なぜ男は本能的に巨乳が好きなのか。その生物学的理由とは?
私たちが巨乳を好むようであるのは自明である。雑誌のグラビアや成人向けビデオにおいても女性の殆どは大きめのバストを携えていることが多い。
なぜ巨乳が好まれるのだろうか。誰もが言うだろう「だってそりゃあ、大きい方がいいじゃん」と。しかし、それでは答えになっていないのである。
つまり「男はなぜ巨乳が好きなのか」という問いの本質は、「生物としての我々男性はなぜバストの大きさを性的シグナルとみなして、より大きい異性に惹かれてしまうのか」という問題である。
好きになるのには全て理由がある ―なぜ可愛い子やイケメンはモテるのか
例えば、「可愛い女性が好きである」というのにはきちんと理由がある。私たちは誰だって可愛いと可愛くない(いわゆるブス)を選べと言われたら「可愛い」方を選ぶのであり、イケメンとブサメンでは他の条件を抜きにすれば殆どの場合はイケメンに軍配が上がる。
その理由は何か(「だって可愛い方がいいじゃん」は理由ではない)。
ところで、生き物としての私たちの唯一の目的は自分の遺伝子を後世に残すこと、その一点だけである。男性であれば女性を妊娠させること。女性であれば優秀な男性の子どもを授かること。究極、私たちが生きている目的はそれだけであり、私たちの行動は原則的に全て「モテる」ために発動される。
整った顔立ちは健康の証である他、優秀な遺伝子を持っていることの証拠になり得る。そう、私たちが器量の良い(可愛い、イケメン)異性に惹かれてしまうのは、より良い遺伝子を後世に残せる可能性を感じているからである。
「可愛い、イケメン」以外にも私たちが異性に対して恋に落ちるポイントは様々ある。優しい、家庭的、積極的、頭がいい、明るい、冷静、筋肉質、ぽっちゃり――など。どういった異性を好きになるかは個性の問題である。「家計管理のできる平凡な顔立ちの奥さんを貰う」ことと「金遣いの荒い美人の奥さんを貰う」ことの間に優劣はない。単なる好みの問題である。
そしてその好みの中に男性の意見として「巨乳」という条件も含まれることとなるのである。
男性が惹かれる女性像の科学的データ
『精子戦争 性行動の謎を解く』(ロビン・ベーカー著、秋川百合・訳、河出文庫)によれば、男性が女性を魅力的だと思う基準は「健康」「妊娠能力」「貞淑」の3つであり、そのような特徴を持つ女性に惹かれるようにプログラミングされているという。本書においては男性が魅力を感じる女性像がかなり具体的に書かれているので紹介しよう(P208-209)。ちなみに、これら特徴は程度の差こそあれ概ね世界共通だそうである。
・ウエストがヒップの70%である女性を好み、太っているか痩せているかは関係ない(健康、妊娠能力)
・澄んだ瞳、つややかな肌と髪の毛、特に左右対称の顔の形(健康、妊娠能力)
・ある程度のおとなしさと依存性(貞淑)
・年齢は20歳かそれ以下(妊娠能力)
・バストの大きさと形(?)
