分野)
・流行り廃りが激しい分野

 
などが挙げられるだろうか。弱者の戦略は多様性が魅力だ。100人いれば100種類の戦略がある。

 

2. 変化を味方につける ―強者は強いが鈍足である

動物のサイズは大きくなるほど融通が効かなくなると言われている。小回りなどの物理的な融通もそうだし、寿命が長くなることによって世代交代による変化がしづらくなる。

ゾウは寿命が長く身体も大きいので急激な環境の変化に適応しづらいけれど、皆の嫌われ者ゴキブリは世代交代サイクルをぶんぶん回すことによって殺虫剤にすぐに適応してしまう。植物においても、大樹はそこに立っているだけだが雑草は未開の土地にどんどん進出していける。畑や田んぼに雑草はどんどん生えてくるが木が育つことは決してない。

 
これは強者である大企業にも言えることである。大規模に組織化されてしまうことで意思決定の迅速さが損なわれ、新しいことを生みだすことよりも既存顧客の囲い込みにリソースを割くようになってしまう。大企業からはイノベーションは生まれない。小売業界はAmazonを作れなかったし、タクシー業界はUberを、ホテル業界はAirbnbを、映画やテレビ業界はNETFLIXを、アパレル業界はZOZOTOWNを、銀行はブロックチェーンを生み出せなかった。

 
もちろん、個人事業主がイノベーションを起こすことは至難の業である。だけど、強者は「シェアを握っている代わりに鈍足であり、変化に弱い」ということは何らかのヒントになると思われる。弱者としては利益を生みそうな分野に低コストでとりあえず参入してみて、駄目だったらすぐに撤退、儲かったとしても強者が参入してくる前に撤退するという機動力を活かした戦略が可能になる。

逆に言えば、弱者は一箇所に留まることができないことも意味している。弱者によって開拓された美味しそうな分野はすぐに強者によって蹂躙されてしまう。動かないナマケモノの戦略は究極の例外だ。弱者はネズミや雑草のようにすばしっこく動き続けなければならないとも言える。

 

3. 軽装備で戦う ―低コストのライフスタイル

好調な企業が調子に乗って自社ビルを建てると衰退の兆しであるとよく言われる。無用の長物を所有する代わりに負債を抱えてしまい、不自由になってしまうからである。サラリーマンが家を建てることと引き換えに人生の選択肢が狭まってしまうのと同様である(敢えて借金を抱えることで尻に火をつける動機とするというポジティブな効用もあるらしいが)。

 
これは個人的な人生設計の嗜好に過ぎないかもしれないけれど、何の後ろ盾もない究極の弱者である個人事業主は常に軽装であるべきだと思っている。具体的には「借金はしない(ローンを組まない)」「生活コストを下げる」ことである。変化に対応するために。

全ての事業者にとって重要なのはキャッシュである。自由に使える現金。それが全て。特に個人事業主のような浮き沈みが激しい事業者は、激烈に変化する局面を柔軟な機動力で切り抜けるために負債やコストはできるだけ少ないほうが良いように思う。儲かっている時に調子に乗って生活コストを急激に上げてしまうと、氷河期に対応できなくなってしまう。

 
好みの問題である。最近では「今ある現金は全て使うのが成功の秘訣だ」という意見も多く見られるようになってきた。私は性格上、リスクに対応したいと思っているので、今後たまたま収益が伸びることがあっても豪勢な暮らしをすることはないだろう。

 

4. 複雑さを味方につけ、局地戦に持ち込む ―なぜ桶狭間の戦いで織田軍は勝利したか

今川軍は兵力25,000人。それに対して織田軍は兵力4,000人。圧倒的な兵力の差。普通に戦ったら織田軍は負けるに決まっている。だけど桶狭間の戦いと言われる合戦で織田信長は勝利を収めた。弱者の戦略を考える上でこれには3つの要因が考えられる。

1. 一点集中で戦ったこと ―局地戦に持ち込む

今川軍の兵力は25,000人とは言え、進軍中であったために総大将である今川義元を守る兵力は5,000人程度であった。織田軍は義元を討ち取るためにそこに兵力を一点集中させて戦いを挑んだ。結果、兵力は拮抗、織田軍は勝利を収めることができた。

