飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

【書評】『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか』ポール・J・シルヴィア

      2016/11/17

できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)

 文章を「上手に」書くための指南書は数あれど、文章を「たくさん」書くための本は寡聞である。
 本書はタイトルの通り、論文をたくさん書くことに焦点が当てられたものである。

 私は研究者ではないため論文を書く機会は全くないのだが、ウェブサイトの運営に際して多くの記事執筆の必要に迫られ、本書を手にしたというわけである。

 本書で繰り返し述べられている「文章をたくさん書くためのコツ」はたった一つである。
 我々はたった一つのことさえ念頭に置き実行すれば、たくさん書くことができる。

 つまり本書のタイトルを言い換えるならば『文章をたくさん書くための50の方法』ではなく、『文章をたくさん書くためのたったひとつの冴えたやりかた』である。

 

たったひとつの冴えたやりかた=習慣化すること

習慣化とは?

 そのたった一つのこととは「書くことを習慣化すること」である。
 習慣化だけが「たくさん」書くためのコツに他ならない。

 習慣化とは、決まった時間を執筆のために予めスケジューリングしておくことである。
 気分が乗る・乗らない、やる気がある・疲れているは関係ない。
 書くことと向き合う習慣を身に付け、必ず実行すること。

 本書においてはこの習慣化すること・スケジュールを立てて実行することの重要性が繰り返し述べられている。

 とは言え、書くためのスケジュールを立てる日もあるだろうし、書いたものを加筆・修正・リライトに充てる日もあるだろう。調べ物に迫られる日もあるに違いない。
 毎日新たな文章を書ければそれに越した事はないが、必ずしも毎日「実際に書く」必要はないとしている。
 執筆に関わる時間・書くことと向き合う時間の習慣化が重要なのである。

  

「一気書き」は駄目

 本書においては「習慣化」とは逆のアプローチである「気分が向いた時に一気に執筆する」ことを「一気書き」として揶揄し、全く合理的でないやり方であると断罪している。
 そう、本書はたくさん書くための根性論について述べられているわけではないし、小手先のテクニックや朝起きたら論文が仕上がっているという魔法について書かれた本でもない。

 「スケジュールを立てて計画的に執筆する」という至極真っ当なことであるにも関わらず、多くの人がやりたがらないことに気づかせてくれる代物である。

 何の努力もしないで物事を成し遂げる方法はない。
 だけど、小さな努力の積み重ねで大きな物事を成し遂げることならできる。
 それが習慣化の成果であり、継続の力である。

 言い訳をしているうちは何事も始まらない。
 書けないことに対する4つの言い訳とその克服法を本書より紹介しよう。

 もちろん、書くことだけではなくあらゆる「やりたいんだけどできない」と思っていることにも応用できる。

 

言い訳1:書く時間がとれない

 この言い訳は、もう表彰に値する。この言い訳を使ったことがない人はまずいない。
 (略)
 僕には、この言い訳を耳にする度に思い浮かべるシーンがある。野生動物の専門家が、スケジュールという林の中を、「ブンショウ・シッピツジカン」という、とてつもなく神出鬼没で、とてつもなく寡黙な生き物を求めてさまよっているシーンだ。

 「時間がない」「まとまった時間がとれない」というのは言い訳にさえなっていない。「やりたくないからやらない」と言っているようなものである。

 文章を書く時間とはその辺に落ちているものではないし、ましてそれを「見つける」ものではない。宝探しではないのだ。
 自分で作り出さなければ永遠に執筆時間は来ないのである。

 まずは自分でスケジュールに組み込むことが肝要である。
 朝コーヒーを飲みながらぼんやりとニュースを眺めていた一時間でもいいし、夜帰宅した後の30分でも構わない。
 日中の細切れになったちょっとした空き時間の集積でも良いだろう。
 とにかく無理矢理でも執筆時間をスケジューリングし、それを遵守すること。
 
 我々は何か予定があればそれに従って行動することができる。
 8時出社であれば、毎日8時に間に合うように起床し、家を出ることができる。
 見たいテレビ番組があれば新番組であっても見ることを新たな習慣にすることができるし、ジョギングが趣味なら毎日決まった時間に運動靴を履いて出かけることができる。

 であれば、ここで言う「書くこと」や「新たに習慣化したいと思っていること」も習慣化できないわけがないのである。

 誰でもできる。
 意志が強い・弱いは関係ない。

 できないのは「時間がない」と言い訳をし、それを正当化しているが故にやらないからなのだ。

 

