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【書評】『すぐやる! 「行動力」を高める”科学的な”方法』菅原洋平【著】

      2016/11/17

すぐやる!  「行動力」を高める“科学的な"方法

 「すぐやる系」「先延ばしをやめる系」の本は星の数ほどあるが、本書『すぐやる! 「行動力」を高める”科学的な”方法』は作業療法士の視点・事例に基づいて書かれている点が特異であり、稀有である。

私はリハビリテーションの専門職である作業療法士です。人間の脳や体の力を最大限に引き出し、その人がやりたいことを実現できるようにサポートするのが、私の仕事です。

 従来の「すぐやる系」「先延ばしをやめる系」の書籍は世界の心理学者たちによって、様々な実験を元にした研究論文を土台に書かれている。
 代表例はケリー・マクゴニガル『スタンフォードの自分を変える教室』であり、これは万人におすすめできる素晴らしい本だ。

 それに対し、本書『すぐやる! 「行動力」を高める”科学的な”方法』は作業療法士たる著者・菅原洋平氏の実務経験・実体験に基づいている。

 心理学と作業療法。違うアプローチの仕方であるにも関わらず同じ結論に至っている事例も多く、非常に興味深い。

 リハビリテーションというのは、脳のしくみや性質にもっとも注意を払う行為のひとつだと私は考えています。これまではできていた動作や思考が、「脳」が損傷を負い、その状態が変わったことでできなくなっている。それを改善するのがリハビリテーションだからです。
 より効果の高いリハビリテーションを行うための取り組みは、そのまま「脳の損傷のない私たちが、どうすればより自身のパフォーマンスを上げられるか」「自分の脳をより活用するためにはどうしたらいいか」ということに応用できます。

 脳に損傷を負った患者さんが物事を達成することができた事例を、我々の日常生活にも応用できるとする試みを記した本は新しいのではないか。
 少なくとも私は類書を知らない。

 本書は根性論や精神論などとは無縁の産物である。
 従って、我々にすぐやるようにさせるための解説が論理的であり具体的だ。
 誰にでもできるように平易に説明がなされているところにも好感が持てる。

 本書は、脳を「すぐやらない」「できない」状態にしないことが目的です。ここに”意志の力”は関係ありません。
 あなた自身が頑張るのではなく、あなたの脳が動きやすいように仕向けるのです。
 「すぐやらない」という問題が起こらないように。対策を立てていきましょう。

 

自分で食事ができなかった患者さんの例から学べること

 冒頭で紹介されているシンプルな実例を紹介しよう。

 ある患者さんは、自分で食事をすることができませんでした。脳に損傷はあるものの、手も動くし、食事をする能力自体はある。でも、食事を出されても自分では食べないのです。
 (略)
 ところがあるとき、少し食事の方法を変えたら、その状況は一変しました。すぐに、自分から食事をし始めるようになったのです。
 何を変えることで、その変化が生まれたか。実は、「一品ずつテーブルに置くようにした」だけです。
 それまでは、定食のようにトレーにすべての料理を並べていたものを、コース料理のように一品ずつ順番にテーブルに出すようにしました。ただそれだけで。自分できちんと食べるようになったのです。

 これは我々にも思い当たることがあるに違いない。
 この例で言う食事は、我々にとっての仕事や家事の縮図と考えることができる。

 

「トレーに乗った食事」とは?

 毎日、玉石混交の仕事が雑然と押し寄せてくる。優先順位を付けるだけでも疲れてしまう上に、上司や他の部署の人間、クライアントがごちゃごちゃ言ってくる。あまり仕事が片付かないままに今日もだらっと残業。

 あるいは、家事。テーブルの上を片付けなければならない、シンクに溜まった食器を洗わなくてはならない、散らかったチラシなど要らないものを処分しなくては、洗濯もしなきゃ、ゴミを捨てなきゃ――やらなきゃいけないのはわかっているのだけれど、結局何も手につかないまま今日もゴロゴロして休日が終わってしまった。

 思い当たることはないだろうか。
 要するにこれらは、上記患者さんの例で言うところの「トレーに乗った食事」である。

 

「食事を一品ずつテーブルに置くこと」とは?

 だけどもし誰かが(あるいは自分で)「今日は溜まった洗濯物を片付けなさい。それだけに集中すればいい」「今日は部屋に散らかった不要なチラシ類を片付けなさい。それだけでいいよ」とひとつずつ段取りを付けてくれたら、あれほど気の進まなかった家事も迷いなく捗るはずなのである。その調子でいけば一ヶ月後には良く整理整頓された部屋になっていることだろう。

 仕事も同じ。
 頼りになる上司に「まずはAをやってくれ。それが終わったらB。Bも終わって時間が余ったらCに取り掛かってくれ。それが今日の君の仕事だ」と言われたら、迷いなく仕事に向き合うことができるに違いない。
 少なくともAに取り掛かることができずに一日が終わった、ということは絶対にないだろう。

 要するにこれが、「食事を一品ずつテーブルに置くこと」である。

 

やり方を変えるだけで「すぐやる」ことができる

 「トレーに乗った食事」も「一品ずつ置かれる食事」も、食事の量は同じである。
 違うのは食事の出され方だけである。

 であれば、我々もやり方を変えることによって、あれほど先延ばしにしていた同じ仕事を「すぐやる」ことができるようになるはずなのである。
 しかも、「食事を一品ずつ置いていく」というような、とても簡単な工夫によって。

 重要なことは、同じ仕事を片付けるにしても考え方・やり方ひとつで全くやる気にならなかったり、逆にやる気になったりするという我々の脳の仕組みを知ることである。
 そして、やる気になる最善の方法によって自分を導くことである。

 

まとめ:「すぐやる」ためのスマートな方法

 先延ばしにしていた自分と決別し、「すぐやる」ためには脳の仕組みや癖を知り、「やる気」「忙しさ」「根性論」「精神論」に関係なくスマートに行動力を高める方法を知ることが肝要である。

 本書『すぐやる! 「行動力」を高める”科学的な”方法』には、上記「自分で食事ができなかった患者さんの例」以外に8つの例が紹介されている。
 いずれも作業療法士としての実例に基づくものであるため、机上の空論や抽象論ではない。

 誰でも実践できる根拠のある実例ばかりが紹介されていて、非常にわかりやすいのが本書の最大の魅力である。

 
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▲原題は「The Willpower Instinct(意志力の本能)」。人生を変える素晴らしい本。訳も読みやすくて良い。

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