飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

『完全自殺マニュアル』の次に読む5冊の本

      2018/10/31

『完全自殺マニュアル』が自殺を推奨する書籍でないことは自明だが、ここに紹介する5冊の本も同様である。

1.『自殺のコスト』雨宮処凛

「自殺の費用対効果」について淡々と網羅されている稀有な書。「致死量のクスリの値段、自殺者遺族の年金額、電車飛び込み自殺の損害賠償額、自殺物件の下落率、自殺でもらえない生命保険の種類──」。

当然ながら、人は自分が死んだ後を生きることはできない。死んでしまっては後悔さえできない。その「後悔さえできない」ところに自殺の醍醐味が凝縮されているとも言えるが、そもそも死んでしまっては元も子もないのである。

自殺とは感情である。それに対して、コストとは感情以外の何かである。死にたいという究極の感情に対して提示される、冷徹とも言える費用・コスト・カネの羅列は私たちを妄想から現実に立ち返らせる働きがあると信じている。

 

2.『カフカはなぜ自殺しなかったのか?: 弱いからこそわかること』頭木弘樹

フランツ・カフカは仕事をしながら悪夢みたいな小説を書き続けた人であり、究極のネガティブ人間であった。

いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。

ぼくの人生は、自殺したいという願望を払いのけることだけに、費やされてしまった。

ぼくの血は流れ続けることを欲しない。それはまったく頑固です。

カフカは生涯の中で意味もなく去来する「死にたい」という絶望に襲われ続けながらも、結局の死因は結核であった。ネガティブ人間カフカの生き様が私たちに勇気と笑いを与えてくれるかどうかは別として、「こんな人もいたんだな」と思えれば、せめて明日一日だけでも生きていける気がする。

 

3.『ダーウィン賞 ―究極におろかな人たちが人類を進化させる』ウェンディー・ノースカット

ダーウィン賞とは、一言で言えば「常軌を逸して間抜けな死に方をした人に与えられる賞」である。もちろん、受賞した当人は既に死んでいるのでそれを知る由もない。

1994年のダーウィン賞は、コカ・コーラを一本くすねるため、自動販売機からむりやり引っ張り出そうとした挙げ句、倒れてきた販売機の下敷きになって死んだ男に与えられた。

ちなみに、男のポケットには、小銭で3ドルと紙幣で25ドルが入っていた。

12月のある日、ジェイコブ(47)はニュートン市内の自宅で、ベッド脇で鳴り響く電話の音に目が覚め、受話器を取ろうと手を伸ばした。

しかしうっかりまちがえて、実弾を込めたスミス&ウェッソンの38口径スペシャルをひっつかみ、そのまま耳に押しあてて発砲し、あっけなく不慮の死を遂げてしまったのだった。

剣を飲み込む曲芸師が、傘を飲み込んで死亡するという事故が起きた──うっかりボタンを押して、傘を広げてしまったせいである。

 

4.『自殺の歴史』ロミ

人が何かを学ぶとしたら歴史から学ぶしかないのだけれど、人は決して歴史から学ばない。しかし、歴史をただ眺めることならできる。

ロミ『自殺の歴史』は膨大な量の自殺例インデックスである。「自殺という行為への価値観の変遷、実例からテクニック、文学や詩に登場する自殺、自殺とユーモア」など、博覧強記。おそらく世界に一冊の本で類を見ない。良くこんなに集めたな。

例えば、怒っている人を見かけると自分は冷静になれる。自分より酔っ払っている人がいたら、それ以上は酔えない。では、既に死んでしまった人のインデックスを眺めることが私たちに与える影響は? きっとネガティブなものではないはずだ。

 

5.『人生を完全にダメにするための11のレッスン』ドミニク・ノゲース

ダメに自由落下している気がするから、それに抗うために死にたくなるのである。だったら、自ら進んでダメになればいいじゃないか。

そのタイトルが示す通り人生をダメにするための指南書であり、おそらく類書はない。原書はフランスで出版されているのだけれど、はっきり言って、フランス流のブラックジョークみたいなものが織り交ぜられており、笑えるところと笑えない(意味不明で)ところがある。

だけど、本書を本棚に並べておくことで「自分の意志でダメになっているのだ」という自尊心と主体性が喚起され、ダメなりに溌剌としたポジティブな人生を送れるとか送れないとか。

私は本書を人生で最大にダメになっているときにたまたま本屋で見つけて購入し、いまだに本棚に大切に並べてある。何らかの効能があるかどうかはわからないが、とりあえずは生きている。

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