飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

「喫煙者は病気にかかるから医療費を逼迫している(だから増税する)」の嘘

      2018/09/22

kituen

 
たばこ税増税の論拠の一つとして「たばこは病気を引き起こして医療費を逼迫するため」というのがある。

 
1. たばこは病気の原因となる
2. 喫煙者は、たばこを吸っていなければ罹らなかったはずの病気に罹るので医療費を無駄遣いしている
3. だから、たばこに医療費分の税金を上乗せしても文句はあるまい

 
医療費に加えて「喫煙が原因の病気」による欠勤や生産性低下の社会的損失も計上すれば、喫煙者は社会に全く貢献していないどころか、価値がマイナスであるとみなされても反論はできない、ように思える。たばこが病気の原因となるのは事実だから、この論法は明確な説得力を持つ、ように見える。

非喫煙者にとってたばこほど迷惑なものはないからたばこ税増税を歓迎するし、当の喫煙者にとっても「喫煙者ばかり目の敵にしやがって」という感情論以上の言葉は殆どの場合は出てこない。

 
しかし、「たばこが病気を引き起こす」のは事実だとしても、「医療費を無駄遣いしている」が嘘だとしたら? 喫煙者は喫煙によって病気になることによって、医療費をむしろ節約しているという逆の結論に至るとしたら?

以下『資本主義が嫌いな人のための経済学』(ジョセフ・ヒース、NTT出版)より「喫煙者は病気にかかるから医療費を逼迫している(だから増税する)」の嘘を暴いていこう。

 

「喫煙者は病気にかかるから医療費を逼迫している」の嘘:3つのステップ

この嘘を暴くのはシンプルである。覚えておくことは下記3点だけ。

 
1. 人は必ず何らかの病気で死ぬ

2.「喫煙が原因による病気」に罹らないで長生きすれば、他の病気を患う可能性が高まる

3. 喫煙によって罹る病気(肺ガンや心臓発作)は基本的に治療不能であり「安上がりな死に方」である

 
以下でこれらを詳しく見ていこう。

 

1. 人は必ず何らかの病気で死ぬ

読んで字のごとく、人は必ず死ぬ。たとえ、たばこが原因の肺ガンで亡くならなくても他の原因でいつか必ず亡くなる。世界からたばこがなくなっても死は避けられない。ここがスタート地点だ。

 

2. 喫煙が原因による病気に罹らないで長生きすれば、他の病気を患う可能性が高まる

たばこが病気の原因となるのは明らかな事実だから、たばこをやめれば長生きできるだろう。はい、元喫煙者は健康になり、医療費という名の税金も無駄遣いせずに済みましたとさ、めでたしめでたし。とはならない。

「人は必ず何らかの病気で死ぬ」のだから、健康になって長生きしたとしても生涯の中で何らかの病気には必ず罹る。「喫煙による病気に罹りにくくなった」というだけに過ぎない。

え、でも、病気に罹りにくくなったんだから医療費を無駄遣いせずに済んでるんじゃないの? そうはならない。

 

3. 喫煙によって罹る病気(肺ガンや心臓発作)は基本的に治療不能であり「安上がりな死に方」である

その別の死因は何であるにせよ、もっと高くつきそうだ。なぜなら、肺癌は基本的に治療不能であり、心臓発作はきわめて安上がりで手っ取り早い死に方なのだから。ちょっと考えれば、喫煙者は「社会」のお金を大いに節約していることが明らかだ。

『資本主義が嫌いな人のための経済学』(ジョセフ・ヒース、NTT出版、P10)

身も蓋もない言い方をしてしまえば、安上がりな死に方である喫煙に起因する病気で早死にすればそれ以上の医療費はかからないけれど、長生きしてしまえば長生きした分だけ他の病気を治療するための社会的コストが積み重なる。だから、健康と長生きはむしろ医療費を逼迫する要因になり得る、という皮肉がここにあるというわけだ。

私たちは社会的で思いやりのある動物なので健康や長生きを無条件に礼賛するけれど、「社会的コスト」という観点だけに着目すれば、安上がりな死に方でさっさと亡くなってもらったほうが医療費というみんなの税金がかからなくて済むということ。あくまでも「社会的コスト」という観点だけに着目すれば、の話である。

(私を含めた)喫煙者がよく「我々は高い税金を払っているのだから、社会に貢献しているのだ」と言うのを聞くけれど、それはこじつけの論法でなく圧倒的な事実であったことがここでは示されている。「高い税金を払っている」上に「将来的に医療費を節約さえしている」のである。

 

喫煙者は医療費を無駄遣いしていない、けれど

もちろん、「だから喫煙者はさっさと天に召されよ」ということではない。これは倫理的に非常に繊細な議題である。同じような論法で人工透析について過激に語った元アナウンサーがいたことは記憶に新しい。彼はおそらく「社会的コスト」という観点では正しかったが、患者当人やその親族など人の気持ちを全く考慮していなかったことが致命的な間違いであった。

喫煙には受動喫煙の問題もあるので「我々は高い税金を払っているのだから、社会に貢献しているのだ」という論理をそのまま受け入れるわけにはもちろんいかない。

 
本稿においては、少なくとも「喫煙者は病気にかかるから医療費を逼迫している(だから増税する)」という論理が誤りらしいことだけを示した。その先の倫理的な問題については、別の話である。「喫煙者は社会的コストを節約している」とは言え、私の友人などが喫煙によって亡くなったとしたら悲しいことには違いがない。

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