現実的な車中泊ハウツー|『社会不適合で僧侶の究極ミニマル生活 くるま暮らし。』静慈彰

『社会不適合で僧侶の究極ミニマル生活 くるま暮らし。』(静慈彰、飛鳥新社)は「お金がなくても生きていける」系の本としては個人的になかなかのヒットであった。
まず「くるま暮らし」というテーマが珍しく貴重である。そして、ハウツーとして丁寧に書かれている。くるま暮らしに憧れる人や自由になりたい人にとっては、それが自分にとって実践可能かを見定めるためにも有用だ。
下記、『くるま暮らし。』の概要と感想、書かれていない疑問点などについて記述していこう。
内容のメモ
・家賃を7万円とするならば、くるま暮らしなら約半額に生活コストを抑えることができる(2年間で125万円、食費は除く)。
・職業は僧侶。依頼があればクルマで全国へ移動する。およそ週休5日で生活を維持している。
・料理はカセットコンロ。水はタンクに貯める。洗濯は週一でコインランドリー。風呂は身体を拭くなどで対応(僧侶なので髪を洗う必要はない)。トイレはコンビニなどがあちこちにあるので困ることはない。
・郵便は友人宅に届くことになっている。納税はきちんとしている。
・電気はエンジンによる発電&太陽光発電をバッテリーに充電して使用している。電気に困ることはないようだ。
・職務質問をされると厄介なことになるらしい(キッチン用品としての包丁を車載しているため)。
概要と感想
家を持たずに日産「キャラバン」というクルマで生活する僧侶のライフスタイルと半生がかなり細かく書かれている。サクッと読めるものの、内容は濃密な印象を受けた。このような暮らしに憧れる人は読んで損になることはないと思われ、強くおすすめできる。
このような「低コストのライフスタイル」の本やウェブ記事を読むのはかなり好きである。その中でも本書『くるま暮らし。』はメリットとデメリットがきちんと書かれ、暑さ対策や快適な寝床の設え方、電気の供給方法など、生活するためのクルマの改造工程やコストも写真入りで紹介されている。現実性・具体性が重視されており、机上の空論になっていないところが良い。
その他、「風呂はどうするの?」「洗濯は?」「郵便物は?」などクルマで生活する上での細かな疑問にもきちんと対応している。
後半は著者の半生が綴られている。社会不適合っぷりが赤裸々に書かれていて非常におもしろかった。社会に上手に馴染めない人には「こういう生き方もあるんだ」と励みの一冊にもなるだろう。説教臭くないところも良かった。
その他、懸案事項と疑問点、本書に書かれていないこと
クルマを生活の拠点とすることで、不便ながらも低コストで自由なライフスタイルを築くことが可能であることが説得力を持って書かれている。
但し、事故や故障のリスクは考慮すべきだろう。どんなに気をつけていてももらい事故の危険はゼロにはならないし、壊れるときは壊れる。そうなれば、一瞬にして「自宅」がなくなるわけで、路頭に迷うことになることは念頭に置くべきだ。
郵便物の受け取りは友人の善意に依存している。その友人がいなくなった場合や、そもそも親しい友人がいない者はどうするべきかは各々が考えるしかない。また、住民登録はどうしているのかについては記述はない。その友人宅にしているのだろうか。
くるま暮らしは確かに低コストに生活できるが、コストだけを考えるなら地方都市の安い賃貸物件でも同様の低コスト生活は実現可能であると思われる。特に家があることで冷蔵庫に食料の保存ができるので、食費を抑えることができよう。郵便物、風呂、洗濯などの不便さも雲散霧消する。この辺は好みの問題になるだろう。
著者は僧侶としての仕事を請け負って収入としており、これは誰にも真似できるものではない。だけど、私たちもインターネットを駆使すれば不安定ながらもある程度の生活費を稼ぐことは可能であると思われる。
著者の半生によれば、思い付いたことを衝動的に即行動に移すタイプであるようで、このくるま暮らしをずっと続けるかどうかはわからない。ただ、今はこの暮らしを充分に楽しんでいるようだ。衝動的で社会不適合だが、好感の持てる著者だ。
おわりに
私もかつて「くるま暮らし」に憧れ、本気で考えたことがあった。しがらみを解き放つためと、生活の低コスト化のためだ。だけど、いろいろな持ち物を捨てられなかったし、何より「クルマが壊れたら一巻の終わり」というリスク感を拭い去ることができなかった。
『くるま暮らし。』はこのようなライフスタイルの先例、ハウツーの凝縮として非常に有用であると感じた。価値観が多様化する中で、このような生き方があってもいいと思う。
このような暮らしに憧れる人や、社会不適合で絶望している人にとっては期待通りか期待以上の本になるだろう。読んで損はない。
関連書籍:
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