TVアニメ「School Days」に学ぶ恋愛術〜これで君も伊藤誠になれる!
本稿はTVアニメSchool Daysにおける恋愛心理を紐解き、それに基づいて伊藤誠を志向、あわよくば伊藤誠を超えることを唆すものである。
■登場人物について
本稿における主要な登場人物は下記である。
・伊藤 誠(いとう まこと・主人公・男)
・桂 言葉(かつら ことのは・メインヒロイン・女)
・西園寺 世界(さいおんじ せかい・サブヒロイン・女)
上述の通り、ヒロイン2名の名前は「言葉」「世界」と一般抽象名詞がそのまま固有名詞へと流用されている。従って、混乱を避けるため、本稿で言うところの「言葉」「世界」は当該ヒロイン2名を指す固有名詞としてのみ使用する。例えば、一般名詞としての「ことば」の意味での「言葉」は本稿では使用しない。
1.恋人持ちの相手を落とす方法〜とにかく褒めまくる
■状況
誠は言葉に思いを寄せ、世界は誠に思いを寄せる三角関係であった。世界が誠の恋を応援、言葉との仲を取り持つことで、誠と言葉は交際に発展した(1話)。世界は継続して友人として誠に寄り添い続けて悩みを聞くなどした(2話〜)。
■戦略
恋人持ちの相手を落とす決定的な手段として、相手、相手の恋人、その二人の関係を褒めまくるというのがある。決してマウントを取ってはいけない。マウントとは「なんであんな奴と付き合ってるわけ? 別れたほうがいいよ。自分と付き合ったほうが絶対にいいじゃん。自分はこんなに魅力的な人間であり、あいつよりもこんなにも優れているよ?」というやつである。「マウントを取る」ことで相手の心情は下記の如くなる。
・そもそもマウントを取ってくる者、意見を押し付けてくる者は不快。
・マウントを取ることにより、むしろ、相手の現状の恋人との結びつきが強くなる(反対されたらむしろ燃え上がる)。
では、逆になぜ「褒めまくる」のがいいのか。過去の記事で書いたことがあるのでそれを引用する。
恋人のいる相手を自分(あなた)のものにしたい場合、最も有効な戦略は、下心を見せないで相手、相手の恋人、その二人の関係を褒めまくることであると言われている。なぜか。まず人は褒められると褒めてくれた人を信頼する。で、褒められすぎると人は「いやー実はこんな悪いところもあって」などと返答するようになる。やがて、相手は信頼できるあなたに恋人の不満を漏らしてくるようになる。そのうち、喧嘩したことを報告・相談してくるようになる。それでもあなたは「素敵な君が選んだ相手なんだからきっと素敵な人だよ」と褒め続ける。相手は「そっか、私の恋人は素敵なんだ」と一時的に気分が良くなるが、日常に戻って待ち受けるのはそこまで素敵ではない恋人への不満である。で、またあなたに相談してくる。あなたは「いや素敵なはずだよ。別れるなんてもったいないよ」と言い続ける。それを辛抱強く何度も繰り返すことにより、ある日、恋人への不満が限界に達した相手から世界で一番信頼できるあなたに「別れた」と報告して来、めでたしめでたしである。
■結果
誠は言葉と交際を開始したはいいが、言葉のうぶで理想が高く潔癖症気味な態度に困惑していた(2話〜)。世界はそんな誠の話を親身になって聞き、自らの恋心を封殺し、誠と言葉がうまくいくようにアドバイスを送り続けた(褒めまくった)。すると、ある日、誠はすっかり世界を信頼し「言葉の相手するのって、疲れる」と本音を漏らすようになった(3話)。そこから誠と世界は急速に距離を近づけることとなる(4話〜)。
■教訓
誠は愛すべきクズだが、なぜ愛すべきかというと「少なくとも人の恋人を奪ってはいない」という要素がある。そういう意味で、このSchool Daysでは世界が最も「クズ」「悪い」(Google検索候補に出てくる)という考え方もある。
我々が目指し、超えていかなければならないのは伊藤誠である。伊藤誠を超えるためには、愛すべきクズではなく、本当のクズにならなくてはならない。そのためには最も「悪い」「クズ」であるところの世界の上記戦略は非常に参考になるだろう。
2.相手の心を支配する方法〜ツァイガルニク効果
■状況
誠と言葉の(肉体)関係が進展しないことに悩む誠に、世界は「誠は女心がわかってない。私が練習相手になってあげる(大意)」と提案する。かくして、誠と世界は練習と称するデートのようなことをし、校舎の屋上で練習と称して双方合意の上で肉体関係を持ちつつあった。が、第三者の偶発的な介入により行為は中断され、二人は別々の帰路につく(4話)。
■戦略
