飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

【書評】ポジティブと幸福は素晴らしいことか?『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』(草思社)

      2017/01/17

ネガティブな感情が成功を呼ぶ

 人を「ポジティブ」と「ネガティブ」の二種類にわけるとしたら、私は圧倒的にネガティブである。
 とはいえ、常に後ろ向きなことを考えているとか、泣き言ばかりを言っているとか、生まれてきてごめんなさいとか、そういうことではない。
 言うなれば慎重であるということである。

 
 例えば、本書『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』においては、不安感の強い人は危険を察知するアラームの役割を果たすとして、組織に必要な5つの理由が挙げられている。
 以下、抜粋して引用しよう。

恐れる(Scare)
 不安の強い人は環境のわずかな変化も見逃さない。用心深い。

ひどく驚く(Startle)
 不安の強い人は、危険のかすかな兆しにも、たちどころに強く反応する。

人に告げる(Share)
 不安の強い人は、危険が迫っていることを速やかに他の人々に警告する。

偵察する(Scout)
 不安の強い人は、自ら調査に乗り出し、さらに情報を集めようとする。

そこから離れない(Squat)
 不安の強い人は、問題が解決するまでに執拗にそのことに集中する。

 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』P.127-128

 不安を感じやすいネガティブな人が組織にいるからこそ、状況の微細な変化や小さなミスを発見でき、起こっていたかもしれない最悪のリスクが回避できると言えよう。
 恐らく、ある組織においてポジティブな人だらけだったら、「まーなんとかなるっしょー。大丈夫大丈夫。まだ時間あるし。明日やれば間に合うよー」と呑気に業務がなされ、リスクマネジメントも何もなく組織が自転車的に運営されていくに違いない。

 

ポジティブ・幸福は本当に良いことか?

 幸福ブームは行き過ぎている。

 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』P.140

 世間的には「ポジティブ=良い」「ネガティブ=悪い」とステレオタイプに思われている節がある。
 同様にして「幸福=良いこと」とも。

 果たして本当にそうだろうか、と本書『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』においては膨大な研究結果や論文を論拠に心理学的アプローチで反論が展開されている。
 不安・怒り・恥ずかしいなどのネガティブな感情は悪ではなく、実は良い面もあるということに気づかせてくれる稀有な書物である。

 世の中の軽薄な自己啓発書の中には無責任にも「不安は断ち切れ!」だの「ネガティブな考えは捨て去れ!ポジティブこそ至高!」だの「幸せになろう!」だのと喧伝されているものが数多く雑多に溢れているが、『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』を一読すればポジティブや幸福を闇雲に目指す必要なんてどこにもないことがはっきりと理解できる。

 それに加え、ポジティブな人を羨ましく思ったり憧れたりする必要なんてどこにもないのだと自信を持つことさえできる。

 ポジティブな人は行動力があってバイタリティに満ちて完璧な人物に見えるかもしれないけれど、本書に示されるフィルターを通して観察すると、ポジティブな人とは「計画性がなくて何も考えていない脳天気な」人物であることが明らかになる。

 ネガティブとポジティブ、どちらが優れているという問題ではない。
 ただ、世間一般で言われているように「ネガティブ=悪」では決してないということである。

 さて、本書よりポジティブシンキングや幸福に満ちることの3つの落とし穴を紹介しよう。

 

幸福の3つの落とし穴

1. 幸福な人たちは説得力に欠ける

 参加者たちに、日々の生活に密接な関係がある問題に関して、説得力のある主張を組み立てるように頼んだ。そして参加者たちが友人を説得する様子を、第三者が審査した。その結果、幸福感の低い人たちの主張は、幸福感の強い人たちの主張に比べ、およそ25パーセント説得力が高く、20パーセントの具体性に富んでいた。
 友人ではなくまったく見ず知らずの人を相手に、公共政策問題に関する考え方を変えるように説得してもらった場合は、さらに大きな差がつき、幸福でない人たちの説得は幸福な人たちの2倍も効果的だった。

 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』P.142-143

 セールスや営業職は社交的な人よりもむしろ人見知りで慎重な人のほうが高い成果を上げる傾向にあると聞いたことがあるが、上記の結果から慎重な人は説得力のある説明ができるからであると推測できる。
 幸福な人の言葉には重みがないのかもしれない。

 私の実感としてはポジティブな人は常に自分のことしか考えていなくて、他人にあまり関心を払わないように思う。
 他人の表情とか感情を読み取るのが苦手だから「この話には興味がないっぽいぞ。話題を変えよう」とか「この話題には食いついてきた。これで推そう」とかいう判別がつかずに自分の喋りたいことを延々と喋ってしまうから説得力に欠けるのだと思う。

 

2. 幸福な人たちは、人を信頼しすぎる

 簡単な横領のチャンスを与えられた参加者たちは、部屋から出たあと、聴取を受ける。「あなたはチケットを取りましたか?(筆者注:横領しましたか?)」もちろん参加者たちは全員否定する。その様子は撮影されていて、映像はこの実験に加わっていない別の参加者たちに見せられる。見せられた人たちは知らないが、否定した参加者の半分が嘘をついていて、残りの半分は正直に答えている。ビデオを見た参加者のうち、幸福感が高かった人たちは、嘘をついた人の49パーセントしか見破れなかったという。これではコインを投げるよりも確率が悪い。しかしビデオを見せる前にあらかじめ気持ちが落ち込ませてあった参加者たちの場合は、62パーセントの確率で嘘を見破った。

