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安心せよ。鳩も先延ばしをするという衝撃の事実

   

【サムネイル画像】安心せよ。鳩も先延ばしをするという実験結果

 人間の最大の敵は先延ばしである。

 散らかった部屋で過ごすのは不快であるとわかっているのに片付けないこと。
 夏休みの宿題を夏休み最後の日に慌てて徹夜で終わらせようとすること。
 両親の顔を見なくちゃと思いながら何年間も実家に帰らないこと。

 先延ばしによって悪い結果になる度に我々は落胆する。肩を落とす。
 何で計画的にやっておかなかったのだろう?
 前にも同じようなことがあったじゃないか。
 なぜできないんだ? 馬鹿なのか私は。

 安心したまえ。
 人間だけじゃなくて動物も先延ばしをしてしまうことがわかっている。

 

鳩の先延ばし実験

 心理学者ジェームズ・マズールが行った実験によれば鳩も先延ばしをすることが明らかになった。
 鳩って、あの鳩である。
 公園などでエサを絶えずついばんでいる勤勉そうなあの鳩である。

 どのような実験なのか見ていこう。

 マズールは鳩を訓練し、二種類の作業スケジュールを学ばせたうえで、いずれのスケジュールに従うかを鳩の選択にゆだねた。両方のスケジュールに共通するのは、最後に美味しいエサにありつけること。

 二種類の作業スケジュールというのが下記である。

 一方のスケジュールでは、まず少し作業をしてから長い休憩に入るのに対し、もう一方のスケジュールでは、しばらくのんびり過ごしたあとで大量の(もう一つのスケジュールの四倍相当の)作業を課される。要するに、いまちょっと仕事をする(そして、あとで楽をする)のか、それともいま楽をする(そして、あとで多くの苦労を味わう)のかの選択である。

 子供の頃、先生や親などに「早くやっちゃいなさい。でなければあとで苦労するよ」と言われた経験はないだろうか。「今やってしまえばあとで楽ができるのよ」とも。
 でも我々の大部分は締め切り日ギリギリまで楽をすることを選んだ。で、あとで慌てた。

 その選択を鳩に迫ったというのである。
 この実験で鳩は、仕事を先延ばしにしてしまうとエサをもらうためには四倍の作業をこなさなければならないことがわかっている。つまり、エサが欲しいなら先延ばしにすることは全く合理的でない。
 鳩たちはどのような振る舞いをしたのか、結果は言うまでもない。

 マズールの実験でわかったのは、鳩が課題の先延ばしをするということだ。最後に求められる仕事の量が増えると知っているのに、鳩たちは仕事を後回しにしてしまうのである。

 鳩は先に楽をする方を選んだ。
 夏休みの宿題を最終日に慌てて終わらせる方を選んだ。
 不便で不快なのに部屋を散らかしておく方を選んだ。
 実家に何年間も帰らない方を選んだのだ。

 衝撃の結果ではないだろうか。

 

先延ばしは人間の特権ではなくなった

 私はこの結果に二つの点で衝撃を受けた。

1. 動物にも計画性があり、非合理性があること

 動物は勤勉そうに見える。その反面、何も考えていないようにも見える。
 つまり、人間のように「仕事やんなきゃなー、あーでも面倒だなー、まだ一週間も先のことだし今日はやんなくてもいいか。明日から本気出して始めれば間に合うっしょ」みたいな葛藤が可能なだけの賢さがないように思えるのである。
 エサが目に入れば何も考えることなく食べ、眠くなったら何も考えずに寝てという具合に。
 動物には選択の無駄がないように思える。

 ところで、先延ばしには次の二つの要素が関係していると言われる。

 ・計画を立てることができること。
 ・衝動的に合理性なく計画を遅らせてしまうこと。

 動物が先延ばしをするということは、本能に任せて生きているように思えるけれど「計画を立てることができる」だけの賢さがあり、更にはその計画を「非合理に遅らせることができる」という更に賢いことさえ実行できるということである。

 私は無駄なことをするのは人間の特権であると思っていた。
 例えば、音楽は人生において「なければ死ぬ」という必要不可欠なものではないけれど、そうであるがゆえに音楽は人生を豊かにするのであり、そんな音楽を愛でることができるのは賢い人間の特権であると思っていた。
 つまり、音楽は人生にとって非合理であり、非合理であるがゆえに素晴らしいのである。

 しかし、動物にも非合理性はあった。
 それはつまり無駄なものが素晴らしいという感覚があるのかもしれないということである。
 私にとっての人間たる尊厳みたいなものが少し揺らいでしまった。

 

2. 人間は賢いから先延ばしをする、のではない

 人間は頭が良いので様々なことを考えることができ、綿密な計画を立てることができる。
 ただ、あまりにもたくさんのことを脳が処理できるので、優先順位ががちゃがちゃになってしまったり、失念してしまったりする。
 つまり、先延ばしというのはその人間の賢さ故のエラーみたいなものだと私は思っていた。

 どうやら違うようなのである。
 なぜなら鳩も先延ばしをするからである。

 これはもちろん、人間がする先延ばしという行為を動物もする、というのではない。逆である。
 「動物がする先延ばしを人間でさえしてしまう」というのが正しい。

 我々は衝動を抑えることのできない人間に対して「動物かよ」と揶揄することがあるが、先延ばしについても同程度の動物的行為であると認識するべきなのかもしれない。

 

鳩を用いた先延ばしの改善方法の提案

 これから我々は、先延ばしを「人間ゆえのエラー」ではなく「鳩と同じレベルの動物的行為」として考えていく必要がある。
 従って、先延ばしをしてしまった際には「ああ、また先延ばしにしてしまった。なんて駄目な人間なんだ」という程度の落胆では甘い。「自分は鳩レベルの脳みそしか備えていない人間なのかもしれない」と自戒することをおすすめする。

 そうすることによって、先延ばしを改善していくことができるかもしれない。
 私はこれを「鳩療法」と勝手に呼んでいる。「空想アニマル反面教師セラピー」と名付けてもいい。

 
▼本文引用&参考文献

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