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【書評】『シチリアを征服したクマ王国の物語』ブッツァーティ【著】

      2016/04/30

シチリアを征服したクマ王国の物語 (福音館文庫 物語)

 クマが主人公である。クマの王様の名はレオンツィオ。

 その冬は例年に増して寒さが厳しかった。食糧もなく、クマたちは山の中で飢えていた。
 誰かが言った。「なんで平地におりてみないんだ?」
 山から見下ろす平地は、雪は片付けられ、食糧も豊富にありそう。
 「ここで飢え死にするくらいなら、人間と戦う方がましだ」

 こうしてクマ王国の波乱の物語は始まるのだった。

 

豊かな自然と豊富な想像力

 イタロ・カルヴィーノ、ジャンニ・ロダーリ、そしてこのディーノ・ブッツァーティ。
 イタリアの作家は、自然を愛し、非常に想像力が豊かな印象を受ける。

 まず目に入るのはシチリアの壮大な山々、ただしこれはいまはもう存在しないのだけれど(それほど、長い年月が過ぎ去ったのだ!)。山々は、どれもみな、雪におおわれている。

 それから緑の谷の方へおりていくと、いくつもの村があり、小川が流れ、森には小鳥がいっぱい、そしてあちらこちらに小さな人家がちらばっている。じつにもう美しい風景だ。

 けれど、谷の両側に、またいくつもの山がそびえている。まえのほど高くもけわしくもないが、そこにはやはり、思いがけない危険な場所がたくさんある。たとえば、魔法のかかったお城とか、毒ある竜が住んでいる洞穴とか、そのほかにも人食い鬼が住んでいるお城など…… とにかくいつでも、気をつけた方がいい、とくに夜には。

 非常に印象的な導入部である。

 登場人物もバラエティ豊かだ(「人」は殆ど出てこないが、「登場人物」と書いてある)。
 クマのレオンツィオ王、その息子トニオ、人間との戦いで大活躍クマのバッボーネ、発明家クマのフランジパーネ、暴君大公(人間)、ばけ猫マッモーネ、大ウミヘビ、オオカミおばけ、いろいろなゆうれい、など。
 クマから人間から幽霊から化け猫まで、なんかいろいろ出てくる。魔法使いの爺さんも出てくる。

 童話である。
 非常に平明な文章で紡がれるクマたちの泣き笑いの物語だ。
 偉大なる想像力の賜物。イノシシは気球になって空に舞い上がり、恐るべき幽霊はクマたちとダンスを踊る。
 そして明瞭なる起承転結。物語の教科書のような物語なのだ。

 

クマ王国の顛末

 クマ王国は人間との戦いに勝利し、シチリアを征服する。人間とクマが共存する王国が誕生したのである。
 ただし、冒頭で予感される通り、そして現在の世界地図を見渡してもわかる通り、今はもうシチリアにクマ王国はない。

 クマたちはどこへ行ってしまったのか。クマ王国はどうなってしまったのか。

 それらの軌跡が物語の後半で描かれる。
 人間 vs クマの物語ではない。つまり、愚かな人間によってクマたちが滅ぼされたとかそういった物語ではないということだ。

 まるで人間に似ているクマ王国は、内部から危うさを膨張させていった。
 都市での豊かな暮らし、娯楽、強欲、ないものねだり。そういったものたちによってクマたちは楽しい時間を過ごしつつも、蝕まれていった。
 クマたちは人間のように優しくて、同じく人間のように欲張りで怠惰だった。

 そしてひとつの悲しい出来事の後に、クマたちは決断を迫られる。

 さて、あの、わたしたちが最初に見た山々は? あのむかしの山々を、いったいわたしたちは、もう一度見ることがあるだろうか?

 エンディング、仲良しだった子どもたちと子グマたちが言葉を交わし合う。泣かせる。

 

まとめ

 童話だけれど、大人が読んでもおもしろい。
 欲張りで怠惰な僕たちが、クマたちから学ぶことも多いだろう。

 作者であるブッツァーティ本人によるカラーの挿絵も掲載されている。
 これが大変に可愛らしく、印象的なのだった。
 この絵を眺めるために、本書を本棚に並べておいてもいいくらいだ。

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