ノーベル賞受賞者「ゴールデンハムスターは素晴らしいペット」と絶賛!『ソロモンの指輪』コンラート・ローレンツ著
鳥は、卵から生まれて初めて目に入った動くものを親と認識するというのは有名な話である。
これを発見したのはコンラート・ローレンツ(1903-1989)という生物学者で、彼は研究を進め、動物行動学というジャンルを確立した。
数々の業績により、1973年ノーベル賞医学生理学賞を受賞。
ローレンツは素晴らしい研究家でありながら、無類の動物好きであった。彼の著書からは動物たちを心から愛していることがこれでもかというほど伝わってくる。ユーモラスな語り口も相まって、思わずにやけてしまうのだった。
そんな彼の著書によれば、ローレンツは片田舎に暮らし、驚くほどたくさんの動物たちと共に時間を過ごしている。檻に入れられている動物もいれば、放し飼いのものも多数いるようである。
「こんな状況に耐えてくれている妻には心から感謝申し上げる」とも書いている。
Q. 何を飼ったらいいかな? A. ゴールデンハムスターがおすすめだよ!
疲れて頭を使う仕事にはむかない宵のひとときをたのしむためだったら、私はぜひこの動物――ゴールデンハムスター――をすすめたい。
さて、ローレンツの著書『ソロモンの指輪―動物行動学入門』には、多種多様な動物を飼育してきた動物マスターとして、読者に向けて「飼うならどんなペットがいいか」をアドバイスしている(第8章「なにを飼ったらいいか!」)。
その中でローレンツは、「何を飼ったらいいかという問いに答えるためには、まずは君が動物たちに何を望み、何を期待しているかを知らなければならない」ということを提示した上で、幾つかの動物を提案しているのだが、その中でも彼はゴールデンハムスターを一押ししているのだった。
下記、著書からの引用と共に、そのゴールデンハムスターの溺愛ぶりを確認していこう。
オススメポイント1 見た目がかわいい
ゴールデンハムスターは、外見だけみてもすごく愛くるしいちびすけだ。まるっこい頭はずんぐりしていて、利口そうにあたりをじっとみつめる大きな目、そのおかげでハムスターはじっさいよりも賢そうにみえる。金色と黒色とで色どられたすばらしく趣味のよい、しかもはなやかな毛皮。
僕たちは皆、ハムスターが大好きだ。
つぶらな瞳に綺麗に揃った体毛。への字の口。もぐもぐ。
手のひらサイズでこんなにも愛らしい動物は他にないのではないだろうか、と世界中の人が皆、思っているに違いない。
それは卓越した動物マニアのローレンツにとっても同様だったようである。見た目からとにかく絶賛。
オススメポイント2 仕草がかわいい
そしてなによりもその動作のこっけいでかわいいこと。小さな短い脚でチョコチョコあわてふためいてかけてきたり、急に何を思うのか、いかにも危険の正体をみきわめようとするように耳をピンと立て、目をますます大きくして、小さな柱のようにまっすぐ立ち上がったりしたときなど、ほんとにたのしい笑いを誘わずにはおかない。
私事ではあるが、ゴールデンハムスターを飼っていたことがある。
もうとにかく、いちいちの動作がかわいかった。次はどんな可笑しなことをしてくれるんだろうと、ついついケージを覗き込んでしまう。
寝起きには大きなあくび、頬袋に山ほどのごちそうを詰め込む必死なさま、せっせと住処を設営する働きぶり、気まぐれなふて寝、ああ、かわいい。
オススメポイント3 賢さがかわいい
ハツカネズミくらいの大きさの太ったわんぱくどもは、ころがりあったり、大声でキーキー鳴きながらはげしくかみつくふりをしたり、荒々しくとびはねながら相手を箱の中じゅう追いまわし、何度もころがってはまたむっくりおきあがったりしている。まるでイヌやネコにも似てこれほど「知能的」に遊びまわる齧歯類は、ゴールデンハムスターをおいてほかにない。
ローレンツは同じ齧歯類でもモルモットについては、「おもしろみもない退屈な動物なので、金を払って買って、苦労して育てあげる値打ちがない」と罵詈雑言、言いたい放題言っている。
彼にとっては、その動物にどんなことが観察されるかという部分に興味があったのだろう。そういう意味で言えば、確かにハムスターはペットショップなどでも狭いケージの中、わんぱくに遊び回っていることが多い。
ハムスターは、小さいながらも観察のし甲斐がある動物であるということだ。