「ウエストとヒップのバランス」や「整った顔立ち」は健康と妊娠能力を選別するため。「若い子が好き」というのは妊娠能力の高さのため。「おとなしくて頼ってくれる女性が好き」というのは貞淑さの目安になるため。
そして上記によれば、確かに男性が女性のバストの大きさに惹かれるのは世界共通の現象として確認できるようである。しかしここで重要なのは、バストの大きさと子どもを授乳し育てる能力の間には何の関連性もない(前掲書、P209)ということである。
そう、「巨乳が好き」というのは生物学的に何の意味もない基準なのである。ロリコンは「妊娠能力が高い女性を本能的に好んでいる」として説明できるが、「おっぱい星人」については何の説明もできない。なぜなら巨乳が男性にもたらす生物学的メリットは何もないからである。
謎は深まった。私たちが巨乳を好むのは確からしいけど、その理由は何なのか。
動物は単純なシグナルに惹かれる
『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』(ジャレド・ダイアモンド著、長谷川寿一・訳、草思社文庫)においては異性を魅了するための性的シグナルについての興味深い論が展開されている。
例えば、ある種の鶏は鶏冠(トサカ)の大きさでオスの強さが決まる。一匹のメスを争って二匹のオスが対峙した場合、鶏冠の大きい鶏は戦わずして勝ってしまう(つまり、鶏冠の小さなオスは無条件で退却する)。孔雀もそう。より美しいオスが勝つことになっている。アフリカのコクホウジャクという鳥は尾羽の長さが優劣を決するという。
鶏冠、美しさ、尾羽――。これら異性を惹き付ける役割を果たす単純なアピールポイントのことを性的シグナルという。鶏冠が大きいという極単純なことで優秀な遺伝子を持っているかどうかがわかってしまい、メスはそれに引き寄せられ、オスはメスを独り占めすることができる。なぜ性的シグナルに異性は引き寄せられてしまうのかについては諸説あって理由ははっきりしていない。
もちろん人間にもシグナルはある。それは先にも述べたように、容姿であり、肉付きであり、知性であり、性格であり――、人間社会特有のもので言えば家柄であり、職業であり、年収である。そして、女性のバストもシグナルの一種とみなすことができるだろう。
人間も単純なシグナルに惹かれる
女性における脂肪はその魅力において極めて重要な要素である。なぜなら、「適度な脂肪がある=健康である=子どもを生み育てる能力がある」とみなされるからである(ちなみに、モデルやグラビアアイドルのように体の線が細い女性が好まれるのは「痩せている=若く見える=妊娠能力が高そうに見える」というただそれだけの理由である)。
前掲書『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』では、なぜ人間の女性にバストがあるのかについて「脂肪が身体の全体に均等に広がっていると量の識別が困難なので、見ただけで評価できるように女性の身体のある特定の部分に脂肪が集中するように進化してきたのだろう(P213)」と推測している。
現代社会においては「余分な脂肪がある=不健康である」とみなされがちだけれど、人間がまだ狩猟生活をしていた頃は食料にありつくのもひと苦労だったのであり「余分な脂肪がある=健康である」という証左であった。で、その余分な脂肪を「(男性が)見ただけで(魅力的であると)評価できるように」胸部に集中するようになった。要するに女性が「自分は健康だよ(魅力的だよ)」とバストによって簡単にアピールできるように進化したということである。
結論:なぜ男は巨乳が好きなのか
そこまではわかる。
しかし問題になってくるのは「バストが大きい人が全て優れているとは限らないことを今の私たちは知っている」ということである。むしろ、バストの大きさと健康とは全く関係なく、ランダムであるように思える。バストの大きさと女性の何かの長所との相関関係を示したデータは少なくとも私は寡聞である。上で見たように「バストの大きさと子どもを授乳し育てる能力の間には何の関連性もない」ことも科学的に示されている。
ということは、残された可能性はただ一つ。下記が本稿の結論である。
巨乳とは、当該女性が健康であり子どもを産み育てる能力が高いことをアピールする「欺きのシグナル」である。
つまり話の流れはこうだ。女性の身体の進化における仮説である。
余った脂肪を胸部に集中させてアピール
↓
胸の大きな人(健康で授乳力がありそうな人)がモテる
↓
一部の女性はモテるために体の成長におけるリソースを胸の発達に注ぎ込む戦略を採る(健康かどうかは関係ない)
↓
真に健康な巨乳とそうでない巨乳(欺きのシグナル)が入り乱れる
↓
男は馬鹿なので判別ができずに全ての巨乳が好きなまま(←イマココ)
まとめ
なぜ女性の乳房が発達して進化してきたのかについては諸説あって、本稿における結論「授乳能力偽装説」もその一説にすぎない。
それにしても男はいつも女性に騙されてばかりなのである(逆もあるだろうけど)。彼女たちに悪意はないわけだが、遂には巨乳という物理的に存在するものにさえ騙されているかもしれないことが明らかになってしまったのだった。
参考文献:
ディスカッション
コメント一覧
私は巨乳が特に好きではないのですがこれはなぜですか
生物の進化する過程で生まれる突然変異というものでは。
生物学的には突然変異と自然淘汰の2つが生物進化の根源であると言われているのでそう説明できるかと思われます。
余分な脂肪がある=健康であるからモテるなら、太った女性もモテそうなもんだが、基本的にそうではないので違うんじゃないかなぁ