「中途半端になっていることが気になって仕方がなくなる」という心理現象がある。ドラマやアニメで言えば、次話への「引き」である。「この後驚くべき展開が」というような終わり方をしていればしているほど、我々はその物語が気になって仕方がなくなり、一週間後が待ち遠しく、同じ回を何度も見返すなどしてしまう。
また、ビジネス界隈ではこれを逆手に取って「次の日にスムーズに仕事を始められるように、敢えて前の日の仕事を中途半端にしておけ」とか、あるいは順手に取って「気になっていることがあると仕事が捗らないので、全て書き出して頭の中から追い出せ」などと言われている。
ビジネスではそのようにわかっていても、こと恋愛になると我々はガツガツしがちであり、全てを1日で完遂したがってしまう。しかし、やはり肝要なのは「中途半端にしておくこと」で、次を期待させることである。あなたが相手のことを一日中気になって仕方がなくなった経験があるように、「中途半端」を効果的に発動することで、相手も一日中あなたのことが気になって仕方がなくなる。
余談だが、私の友人にナンパが趣味という者がおり、ある時、彼は「こないだナンパした子にいきなり『赤と黒どっちが好き?』とLINEしてみた」と言った。私は意味がよくわからなかったので「どうゆうこと?」と言った。彼は「いや、俺もわかんない。意味なんて全然ない。なんかおもしろいかなーと思って送った。赤だか黒だか忘れたけど返信があったが、ふーんと思ってそれから特に何も返していない」と言った。なんじゃそりゃ、と私は思ったが、おそらく「赤と黒どっちが好き?」と質問された相手も「どうゆうこと?」と思ったに違いなく、返信が来ない間は「そう言えばあの質問って何だったんだろう」とふと想起されると思われ、気になって仕方がない、とまでは行かなくとも、日常の中の引っ掛かり程度にはなっただろう。なるほど、モテる者は自然と天然でこういうことをやってるんだなと思った。
■結果
世界との行為を中途半端にされた誠は、その行為の続きが気になって仕方がなくなり、世界にその続きをせがみ、最終的には「世界が好きだ。世界じゃなきゃだめなんだ」と告白し、言葉と世界との二股が完成し、めでたしめでたしであった(5話)。
■教訓
我々が伊藤誠を目指すにあたって、この「中途半端にしておく」というのは極めて実践的且つ効果が高い。
物語の後半の話になるが、二股状態である誠は当然ながら、片方の相手をしている時にはもう片方の相手をすることはできないため、必然的にどちらか一方が「中途半端にされた」状態にならざるを得ない。それによって二人とも沼のように誠にハマり、どんどん離れられなくなっていったとも考えられる。恋人持ちや既婚者がとりわけモテるというのは、このようなメカニズムも一端を担っているのではないかと思われる。盛り上がってたはずのLINEの返信が急に来なくなれば「嗚呼、今ごろ奥さんといちゃいちゃしてるのかなぁ。。。(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)」などと感情が揺さぶられ、更にハマっていく。
伊藤誠を師匠と崇める我々は一人の恋人に満足してはいけない。0を1にするのは難しいかもしれないが、1を2にするのは意外なほどに容易であり、もちろん恋愛においても例外ではない。我々に求められるのは飽くなき向上心と、無限の性欲と、足し算である。
3.相手にYESと言わせる方法〜理由・言い訳を与える
■状況
誠と世界は肉体関係を持ったが、それは先述の通り、言葉との(肉体)関係を進展させるための「練習」という名目であった(6話)。
■戦略
人が行動を起こすためには何らかの理由が必要である。それは自らの心からの理由であれ、誰かに与えてもらった理由であれ、どちらでも良い。つまり、相手にこちらの望んだ行動を起こさせるためには、何であれそれっぽい理由・言い訳がそこにあればいい。そして、その言い訳が自然でマイルドであればあるほど行動を起こさせやすい。
その最たる例と思われるものが、ふらふらとホテル街へと歩いていき「[寒い|疲れた|二人きりになりたい]から[暖かい|休める|落ち着く]場所に行こう。何もしないからさ」である。これは教科書通りの陳腐な戦術であるように思われるかもしれないが、教科書を侮ってはいけない。
あるいは二人で出かけるきっかけを作るなら「あなたの好きそうな[ラーメン|パスタ|ハンバーグ|お寿司|飲み|つけ麺|焼きまんじゅう]屋さん見つけたんだけど、今度一緒に行かない?」である。
とにかく何でもいいから言い訳を思い付いた者が相手をコントロールすると言っても過言ではない。
■結果
