ブッツァーティ短編集『神を見た犬』岩波文庫と光文社古典新訳文庫の比較。どちらを読むべき?

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ディーノ・ブッツァーティ(1906-1972, イタリア)は私が一番好きな小説家のうちの一人である。文庫化されているブッツァーティの短編集には下記の2つがある。

 
1.『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』岩波文庫 脇功(翻訳)

 
2.『神を見た犬』光文社古典新訳文庫 関口英子(翻訳)

 
どちらもタイトルに「神を見た犬」と掲げられているが、所収されている作品は異なる(表題作の「神を見た犬」の他、数編の重複はある)。さて、どちらの文庫を読めばいいのだろうという人のために、双方の特徴を下記で紹介していこう。

 

1.『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』岩波文庫 脇功(翻訳)

■収録作品(計15編)
七人の使者
大護送隊襲撃
七階
それでも戸を叩く
マント
竜退治
水滴
神を見た犬
なにかが起こった
山崩れ
円盤が舞い下りた
道路開通式
急行列車
聖者たち
自動車のペスト

岩波文庫版の特徴

ブッツァーティは「イタリアのカフカ」などとも呼ばれる。人生の「取り返しのつかなさ・変えられなさ・どうしようもなさ」を書かせたら右に出る者はいない。

この岩波文庫版はそんな作品世界を堪能するにはうってつけである。不条理なんて言われることもあるけれど、これは私たちの人生の縮図に他ならない。代表長編『タタール人の砂漠』が気に入ったならこちらも気に入ること間違いないだろう。

個人的には「急行列車」はとても気に入っている。「自動車のペスト」は発想がぶっ飛んでいて、且つ、群集心理を風刺していて好きだ。「なにかが起こった」は「怖い短編」として時々取り上げられるのを見かける。

 

2.『神を見た犬』光文社古典新訳文庫 関口英子(翻訳)

■収録作品(計22編)
天地創造
コロンブレ
アインシュタインとの約束
戦の歌
七階
聖人たち
グランドホテルの廊下
神を見た犬
風船
護送大隊襲撃
呪われた背広
一九八〇年の教訓
秘密兵器
小さな暴君
天国からの脱落
わずらわしい男
病院というところ
驕らぬ心
クリスマスの物語
マジシャン
戦艦“死”
この世の終わり

光文社古典新訳文庫版の特徴

こちらの光文社古典新訳文庫版は主に「神・創造・キリスト教世界観」を基調とした作品が多く収められていると感じた。神の視点から「人間ってやつはまったく…」と嘆息するような物語が多い。最初の短編が「天地創造」であるのは象徴的だ。

それでも「コロンブレ」「グランドホテルの廊下」「呪われた背広」などは私たちの人生に立脚したミクロ視点での不条理物語である。それと、計22編の所収なので1篇1篇が比較的短く、サクッと読むことができる。

 

両者の特徴

・日本語訳はどちらも読みづらいことはなかった。文字も読みやすい。
・重複しているのは「神を見た犬」「護送大隊襲撃」「七階」「聖人たち」の4編である。
・特に「七階」は傑作。「最高の悲劇は最高の喜劇である」という考え方があるが、まさにそれ。

 

で、どちらがおすすめ?

個人的には岩波文庫版『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』のほうが好きである。『タタール人の砂漠』がとても好きなので、その世界観をバリエーション豊かに短編に落とし込んでいる作品が多く収められているのが印象的だ。どれを読んでも面白かった。

 
光文社古典新訳文庫版『神を見た犬』は、創造主視点でのマクロ的な物語が冗長であった印象である。いわゆる「中二病的」とでも言うのだろうか。そのような世界観が好きならおすすめできる。

ちなみに、他の短編集『魔法にかかった男』(東宣出版、長野徹(翻訳))も読んだけれど、創造主視点での短編は殆どなかった。そういう意味ではこの光文社古典新訳文庫版『神を見た犬』は貴重な短編が多数収められているとも言える。

 

まとめ

■初めての人や、『タタール人の砂漠』が好きな人は岩波文庫版『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』がおすすめ。

 
■貴重な短編を読みたい人や、神視点での人間の愚かさを読みたい人は光文社古典新訳文庫版『神を見た犬』がおすすめ。

 
■岩波文庫版が気に入ったなら短編集『魔法にかかった男』もおすすめ。初訳作品多数。ちょっと高いけれど読む価値はある。

 
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