言い訳2:準備が足りないからまだできない

 このぼろぼろの言い訳から脱却するのは簡単だ。執筆に必要な作業は、作業の種類を問わず、執筆時間中に行うこと。

 執筆のためには文献を読み込んだり、分析したりする必要も出てくる。
 つまり「まだ分析が不十分である。だから書けない」という言い訳である。

 もっともらしい言い分だけれど、こういった言い訳をする人に限っていつまで経っても文献を読み込んだり分析したりすることはないと筆者は一刀両断する。

 解決法としては、やはり執筆スケジュールを立てること以外にない。
 そして、参考文献を探すこと、文献を読み込むこと、データを集めること、分析すること、アウトラインを考えることなどの書くことに関わることは、全てスケジューリングされた執筆時間の中で行うことである。

 書くことだけが執筆ではない。
 書くためのすべての作業が執筆であり、「あれがまだ不十分だから執筆できない」という言い訳を自らの手で封じることが肝要だ。

 「あれがまだ不十分だ → 次の執筆時間にやろう」ということである。

 

言い訳3:やるための環境が構築されていないからできない

 数ある言い訳のなかでも、一番破れかぶれなのがこの言い訳だ。そもそも、本気でそう思っているのかどうかすら疑わしい。他の言い訳とは違って、これは、ただの言い逃れだろう。

 例えば、「文章をたくさん書くなら新しいコンピュータが必要だ」「レーザープリンタが必要だ」「良いチェアや広い机が必要だ。今はない。だからできない」ということである。

 「できない」ことと「環境が不十分である」こととは必ずしも関係がなく、単なるくだらない言い訳にすぎないというのが筆者の主張である。
 なぜなら、筆者は譲り受けた古いパソコン、決して座り心地のいいとは言えないチェア、学習机程度の広さのテーブルで論文を書き続けてきたからである。

 自分専用の執筆部屋もないようで、「居間や、寝室や、客用寝室や、主寝室の小さなテーブルや、短時間なら浴室でも書いてきた」と言う。
 つまりは、書こうと思えばどんな環境でも書けるということだ。

 ちなみに私事だが、別のウェブサイトの一日一記事更新をするためにしたことは、大きめのテーブルと執筆用のチェアを買ったことである。
 1Kの部屋を長テーブルで仕切り、チェアを設えて執筆用スペースを構築した。

 一時は執筆用の作業部屋を別に借りようかとも考えていたが、なんとかテーブルとチェア合わせて15,000円程度の出費で今の1K8畳の狭い部屋に執筆のための環境を構築することができた。
 環境の構築なんてアイデアと行動とやる気次第で何とでもなるのである。

 

言い訳4:気分が乗らないからできない。気分が乗ったらやる

 一番滑稽で、理屈が通らない言い訳だと思う。ありとあらゆる理解不能な理由ゆえに執筆スケジュールを立てたくない人たちからよく耳にするのが、この言い訳だ。
 (略)
 「気がのらないときに執筆しようとしてもしょうがない。書く気にならないと」と彼らは言う。現に執筆できていない人がこれを言うのは、なんとも妙な話だ。

 「今はちょっとできない。でも、やる気になった時にいつかやる」という言い訳ほど人を苛立たせるものはない。特に何か共同作業をしている場合なら尚更である。
 その「いつか」が来たためしなどほぼ確実にないのである。

 現在の心理学の定説では、やる気が出るのを何もしないで待つことには全く意味もなく、やる気は実際に行動することに伴って誘発されることが明らかになっている。

 従って「気分が乗ったらやる」というのは全く合理的でないことがわかるだろう。
 無理矢理にでも執筆時間をスケジュールに組み込んで実際に書くことによって、不思議と気分が乗ってくるというのだから。

 さらには、スケジューリングして習慣化することによって、ただ単に文章を書く時間が多く与えられるだけではない。
 実際に書くことによって、アイデアも多く浮かんでくることがわかっている。

 
 やる気が出るのをただ待つ(悪い例)
 → いつまで経ってもやる気は出ないし、アイデアも浮かばない。

 強制的にでも書くことを習慣づける(良い例)
 → 気分が乗ってくる上に次々にアイデアも浮かんでくる。

 
 気分が乗らない時に行動を起こすことは難しいし、億劫なものである。
 しかし、行動しなければ気分が乗ってこないのだ。逆説的な話である。

 行動した先にある恩恵に目を向けて、まずは5分でもいいから取り掛かることが大事だ。

 

まとめ

 習慣化に言い訳は無用である。
 やりたい・やりたくないは関係ない。

 1. スケジュールに組み込む。
 2. やる。

 たったこれだけ。極めてシンプル。

 だけど、我々はロボットではないことも確かである。
 デスクに向かったはいいけれどどうしても取り組めないという日もある。

 そんな時には敢えてその日はやらないと腰を据えることも重要である。
 「やらなければならないのに、できなかった」という思いは挫折感となって、心にダメージを与えてしまう。

 目標達成には習慣化・スケジュール化が肝要であると頭で理解し、遵守できるスケジュールが組まれ、行動できるポテンシャルがあればいいのだ。

 
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