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【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

【書評】『やってのける 意志力を使わずに自分を動かす』ハイディ・グラント・ハルバーソン【著】

      2017/01/12

やってのける ~意志力を使わずに自分を動かす~

 意志力や習慣化についての三大書籍と私が勝手に名付けているものがあって、それは『意志力の科学』(ロイ・バウマイスター、ジョン・ティアニー共著)、『スタンフォードの自分を変える教室』(ケリー・マクゴニガル著)、そしてここに紹介する『やってのける 意志力を使わずに自分を動かす』(ハイディ・グラント・ハルバーソン著)である。原題は「SUCCEED How We Can Reach Our Goals(成功するためにどうすれば目標を達成できるか)」であるが、日本語訳にあたり『やってのける』という極めて印象的なタイトルが付けられている。

 

何かを達成するにあたって覚えておくべき大原則

 我々は常に何かを達成したがっていると言っても過言ではあるまい。
 「今年こそはダイエットをする」「禁煙を成功させる」「一日一時間でいいから勉強をする」「一ヶ月に一万円でいいから貯金をする」――など。

 こういった目標を掲げて実行するにあたり、最も成功するためのコツは「意志力を使わないで」行うことである。例えばダイエットをするためにいちいち「よーし、今日はお菓子を食べないぞ」「今日はジョギングの日だから走ってくるぞ」「野菜をいっぱい食べるぞ」と意志の力を使っていてはいずれ疲れてしまい、やめてしまうのである。「今年こそはダイエットをする」という目標を高らかと掲げていたにも関わらず。
 意志力を使わないということは、つまり「習慣化」してしまうことに他ならない。

 好きなことを始めるときにはそれは我々の中で勝手に習慣化される。好きな俳優が出ている連続ドラマを毎週追い続けることができるということは、その新ドラマを毎週見ることが習慣化されたからに他ならない。そう、習慣化するための能力は既に我々の中に備わっているのである。あとは考え方や物事の捉え方を変えてみて、苦手なことでも習慣化しやすくする工夫をするだけなのである。

 

本書『やってのける』の特徴 ―自分を知ることから始めよう

 意志力や習慣化について書かれた書籍にはだいたい上記のようなことが書いてあって、具体的な考え方や実践方法が述べられている。その辺のことについては『スタンフォードの自分を変える教室』が大変わかりやすく、読みやすく書かれておりおすすめである。

 さて、本書『やってのける』の特徴としては、人の性格を分類した上でそれぞれへの適切な動機付けの方法があることが紹介されている。つまりは、自分の性格の傾向をまずは知ろう、そして適切な方法で物事を達成しようということである。
 具体的に見ていこう。

 

1. 物事を「なぜ」と捉える人、「何」と捉える人

 人は二種類に分けられる、すなわち、物事を「なぜ」と抽象的に捉えがちな人と、「何」と具体的に捉えがちな人である。優劣はなく、個性だ。
 同じ「部屋の掃除をすること」という事象も、「なぜ」思考の人は「部屋を綺麗にすること」と考え、「何」思考の人は「ゴミを掃除機で吸い取ること」と考える。

 

物事を「なぜ」と抽象的に考える人の特徴

 「なぜ」の抽象的思考の人は広い視野で物事を見ることができるため、モチベーションを高めやすいという特徴がある。「なぜ」という視点で捉えることにより、いまやっているコツコツとしたこともいずれ実を結ぶための努力だと考えられるようになり、計画的に行動できるというわけである。

 

物事を「何」と具体的に考える人の特徴

 「何」の具体的思考の人は、いま目の前のことに集中するのが得意である。例えば、「なぜ」思考の人が「なんでこんなことやらなければならないんだろう」と思案しているうちに「何」思考の人は余計なことを考えずにとっとと終わらせているというわけだ。

 

「なぜ」と「何」二つの考え方をバランス良く使い分けよ!