オススメポイント4 穏やかさがかわいい(後日談あり)
ゴールデンハムスターは、けっして、といって悪ければ、モルモットやウサギほどにも、かみつかない。もっともうんと小さな子をかかえた母親は多少用心してあつかわねばならない。それも巣のすぐそばにかぎった話だ。巣から一メートルもはなれているときならさわってもなんともない。(略)ゴールデンハムスターは家具によじ登ったりはしないし、かじったりもしないので、自由に部屋の中をかけまわらしておくことができる。それでも彼は何一つ傷つけない。
私は飼い始めの頃に2度だけ噛まれたことがあるが、それ以降は何ともなかったので、ゴールデンハムスターは人に良く慣れる動物であることは間違いない。
ただ、縄張り意識が強いらしく、同じくらいの大きさの動物には攻撃的である。
これも私事だが、部屋の中を走り回らせていたデグーがケージの中のゴールデンハムスターに興味津々、友好的に近づいていったところ、ハムスターは「グウゥゥゥ」と威嚇、さらに近づいたデグーの中指が噛みちぎられるという悲劇が起きた。
『ソロモンの指輪』のあとがきにて、ローレンツは上記部分について、撤回している。
「家具によじ登ったりしないし、かじったりもしないので、自由に部屋をかけまわらしておくことができる」とあるが、ローレンツ家のゴールデンハムスターは洋服箪笥を巧みによじ登り、箪笥の上にあった手紙保管箱の中の手紙の山に穴を開け、巣を作ってしまったそうである。
また、「部屋に放し飼いにされていたサバクトビネズミを、ハムスターたちがおびやかしかねなかった」とも書いている。攻撃でもしたのだろうか。
ので、ローレンツはハムスターを放し飼いにするのをやめたらしい。
私自身、ゴールデンハムスターたちを再び檻の中に追いやってしまっている。
でも、安心し給え。
それでもハムスターがかわいいことには違いないのだ。
オススメポイント5 でもお安いんでしょう?
珍奇な動物や飼いにくい動物しか飼わないこりすぎた動物愛好家は、私が五歳の幼児にでも世話できる安っぽい動物に、こんなに感動しているのをあざ笑うかもしれない。しかし私にしてみれば、動物が安いとか高いとか、飼いやすいとか飼いにくいとかは問題ではない。多くの愛鳥家や熱帯魚好きの人たちは、いちばんむずかしい種類を飼ってやろうという功名心を持っている。そんな名誉心は私には無縁である。もっと大切なのは、その動物でどんなことがみられるかということではないか。そしてこの点では、このいちばんひかえめなゴールデンハムスターは、一般に賞賛されている多くの室内動物にまさっている。
ローレンツが純粋な心を持っていることがよくわかる名文である。
もっと珍しい動物を、高価な動物を飼いたいと思う気持ちはどこかにあるのではないだろうか。もちろん、私を含めて。
捨てネコよりもペットショップの綺麗なネコを、雑種よりも血統書付きを、ミドリガメよりももっと珍奇で高価なカメを、どこにでもいるような平凡な個体ではなく珍しい柄や見たこともないような毛色の個体を、など。
そういった邪さをローレンツは唾棄する。
安くてどこにでも売られているハムスターだからって何が悪い。素晴らしく愛らしい動物じゃないか、と。
このローレンツの意志は、多くのハムスター好き、動物好きの人たちに心から歓迎されるに違いない。
オススメポイント6 とにかくオススメである
こいつのように底抜けに陽気で、おまけにそれをこっけいに愛嬌たっぷりに表現できるものを部屋の中に飼っておけるとは、じつに心たのしいことではないか。
私は神が都会に済むあわれな動物好きな者どものためにゴールデンハムスターをつくってくれたのだとさえ思う。少なくとも、ゴールデンハムスターは室内ペットとして好ましいものの資格をすべてそなえ、不都合な点はまるっきりもちあわせていないという点で、けだし逸品の部に入る。
もうとにかく、ゴールデンハムスターが大好きローレンツ。ゴリ押しだ。
何かペットを飼いたいけれど何がいいかと考えている人は、ハムスターを検討してはいかがだろうか。あのノーベル賞を受賞、数々の動物と共に暮らしてきたローレンツのお墨付きであるが、それより何より、理由なんていらないくらいハムスターはかわいいのだ。
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