2. 豪雨の中で戦いを挑んだこと ―複雑さを味方につける

普通に戦ったら勝ち目がない状況でも、地形や気候などの複雑さを味方につけることで勝利を呼び込む可能性が高まる。例えば、アマチュアとプロフェッショナルがサッカーの試合をするとして、普通に戦ったら絶対に勝てない。だけど、デコボコのグラウンドで台風が来ている中で試合をしたらたまたま勝てるかもしれない。

織田軍は降り始めた豪雨に乗じて今川軍に戦いを仕掛けた。それが勝因のひとつともされている。

3. 奇襲を仕掛けたこと ―弱者の機動力

織田軍が奇襲を仕掛けて勝利したことはあまりにも有名である。これは上で述べてきた弱者の美徳である変化・機動力・軽装備の賜である。どんな強者にも弱点はある。そこを見抜いて身軽に攻めた故の勝利。

これはビジネスの場合も同じで、弱者の戦略は「隙間を見つけて一点集中で攻める」ことが鉄則である。

 

5. 長時間労働 ―好きなことを仕事にする

本稿の参考文献のひとつである『ランチェスター弱者必勝の戦略』(竹田陽一、サンマーク文庫)の特に後半は「強者に勝つためには長時間労働が決め手だ」ということが強調されており、怠け者の私にとってはちょっと辟易してしまったのだが、極めて論理的に「長時間労働」の意義について主張されているので、確かに納得はできるものであった。誰にとっても時間だけは平等なので、莫大なリソースを持つ強者に戦いを挑むには「戦闘時間(つまり労働時間)」を長くするのが最も合理的な手段であるということ。

 
で、これは裏を返せば「好きなことを仕事にしろ」ということを言っているのだと気づいた。人は嫌なことは長時間できないけれど、好きなことだったら何時間でもできる。嫌なことを長時間することは病気を誘発するけれど、好きなことだったら比較的ストレスは少ないはずである。

スタートアップの創業期の話を読むと「1日2時間くらいしか寝ずに仕事ばかりしていた」というエピソードが必ずと言っていいほど出てくる。これは「君たちも2時間しか寝ないで仕事をすれば成功するよ」ということを言っているのではなく「好きなことに集中していたら結果的に2時間くらいしか寝てなかった」と捉えるべきだろう。

 
何時間働くか、何時間寝るかは個人の自由である。誰だってできるだけ働きたくないし、できるだけ寝ていたい。だけど、好きなことを仕事にすることで労働は労働という観念から解放され、ライフスタイルを糧に飯を食えるようになる可能性を秘めているということだ。

 

まとめ:弱者の時代と私事

社会が不安定だと言われて20年くらいが経つのだろうか。安定した人生設計のために就活生の大企業志向は激しさを増しているとも言われている。皆、強者に憧れている。

しかし、本稿で見てきたように、不安定な時代こそ「弱者の戦略」が生きる。不安定とは複雑さだ。弱者だけが複雑さを味方につけ、豪雨とデコボコのフィールドで生き延びる可能性を高めることができる。不安定だからこそニッチが生まれ、ナマケモノの生きる隙間が与えられる。

 
私事だが個人事業主になって約半年が経った。この先どうなるのかは誰にもわからない。だけど、弱者も悪いものではないと思っている。むしろ弱者であること自体が最高の戦略であると考えている。強者は常に戦わなければ強者の地位を維持することができないけれど、弱者は戦わないという戦略を選ぶことができるからだ。

ライオンはかっこいいから確かに憧れがちだけれど、ゴキブリという飄々とした生き方も悪くないと思うのだった。

 
参考文献:

▲弱者の戦略として名高い「ランチェスター戦略」の解説書。1986年の古い本だが豊富な事例が示されていて今でも役に立つ。

 

▲自然界の弱者はどのように生き延びているのかを解説しながら、実社会での応用も視野に入れて書かれている。これは良書。社会人一年目に読むと視野が広がると思う。

 

▲これからの時代の理想の生き方としての「好きなことに人的資本を全て投入する」という結論が極めて論理的に示されている。感動した。

 

▲動物のサイズに着目して考察、様々なデータが示されている唯一無二の生物学の名著。余談だが、本書を読み終えるとヒトデという生物をちょっと好きになることができる。

 

▲イギリスの新興クラフトビール会社「BrewDog」創業者によるパンクなビジネス書。BrewDogは「既存のビール業界をぶっ壊す」という信念を掲げて創業されたのであり、本書は弱者の戦略の宝庫。「アドバイスは無視しろ」「永遠の青二才でいろ」などの名言もある。読むと自分のやっていることが肯定された感じがして元気が出る。

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