飄々図書室

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【書評】果てしないどんちゃん騒ぎ『苦悩の始まり』ソニー・ラブ=タンシ【著】

      2016/04/30

苦悩の始まり

 エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』で初めてのアフリカ文学に衝撃を受け、爆笑を堪え切れなかった私は、ソニー・ラブ=タンシ『苦悩の始まり』でも同じ顛末に甘んじることとなった。
 笑わそうとして書いているとしか思えないのだった。おそるべしアフリカ。我々の想像を遥かに超えてくる。

 

あらすじ

 ストーリーはあってないようなもので、一言で説明すれば、「爺さんが「結婚したくないよー」とあれこれ屁理屈を並べて駄々をこねたために起こる大混乱」の話である。

 一切合財が一つのキスから始まった。不幸なキス、悪魔のキス、口臭のするキスから。

 舞台はアフリカのどこかにあるオンド=ノートという村である。
 オンド=ノートでは、老人が年頃の少女にキスをするという風習があった。
 絶世の美女バノス・マヤが9歳の頃、彼女に口づけをする役目をオスカル・アナという老学者が受け持った。

 儀式の折、オスカル・アナは緊張のあまり、慣例となっている呪文を口にするのを忘れてしまった。大変なことである。
 なぜなら、呪文を忘れたが故、バノス・マヤはキスの直後、オスカル・アナに熱烈に恋い焦がれてしまったのだった。

 「ねえ、オスカル・アナ」と、可憐なバノス・マヤが言った。「黒ナマズが甘い水を好むように、わたし、あなたが好き」

 不埒なキスに神様は怒り心頭である。空は落ちそうになって来るし、山は轟音をあげ、海は村を飲み込まんばかりに荒れ狂う。このままでは世界の終わりだ。
 恐れをなしたオンド=ノートの住人たちは、キスの張本人であるオスカル・アナとバノス・マヤを結婚させようとする。そうすれば神様の怒りも収まるだろう。だが、オスカル・アナは屁理屈を並べて頑なに拒否する。絶対に結婚はしたくないらしい。

 神はさらに怒って天変地異を引き起こす。雨が降り続け、水は腐り果て、動物たちは死に、悪臭が押し寄せる。
 頼むから結婚してくれ、オスカル・アナ。バノス・マヤはお前に恋い焦がれて、叶わぬ恋に痩せこけてしまっているぞ。
 オスカル・アナ「嫌だね」

 神の怒り、天変地異。

 オスカル・アナ「うるさいな。わかったよ。結婚するよ」
 村人たち「ようやく決めてくれたか。村をあげて祝うぞ」
 オスカル・アナ「ただ、貞操パンツが出来上がったらね。それまでは絶対にしない」

 パンツの納期が遅れる。
 オスカル・アナ「パンツが完成するまで結婚はしないよ」

 神は憤慨、天変地異。

 パンツ完成。
 村人たち「よーし、今度こそ村を上げて祝うぞ。酒もってこい」
 オスカル・アナ「万事休すか…」

 結婚式の証人である市長、式直前に入った自宅の風呂場にて事故死。

 オスカル・アナ「これじゃ結婚式はあげられないな」

 天変地異――。

 

始まらない婚礼、脈略なきストーリー

 基本的にそれの繰り返しである。延々と結婚式は始まらない。コントだ。
 この他にも、バノス・マヤの親族の不幸で式は延期、今度はオスカル・アナの身内の不幸でまたもや延期。盛大な婚礼のために用意された大量の酒とご馳走は尽く無駄になり、新婦バノス・マヤはさらにやせ細り、神の怒りは激しさを増す。
 痔の発作で死亡する者も出てくる。なんだそれは。

 学者であるオスカル・アナが大西洋に島が出現することを予見する場面がある。
 例によってオスカル・アナは「私はこの島で挙式をしたい。だからそれまでは結婚は延期だ」と駄々をこねるわけだが、この島に関する功績が突如認められ、全世界から讃えられることになる。と共に、オスカル・アナ暗殺計画が浮上する。
 なぜ暗殺されるのか、全く脈略なく意味不明。
 そして、婚礼はまたもや延期。

 赤ウシガエルの異常発生により、突如始まる赤ウシガエルとの十一ヶ月戦争。なんだそれは。もちろん婚礼は延期。

 物語の終盤、天の怒りは頂点に達し、オンド=ノートは灼熱地獄に見舞われる。68℃の酷暑だ。
 するとオスカル・アナは酷暑を鎮めるための研究に3年間没頭。なんでやねん。

 

ものすごいエネルギーとお祭り騒ぎ

 酷暑の中、おれたちは歌を歌い、踊りを踊った。トンバルバイエの人々が受けている反映をわが大地に降らせようと、招待客の頭に米粒やとうもろこしの粒を浴びせかけた。合唱団やブラスバンドやカスタネット隊が演奏を続けた。優れたゾーブ教の一人で、羊歯の秘密に通じているクローディウス・ヌガッラが、酷暑を祓うために村でどんちゃん騒ぎをするように命じたのだ。

「今度こそオンド=ノートのびっこ歩きにけりをつけてやる。儀式も大騒ぎもいさかいもしないであの娘と結婚するぞ。あんたらの空威張りがどんなに根拠のないものか、みんなに暴いてやる」
 群衆は、それを聞くと理性を失って歓びを爆発させた。みんなが玩具の豆鉄砲を撃ち、あちこちでクラヴサンやクラリネットや太鼓やトランペットを演奏し、大声で歌った。

 オンド=ノートは食べものや大人数での酒盛り、全員参加の乱痴気騒ぎや酒宴などのあらゆる供犠や犠牲に足をとられて、身動きがとれなくなっていた。松明や火や蝋燭が街全体に輝いていた。仮設便所やゲロ吐き場があちこちに建設された。

 アフリカ文学の魅力は、そのわけのわからなさにあると私は思っている。
 論理や理屈なんて一切無視。わけのわからないエネルギーでどこに向かうかもわからないまま突っ走る様に魅力を感じるのである。

 とにかくどんちゃん騒ぎ。
 婚礼が決まれば歓喜に湧き立ち、式の当日は大量の酒、料理、音楽でもうめちゃくちゃ。
 式は尽く延期になるが、その次に予定されている結婚式でも同様にして、どこから持ってきたんだというくらいの大量の酒が用意される。

 理屈なんてない。とりあえず飲んどけ。果てしないお祭り騒ぎがそこにある。

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