飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

【書評】『減らす技術』レオ・バボータ【著】

      2016/11/02

減らす技術 新装版

 30歳になりつつある頃、1000枚以上所有していたCDを全て処分したことで、私の中で何かが変わった。

 手放したら後悔するかもしれないと思って躊躇っていたのだが、いざやってしまうと後悔はなかった。
 それどころか部屋から物が減ったことによって充実感を得られた。意外だった。

 それまでは多いことは良いことだと思っていた。
 たくさんのものを所有することはステータスの証にもなるし、選択肢も広がる。

 選択肢は多ければ多いほど良いことだ――そう思い込んでいたのだ。

 

増やすことは必ずしも良いこととは限らない

 選択肢が多すぎて何も手に付かないという経験はないだろうか。

 例えば、引っ越したばかりの部屋。
 インターネット回線はまだ繋がっていないし、テレビはまだ買ってない。
 手元にあるのは幾つかの文庫本だけ。

 となると、読書が非常に捗るのである。
 選択肢が読書しかないから、迷わずに本を読むことを選べるからに他ならない。
 私にとって本を読むことは充実感や達成感をもたらしてくれる行為である。

 が、読書の日々は束の間。
 引っ越してから一週間も過ぎればインターネットは開通し、テレビが設置されるだろう。ゲーム機が接続される。新しいパソコンもやってくる。
 私はインターネットがなければ生きていけないと思っているし、毎晩の息抜きにテレビゲームをすることは日課になっている。見たいテレビ番組も少しだがある。本を読んで勉強もしたい。

 そのように選択肢が多いことは充実していて素晴らしいことには違いないのだが、ふと、やりたいことが多すぎてどれをやればいいのか判断に迷ってしまうことがある。何もしないままに休日が終わるということも出てくる。
 特に、本を読んで勉強しなければならないのだけれど新しく買ったゲームもやりたい、というような時には、勉強に対する無気力とゲームに対する罪悪感とに板挟みにされて、どちらも手に付かないままにYouTubeをぼんやりと眺めて一日が終わってしまうことがある。

 部屋に本しかなかったら何の迷いもなく勉強をしていただろう。
 逆にゲームしかなかったら嬉々として熱中していただろう。

 選択肢を増やしたがためにどれも選べないままにぼんやりと一日を過ごす羽目になってしまうというのは皮肉なことだ。

 

減らすことで、達成できることが増える

 本書『減らす技術』の著者レオ・バボータもそういった一人であったと見受けられる。
 だけど彼はあるとき決意する。

 「人生をシンプルにしよう」

 シンプルにするとはつまり、「制限を設けて、本質に迫ることだけに集中する」ことである。

 まずは、タバコをやめることに挑戦した。それだけに集中し、全エネルギーを注いだ。
 すると驚くべきことが起こった。それまで何度も失敗していた禁煙に成功したのだ。

 禁煙という大きな壁を突破したことで、私はがぜんやる気が出て、いろいろなゴールに挑戦してみた。ただしやり方はいつも同じ。「1度にひとつ」のゴールだけに集中するのだ。すると、壁はどんどん崩れていった。
 私はこれをワン・ゴール方式と呼んでいる。あれもこれもいっぺんに手を出さずに、いつも「1度にひとつ」のゴールだけに集中する。これがポイントだ。

 著者はこのワン・ゴール方式によって、2年間で19のやりたいことリストを達成したという。
 「ジョギングを習慣にした」「借金をゼロにした」「菜食主義になった」「家の中をきれいにかたづけた」「電子ブックを2冊出してベストセラーにした」――など。

 つまりは、選択肢を制限したがために多くのことを達成できたのである。
 これが「減らす」ことによる効果であり、それによって著者が得た「豊かさ」である。

 増やすことが豊かであるという考え方もあるだろう。
 だけど本書『減らす技術』が提示するのは「減らす」ことが豊かさに繋がったという誠に逆説的な事実なのである。

 

習慣化には「小さくはじめる」のがコツ

 『減らす技術』には著者によるまさに「減らす技術」、すなわち「制限を設けて、本質に迫ることだけに集中する」コツが書かれている。
 仕事の仕方から、大量のEメールの処理の仕方、健康管理、習慣化、インターネットとの付き合い方、デスクや部屋の片付け方まで広範なアドバイスが書かれている。

 特に私の印象に残ったのは、何かを始める際には「小さくはじめる」ということである。

 例えば毎日腕立て伏せをする習慣を付けようとする場合、我々は往々にして最初の日は「よーしやるぞー!」と意気込んで50回やるのである。
 次の日は、「昨日50回もやったからな」と言い訳をして20回でやめる。
 三日目には1回もやらない、ということがよくある。

 著者によればそのやり方は間違いだと言っている。正解は逆なのである。
 つまりは、腕立て伏せの習慣化を容易くするためには5回とか10回とかから始めるのが良いのである。物足りないくらいがちょうどいい。
 で、それに慣れてきた頃に20回などと増やしていくのがよろしい。

 変化を起こそうというときには力が入る。野心に燃えてつい大きくはじめてしまう。
 しかし力が入りすぎると、力が抜けるのも早い。1、2週間と経たないうちに脱落してしまう。新年の抱負が実現しないのも、ほとんどこれが原因だ。
 (略)
 もっとできるとわかっていても、できる限り簡単なものを、ほんの少しからはじめる。
 たとえば、早起きしようと決めたときは、私はほんの15分早く起きることからはじめた。

 つまりは人生をガラリを変える必要なんてないし、むしろ、大胆不敵に人生を変える試みは殆ど失敗に終わる。
 少しずつでいいのだ。

 

まとめ:「減らす」という考え方を覚えておこう

 物事のやり方に正解はない。
 逆に一つのことに集中するなんて退屈でできないから、たくさんのタスクを抱えてそれらを同時に処理していくやり方のほうが合っているという人もいるかもしれない。

 黙っていても情報が洪水のように押し寄せてくる上、特にスマートフォンの登場によって人々の本質に対する集中力は散漫になったと私は考えている。
 暇つぶしのスマホゲームが人生の本質であるとは私には到底思えない(私もよくやるけど)。

 とは言え、皆、心の中で何か目標を達成したいと思っているらしいのは確かである。
 ダイエットはいつだってブームだし、「目標達成」や「集中力」について扱われたビジネス本は売れている。

 目標達成が難しいのは、もしかしたら情報と物量の海の中で目が眩んでしまっているからかもしれない。
 一つの目標に絞って取り組めば容易に達成できるかもしれないのに。

 そう、『減らす技術』は、なぜ自分はいつも目標が達成できないのか、なぜ三日坊主で終わってしまうのかと思い悩んだ際には「シンプルにする」「減らす」ことによってうまくいくという考え方もあるのだと気づかせてくれる良書なのである。

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