 先述の通り、「なぜ」と「何」の二つの考え方に優劣はない。お互いにメリットもあればデメリットもある。また、「なぜ」思考の人が「何」の考え方ができないというわけでもない。ただ単に考え方の傾向や癖であるというだけである。
 であれば、二つの考え方のいいとこ取りをしてしまえばいいのである。メリットだけを自分の考え方に取り入れて、場面場面で使い分ければいいというわけだ。

 計画を立てるときやモチベーションを上げるためには「なぜ」の抽象的な考え方でビジョンを自分の中に改めて提示しよう。「これをやろうと思った理由は何だったか」と目的を思い出したり、「ここで踏ん張ることで未来の力になる」と先を見ることで意欲を高めたり。
 ここで「何」と具体的に考えてしまうと目の前の些末な事象にとらわれてしまって道をまっすぐに進めなくなってしまう恐れがある。

 逆に、計画を立てた後の作業は「何」の具体的思考によってすべきことを集中して着実に行うのが良い。また、難しい作業にも「何」の具体的思考は向いている。理由なんて考えないで淡々と片付けてしまったほうが良い仕事だってあるのだ。

 このように、自分の考え方の癖を知った上で適切な時に適切な考え方をできるようにすることによって、目標に早く到達することができるように自分を仕向けることができるというわけなのである。

 

2. 「証明型」と「習得型」

 「証明型」と「習得型」は何によって動機付けされるかの違いであり、これにも正解や優劣はない。

 

「証明型」の人の特徴

 「証明型」は周囲に自分の能力を示し優秀さを証明するために努力する人であり、他人よりも良い成績をあげることに喜びを見出すものである。他人との比較によって目標を設定し、人の上に立つために努力を支払う。他人に承認されることによって意欲が上がる。

 好調な時にはモチベーションは比類ないほど最高潮なのだが、努力しても実らないことがわかった途端に簡単に諦めてしまうという特徴もある。諸刃の剣。

 

「習得型」の人の特徴

 一方「習得型」は自分の成長のために努力する人のことである。成績というわかりやすい基準で承認されたいのではなく、自分が着実に成長していることを自分の中で重視する。

 「証明型」のような猛烈に高いモチベーションはないかもしれないが、着実に努力を続けられるという特徴がある。成績が悪かった場合、「証明型」は一気に意欲が下がるのに対し「習得型」はやり方を変えたり取り組む時間を増やすなどして着実に努力し続ける。

 

「習得型」のすすめ

 本書では「証明型」と「習得型」のどちらが優れているというわけではないとしながらも、結論としては「習得型」の考え方を身に付けることを勧めている。

 それはつまり、他人や数値で比較された中で保たれる危うい自尊心を抱えた「証明型」よりも、モチベーションの浮き沈みの少なく学習の過程を楽しみながら着実に努力し続けられる「習得型」のほうが多くのことを達成できるということに他ならない。
 能力を示すことではなく、能力を得ることを意識するということである。

 

3. 「獲得型」と「防御型」

 本書では他にも「獲得型」「防御型」のアプローチが紹介されている。簡単に説明していこう。

 「獲得型」はポジティブであり、あれこれとアイデアを出して実行するが飽きやすい。一方「防御型」は悲観的で、リスクを回避することに重きを置くが粘り強く努力できる。
 もちろん優劣はない。そう、優劣がないからこそ二つのアプローチを使い分けることが肝要になってくるというわけである。

 例えば、私はリスクを嫌ってあらゆることを最大限に警戒する典型的な「防御型」なわけだが、リスクを嫌うがために頭の中であれこれと考えるだけで行動に移すのがとても苦手である。失敗したらやだなとか考えてしまう。
 そんなときには「獲得型」の「結果はどうなるかわからないけど、とりあえずすぐにやってみる」の考え方を取り入れてみれば行動力が高まって一歩を踏み出せるというわけである。

 

まとめ

 本稿においては私が特に印象に残った部分について上記に提示してきたが、本書『やってのける』は他の様々な書籍に引用を見つけることができる名著であり、科学的アプローチによって意志力や習慣化への的確なアドバイスがされている。

 どのように努力するかではなく、どのように努力しないかについて書かれた本である。努力なんてしなくても自分の中に潜む心理を理解し、上手にそそのかすことによって半自動的に目標を達成できる。

 血の滲むような努力ではない。そこにあるのは明晰な戦略である。

 あなたは怠け者だろうか? ええ、私は怠け者であり、努力という言葉は世界で一番嫌いである。
 そんな私が、何の得にもならない3,500字もの本書の書評をここにこうやって書き上げることができたのは、ひとえに本書を通読してそのアプローチを生活の中に取り入れたからに他ならない。

 
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