飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

普通のペットじゃ物足りない!『ライオンの飼い方 キリンとの暮らし方』非日常研究会【著】

      2016/11/20

ライオンの飼い方 キリンとの暮らし方 (新潮OH!文庫)

 私が25歳の時、ふと立ち寄った地方の寂れたペットショップにワラビーがいた。カンガルーが小さくなったみたいな動物である。
 魚とか亀とかを眺めるために訪れたのであったため、ワラビーとは大変意外だった。衝撃的でさえあった。だって、路地裏の誰も知らないようなペットショップにいきなりワラビーがいたのだ。
 価格は10万円程度だった。相場はわからないが、安いような気がした。貯金を崩せば買えるな。

 私は家に帰り、真っ先に本棚から『ライオンの飼い方 キリンとの暮らし方』を引っ張り出し、そこにワラビーの飼い方が載っていないかどうか調べた。
 結果的に、そこにワラビーの飼育方法は掲載されていなかったものの、犬や猫、ハムスターとは一線を画する野生動物を飼育することは極めてエキサイティングでありながら、非常に困難であることを改めて思い知った。
 私はその夢を諦めたものの、宝くじでも当たって広い土地に住むことができたらワラビーを飼うことができるだろうかと、今でもたまに思いをよぎらすことがある。

 本書『ライオンの飼い方 キリンとの暮らし方』は、タイトルの通り、なかなか家で飼うことが難しそうな野生動物14種を、無理矢理ワンルームで飼育するための手引書である。
 言うまでもないことだが冗談で書かれた本である。間違ってもワンルームに実際に檻を設えて、そこでライオンと共に暮らすことを唆すものではない。
 であるにも関わらず、飼育設備の設置の仕方から飼育方法、当該動物との関わり方やその生態まで、非常に詳細に書かれている。飼育環境を整えるための部屋の改造については、必要な材料と大まかな予算まで記されている徹底ぶりだ。
 冗談もここまでくると敬意を払わなければならないとの思いから、前述のワラビーの時以降、ページを開いたことがなく、これからも熟読する予定は全くないにも関わらず、この素晴らしい本を手放せずにいるのだった。

 目次は下記の通りである。

 第一章 ライオンの飼い方
 第二章 ゾウの飼い方
 第三章 キリンの飼い方
 第四章 ゴリラの飼い方
 第五章 ダチョウの飼い方
 第六章 ラクダの飼い方
 第七章 パンダの飼い方
 第八章 コアラの飼い方
 第九章 ナマケモノの飼い方
 第十章 コビトカバの飼い方
 第十一章 フンボルトペンギンの飼い方
 第十二章 アシカの飼い方
 第十三章 ラッコの飼い方
 第十四章 イルカの飼い方

 上記のうち、どれか一つでも飼う予定のある者、もしくは飼いたいなと思うものがある者は、本書を手許に置いておくことをおすすめする。逆に、やっぱりハムスターが飼いたいと思う者は「ハムスターの飼い方」を書店にて購入してしかるべきであろう。

 第二章の「キリンの飼い方」から少し引用してみよう。

 そのまま成長すれば天井に頭がぶつかるのも時間の問題でしょう。そこで、ワンルームという条件からはちょっと外れてしまいますが、特例として天井の上の部屋も借ります。天井を貫通させて吹き抜けにすれば、キリンを飼える部屋のできあがりです。貫通させるためには、刃先に工業用ダイヤモンドをつけたダイヤモンドカッターをレンタルしてきます。レンタル代は1日10万くらいでしょうか。

 淡々と書いてあるが、とんでもないことになっているぞ。
 そこまでしてキリンを飼いたいだろうか。いや、違うのである。そこまでしないとキリンは飼えないのだ。
 もし隣人がそうやってキリンを飼っていたとしたら、ちょっと見てみたい。少し羨ましくさえ思うかもしれない。

 さて肉にもいろいろな種類がありますが、ライオンの食事として最も適している肉として鶏肉をお勧めします。動物園では馬肉を与えているところもありますが、個人で飼う場合には、鶏肉の方が身近なストアでも手に入りますし、値段も手頃。また牛肉や豚肉を与えると、なぜか野生本能が戻ってしまうと言われていますので鶏肉の方が無難でしょう。

 夢は夢のままにしておくのがいいのだろうか。
 そうかもしれない。
 いくらライオンを側に置いておきたくても、実際に飼うとなれば苦労が絶えないことが容易に予測できる。死活問題でさえある。
 各章に一枚ずつ、共に暮らした際の想像の写実的なイラストが差し挟まれているが、それが大変にシュールで、可笑しいのと同時に我々にそれら動物を飼うことを躊躇わせる。

 本書『ライオンの飼い方 キリンとの暮らし方』は、単なるハウツー本を卓越している。こんなにもくだらないことを真面目に書き上げ、出版さえしてしまった。
 憧れを抱きながら笑って読む、それが私にとっての本書との向き合い方である。

 
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