 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』P.144

 ポジティブな人は嘘を見破るのが苦手であり、言ってしまえば人を見る目がないという研究結果である。

 私が以前勤めていた零細企業の社長はとにかく行動力があってポジティブだったが、人を見る目がないことでも有名だった。
 能力の高い者をなぜか窓際族的な扱いに押し込め、融通の利かない者を実力に見合わないポストに重用した。
 能力の高い者を低い賃金で働かせ、能力の低い者に高い給与を与えていた。
 わけがわからない組織だった。

 私は私で高い給与と破格のボーナスを貰っておきながら一年半で辞めてしまった。
 人を見る目がない社長に採用されたからだと思う。

 これが現実の世界だったらどうだろう。仕事の空きポジションに応募してくる人が正直かどうかを見極める力が、今より13パーセント上がることを想像してみよう。相反する2人がどちらも自分の言うことが真実であると言い張っている場合に、その真偽を判断して解決することが13パーセント正しくできるとしたら?

 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』P.144

 

3. 幸福な人たちは考えることをおっくうがる

 参加者たちに、あるテーマ(たとえば睡眠)に関する15の言葉(ベッド、休息、疲労……など)を見せ、あとで、「睡眠」という言葉がその中に含まれていたかどうかを思い出してもらう(実は含まれていない)。幸福な人たちは、たやすくこの「ワナ」にかかり、誤った情報を記憶の中に取り込んでしまう。彼らは実際には見ていない言葉を思い出す割合が、幸福感の少ない人たちに比べて、なんと50パーセントも多かった。

 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』P.145

 つまり、「幸福感を持つ人たちは、外界からの情報を集めるのに大雑把で表面的なやり方で行うことが多い。つまり、幸福感の少ない人たちに比べて、型にはまった意見を取り入れやすく、詳細が頭に残りにくい」ということである。
 なぜこのようなことが起こるかというと、本書によれば、幸福な人というのは現状に満足しているために身の回りや周囲で起きていることにあまり注意を払わず、関心が低いからであると解説されている。

 私は冒頭で述べた通りネガティブなのであり、様々なことについてよく調べる癖がある。
 特にこれから新しく始めることについては詳細までよく調べて、よく考え、自分で納得できたら始めることにしている。というかそういう性格である。
 考えすぎる故に一歩踏み出すのが極めて遅い。

 しかしながら、それとは全く逆で、何も調べず何も考えずに勢いだけでいきなり大々的に見切り発車して当然のごとく失敗する、すぐに諦めるという人もいたりする。
 どちらが優れているというのはない。ただ私にとってはその脳天気な行動力とポジティブさが信じられなかったりするのだった。
 何でもかんでもすぐに勢いで始めることができるから常に刺激があって本人的には幸福なのだろう。
 それと同時に、頭の中で悶々と考えている時間が長いから私のような人物は幸福感があまり高くないのだろうと推測される。

 もう一つ、大変に興味深い研究結果を紹介しよう

 2011年9月11日の同時多発テロ事件のあと、ある実験が行われた。参加者にパソコン上で「ファーストパーソン・シューターゲーム」をしてもらうものだ。参加者は、銃を持った人がスクリーンに映ったら発砲するように指示される。次にもう少し難度が上がり、スクリーン上に現れるターゲットの半分はイスラム世界の伝統的なターバンを巻いており、残りの半数は巻いていない。どちらも銃を持つ割合は同じである。これは、幸福感の強い人たちがステレオタイプに惑わされやすいのであれば、ターバンを見た途端に誤って引き金を引くのではないかという実験である。その結果、幸福な人たちはターバンを巻いたターゲットに対し、それ以外のターゲットの3倍も多く発砲してしまった。幸福感の低い人はそういうことはなかった。

 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』P.146-147

 幸福感の高さは間違った判断を引き起こす可能性が充分にあることが、ここでは示唆されている。
 非常に興味深くも恐ろしい実験結果だ。

 私が想起するのは、例の東日本大震災である。
 震災後に「原発反対」だの「フクシマは危険だから早く脱出しろ」だのと喧々と騒いでいた人たちは、実は不安の強いネガティブな人たちではなく、ポジティブで幸福感が高くて現状に満足している人たちがステレオタイプに惑わされて盲目的に何も考えずに行動していた結果なのかもしれない。
 本当のところはわからない。フクシマ出身である私の単なる推測である。

 

まとめ

 ポジティブとネガティブ。優劣はない。
 どちらに良い点もあるのであり、ポジティブな人とネガティブな人とのバランスでこの世界は成り立っているのである。

 従って、我々はポジティブな人になりたいとないものねだりをしたり、もっと幸せになりたいなんて渇望する必要は全然ないのである。
 本書『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』はネガティブなあなたに、あるいは私に「そのままでいいのだ」「自信を持て」と言うことを教えている。

 え? 幸せを目指す必要なんてない?

 その通り。
 幸福を目指せば目指すほど幸せから遠ざかっていくことも本書では鋭く指摘されている。「少しだけ不幸」がちょうどいいのである。

 ポジティブになろう、ネガティブを避けようと必至に頑張ることは無益なだけでなく、自分を取り巻く世界に見出だせるはずの喜びや関心や意味が、見えなくなってしまう。

 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』P.166

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