飄々図書室

【書評・読書感想文】本にまつわるあれやこれや

【書評】『スタンフォードの自分を変える教室』ケリー・マクゴニガル【著】

      2017/02/10

スタンフォードの自分を変える教室 (だいわ文庫)

 私はそれまでビジネス書みたいなものに全く興味がなかった。本は好きだったが、毒にも薬にもならないようなものを好んで読んでいた。成長とか目標とかそういう言葉はあまり好きではなかった。

 しかし、事情が変わった。やらなければならない時が来てしまったのだ。自宅でビジネスを始めるためにどうしても一人で集中して仕事をしなければならなくなったのだった。
 それまでの私と言えば、休日はただぼんやりと過ごしていた。目標や集中なんてものとは程遠い終日である。とにかく休みの日は一人で過ごしたいので、スケジュールに縛られることなくだらだらと漫然と一日が終わった。

 一人で家で仕事を始める。これではいけない。
 そうして「ビジネス書 おすすめ」とかでいろいろ調べてみた結果、『スタンフォードの自分を変える教室』のことを知ったというわけである。

 

『スタンフォードの自分を変える教室』の概要

 爾来、私は同じようなビジネス書を買って読む羽目になった。ビジネス書という世界の扉が大きく開いた。それほど『スタンフォードの自分を変える教室』のインパクトは凄まじく、素晴らしかった。人生を変えた本と言っても差し支えあるまい。

 正直私は当初『スタンフォードの自分を変える教室』を誤解していた。「どうせ”夢を諦めるな”とか無責任に書いてある抽象的でくだらない本だろ」と勝手に思っていた。

 違った。

 

原題は『The Willpower Instinct(意志力の本能)』

 まず『スタンフォードの自分を変える教室』の原題は『The Willpower Instinct(意志力の本能)』である。

 我々は常に何かを望んでいる。よく用いられる例で言えば「タバコをやめたい」「ダイエットをしたい」「毎日勉強する時間を確保したい」あたりだろうか。しかし、多くの人が「ダイエットしなきゃなー」と思っているにも関わらず実際に始められないばかりか、「今年こそは本気でダイエットするぞ」と意気込んだとしてもせいぜい一週間や一ヶ月で諦めてしまったりするのが実情である。

 中には「ダイエットする」と決めたらきちんと継続して涼しい顔をして着実に目標を達成してしまう人もいる。にも関わらず、どうして自分はいつも継続できないのだろう、やらなきゃいけないのはわかっているのにどうしてできないのだろう、もしかして自分は生まれつき駄目な人間なのかも――。

 そう自分を責めてしまう気持ちはわかるけれど、本書『スタンフォードの自分を変える教室』ではその一切を否定している。「つまりは目標に向かって何かを継続することは特別なことではない。誰にでもできる」と言っているのだ。そう、私にも、あなたにも。なぜなら意志力という本能は誰にでも備わっているものだからである。

 

脳の仕組みを知れば自分を変えることができる

 そのためには、我々の脳の仕組みを知らなければならない。どのような時に脳のモチベーションが上がるのか、逆にどういう条件で下がってしまうのか。継続できないのは脳がどのような判断を下してしまうからなのか。脳が誘惑に負けてしまうのはなぜなのか、誘惑に負けないようにするにはどうすればいいのか。もう少しなのになぜ諦めてしまうのか――。
 それらをきちんと知ることによって自分を客観的に捉えることができ、適切な目標を立てることができることの他、様々なシーンにおいて適切に自制できるのである。

 例えば、YouTubeでは絶え間なくおすすめ動画が推薦されてくるのでついついクリックして漠然と観てしまうけれど、それはドーパミンという脳内物質の作用によって脳がどんどん刺激を欲しがっていることに我々が操られているだけ。動画を次々に再生しても何の得にもならないし何の意味もない。ということがわかっていれば、貴重な時間をだらだらとYouTubeに費やすことはなくなるのである(YouTubeが問題なのではなく、本当は勉強したいのにYouTubeをだらだら観てしまうというのが問題なのだ)。

 例えば、ダイエット中、お菓子をものすごく食べたいのに「ダメダメ、絶対に食べちゃダメ、だってダイエット中だもの!」と考えることは全くの逆効果(シロクマのリバウンド効果)であることを知っていれば、違ったアプローチによって簡単にお菓子を食べないことを達成できるのである。
 シロクマのリバウンド効果とは「今から一分間、何を考えてもいいけれどシロクマのことだけは絶対に考えてはいけません」と言われると、逆になぜかシロクマのことが気になってしまい、考えるなと自分に言い聞かせるほどにシロクマのことで頭が一杯になってしまう逆説的な現象のこと。

 そういった極めて実用的なことが本書には濃密に書かれている。

 

『スタンフォードの自分を変える教室』私が素晴らしいと思った3つのこと

1. 豊富な情報量

 私の知識が乏しかったせいなのかもしれないけれど、全てのページで目から鱗。一瞬たりとも飽きさせない構成力と潤沢な情報量。頭の中に新しい知識、それも実践的な知識が獲得されていく快感。
 文庫本で350ページ程度だけれど、大変に濃い読書体験となった。

 

2. 科学的裏付けがある

 本書を極めて説得力の高いものとしているのは全てに科学的、心理学的裏付けが取れているからである。著者はそれら実験結果や論文を丁寧にわかりやすく読者に提示し、それが何を意味するのか、実生活にどのように活かせるのかを解説していく。
 机上の空論や根性論ではない。増して”夢を諦めるな”と無責任に声高に叫ぶだけの軽薄な自己啓発本とも一線を画する。科学を論拠にした信頼のできる本である。

 

3. とても読みやすい

 単純に読み物としておもしろいのである。私は普段、家ではあまり本を読まないようにしているのだけれど、本書に限っては殆どを家で読んでしまった。夢中で読みふけった。単なるビジネス書であるにも関わらず、ミステリー小説のように続きが気になって読まざるを得なくなったという不思議な体験だった。
 日本語訳が読みやすく秀逸だったというのもあるだろう。まるで日本語が原著であるかのようになめらかな訳文ですらすらと読めた。

 

まとめ

 『自分を変える教室』とのタイトルにもあるように「駄目な自分を変えたい」と思う人が読めば「自分は駄目なんかじゃない」と思えると同時に変わるための実践的な知識が享受される。
 人を動かす立場にいる人が読めば、どうすれば部下やアルバイトが生産性とモチベーションを高く保って働いてくれるかを学ぶことができるだろう。
 読み物としても非常におもしろいので、目的なく手に取ったとしても充分に楽しめるに違いない。

 ベストセラーになっただけのことはある。私の中でもこれを超えるものはしばらくないのではないかと思えるくらい衝撃があり、実践的な本だった。超絶おすすめである。

 - ビジネス書