飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

一文無しでも生きろ、クールで熱いメッセージ『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』坂口恭平【著】

      2016/11/20

ゼロから始める都市型狩猟採集生活

 人生、何が起こるかわからない。
 もし明日、突然に仕事を失い、住む場所と所持品を全てなくし、この身ひとつで都会に放り出されるかもしれない。或いは、何もかも嫌になって、全てを捨てて人混みの中をあてもなくさまようことを選ぶことがあるかもしれない。
 そんな時、本書『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』は心強い味方にして唯一の生命線になるであろう。

 きみは何も持たず、着の身着のままで街に降り立った。
 家は? 仕事は? 生活は? いったいどうする?
 しかし、何も持たない人間でも生きていく方法がある。
 太古の人間が海の幸、山の幸を享受して暮らしたように、
 ぼくらの周りにも、〈都市の幸〉が溢れているからだ。
 きみに都市型狩猟採集民として生きる方法を伝授しよう。

 この視点は、全く新しい。少なくとも、このようなライフスタイルを体系化して提唱している書籍は寡聞にして知らない。

 著者の言う〈都市の幸〉とは、言ってしまえばゴミのことである。
 なんだゴミか、と思うのは尚早だ。
 我々は今、金銭的にそれなりに豊かな暮らしをし、或いは、それを志向しようとしているからゴミが単なるゴミとしか認識されないのである。

 まずは想像してみてほしい。
 所持金なし、宿もなし、仲間も家族もなし。きみは、そんな状態で東京のド真ん中の中に突っ立っている。

 
 都会の豊かな暮らしをする人々にとっては単なるゴミだが、所持金も何も持っていない我々にとってはそれが貴重なものにもなり得るということである。
 お金持ちにとっては、例えば10万円のネックレスはゴミ同然だが、低所得者にとっては10万円と言ったら大金である。都会では10万円のネックレスがゴミ袋に投げ込まれ、家庭ゴミと一緒に回収を待っているということがしばしばあるのだそうだ。
 ある人にとっては賞味期限切れの食品はゴミ以外の何物でもないが、お腹を空かしているにも関わらず食べ物を買うお金さえ持っていない人にとっては、それは生命を維持するための何者にも代えがたい手がかりとなる。

 「ゴミ拾いなんて」と眉をひそめるかもしれない。「恥ずかしい」と卑下するかもしれない。
 だが、人生、何が起こるかわからないのである。
 昨日まで何の疑問も持たなかった安定が、本当に突然、崩れる日が来ないとも限らないのだ。

 何もシステムや法律を変えろというつもりはない。
 ぼくらの抱いている「家」「仕事」「生活」についての先入観を一つずつ疑っていくこと。
 ぼくらひとりひとりの思考を転換させ、新たなる視点を加えること。
 それが本書の狙いである。

 著者である坂口恭平が啓蒙しているのは、「発想の転換」である。今の生活に関わる全ての「当たり前」に疑問符を打ち付けることである。
 我々には思い込みが多すぎる。生きていくために、「そうしなければならない」と思い込んでいる。ほんの少しの疑問さえ抱かずに、操られている。思考停止している。
 例えば、お金を出して住む場所を確保しなければ生きていけない、いつでも水が出る蛇口が家になくてはならない、電気が使えなくては生きていけない、そのためには、家賃と水道光熱費を払えるだけのお金がなくてはならない。従って、安定した給料を確保するために就職しなくてはならない。
 本当にそうなのだろうか。
 本書に倣って言えば、これらは全て幻想であり、思い込みなのだ。

 『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』は「きみ」が何も持たずに都会に降り立ったというところからスタートする。
 そういった一見絶望的な状況でも、この都会で生きて行くべく様々なアドバイスが非常に細かく丁寧に伝授されている。
 燃えるゴミの日に探せば衣服なんて腐るほど落ちていること、炊き出しを利用すれば食べ物には絶対に困ることはないこと、ダンボールハウスの作り方、お金の稼ぎ方、発電機器の使い方、水は雨水を貯めれば困ることはないことなど、実際の路上生活者に丹念に取材して聞き出した知恵が惜しげもなく披露されている。
 著者自身も取材の過程で驚くことがしばしばだったそうである。

 さらに、隅田川のエジソンこと、鈴木さんはバッテリーに関してとんでもない方法を生み出していた。
 バッテリーというのは、使っていくうちに中に入っている希硫酸水が少しづつ減っていくので、補充用の液体が売られている。この液体がじつはただの蒸留水だということに気づいた鈴木さん、代わりに普通の水道水を入れてみたところ、問題なく使うことができたというのだ。

 もちろん、著者は全国民にこのような生活をすべきであると訴えているわけではない。
 だがしかし、貧富の格差が拡大し、経済成長に伴った生活の安定神話が崩壊しつつある中で、「それでも不安に怯える必要なんてどこにもないんだ」という著者の強いメッセージであると受け取れる。

 就職活動がうまく行かなかったからと学生が自殺してしまうことは、現在におけるひとつの象徴的な出来事であると私は考える。しかし、当人の心情はともかく、それは本当に死ななければならないほどの事態だったのか。
 生きていることはそれだけで素晴らしい、だなんて美辞麗句は本書には一切登場しない。
 ただ、無一文でも、住む場所がなくても、ただこの身一つで生きていくことくらい簡単にできるんだよ、というメッセージを行間からひしひしと感じることができる。

 ただ、「突然、無職・無一文になってもぜったいに死ぬことはない」という事実は、きみにとって、とても心強いことではないだろうか。

 このしがらみだらけの世界がどうしても生きにくいと思う人は、少なからずいる。
 そういった者にとっても、本書は唯一無二の希望の書であり、至高のサバイバルガイドになると私は確信している。

 
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