世界は誠との度重なる行為を、言葉への背徳を感じながらも「練習だから仕方ない(大意)」と自らに言い聞かせるように是認し、受け入れ続けてしまう。「練習」というたった一つの小さくどうでもいい言い訳が二人を繋ぐ大きな意味を持つこととなった。
■教訓
「何もしないからさ」と言っても(合意があれば)何もしないわけがないのである。その辺は口八丁と言いますか、コミュ力と言いますか、ある種の図太さと言いますか、明文化できない何かがある。言えることは、言い訳があったほうが誘いやすく、相手もそれに能動的に乗りやすいという点である。言い訳は決して嘘や悪ではない。
ちなみにこれはまじで余談だが、私のかつての職場で、アルバイトの女性(19歳)を「何もしないからさ」と言ってホテルに誘い(そもそも待ち合わせ場所がホテルの前だったらしい)、室内で4時間土下座をし続けて頼み込んだが合意が得られず、何もせずにそのままホテルから出てきたという者がいた。彼は女性社員たちから「4時間男」という不名誉なあだ名で呼ばれることとなった。
4.相手を依存させる方法〜アメとムチで感情を揺さぶる
■状況
誠の携帯電話が言葉からのメールをブロックする設定にされてしまった(世界の友人によって)。言葉は誠にメールが届かないことに困惑し、不安な日々を送るが、対面した誠はいつも通り、あるいはいつも以上に優しく、言葉は安心した(7話)。
■戦略
人は「良い感情(楽しい・嬉しい・幸せ)」と「悪い感情(悲しい・寂しい・不安)」を交互に味わうと、その対象にハマってしまう、と言われている。ギャンブルなどは最たる例で、当たった時の興奮とお金だけが減っていく焦燥を交互に味わうことで依存症への道のりができる。スマホゲーのガチャも然り。あらゆるエンターテイメントはこのように人を依存させるように周到に設計されている。
ということは、この「良い感情」と「悪い感情」の揺さぶりを人工的に作り出すことによって、相手を自分に依存させることができるということになる。端的に言えば下記である。
1.めっちゃ優しくする🥰
↓
2.完全に無視する😭
↓
3.何事もなかったようにめっちゃ優しくする🥰
最初はとにかく褒める、話を聞いて共感する、肯定し続ける、些細なことも気遣うなど、相手にとって心地良い存在になることを心がける。自分の話をする必要はない。とにかく話を興味深げに聞き、多少のわがままも引き受ける。「こんなに自分のことを理解してくれる人はいない!」と相手に思ってもらうようにする。これが奏功すると、相手は「良い感情」になり心を開くと同時に、何でも受け入れてくれるあなたにどんどん過剰なわがままを言ってくるようになる。
で、相手の「良い感情」が頂点に達したっぽいところで、突然に連絡を遮断する。LINEは既読/未読スルー。電話に出んわ。すると相手には「悪い感情」が芽生える。おおよそ、相手の感情及びそれが反映された相手からのメッセージは次のように変遷する。
既読スルーすな!通話に出ろこのハゲー!(🤬怒り)
↓
ねぇ、どうしちゃったの。声が聞きたいよぉ(😭泣き)
↓
わがままだったかな。自分が悪かったよね(😐冷静になる)
この相手が冷静になったタイミングで何事もなかったようにこちらからコンタクトを取る。すると相手には「良い感情」(うぇい!返信が来たよおおおぉぉぉ🥰🥰🥰)が爆裂し、完全にキマる。「良い感情」→「悪い感情」→「良い感情」の振り幅が大きければ大きいほど効果が高い。依存状態となっている相手には、こちらの要求を通しやすくなる。
■結果
誠と交際を開始((言葉にとって)🥰良い感情)1話
↓
言葉のペースを弁えず誠が暴走しがち(😢悪い感情)2話
↓
誠はそれを謝罪、優しく紳士な対応(🥰良い感情)同上
↓
誠が世界との肉欲に溺れ出すと言葉への態度は冷たくなる(😢悪い感情)6話
↓
遂には誠にメールが届かなくなり音信不通に(😭😭最悪の感情)7話
↓
廊下で偶然会った誠は優しかった(🥰🥰最高の感情😇完全にキマる)同上
■教訓
上の「戦略」の項で申し上げたのはかなり極端な例である。相手が激烈なぴえん状態なのに戦略的に無視するとか人間の所業ではない。誠は世界の友人によってメールをブロックする設定にされたことで偶然にも依存状態を作り出すことができただけの話であり、戦略的に言葉を黙殺したわけではない。
伊藤誠という神を崇拝し、あわよくば神を超えんとする我々は、当然ながら上記戦略に基づいて不特定多数を依存させていくことが推奨される。繰り返しになるが、人間の所業ではない。伊藤誠はギリギリ人間であった。我々は人間を超えていく必要がある。それが幸せで楽しい恋愛かどうかはまた別の話である。
5.その他の事象〜特に性愛について
■状況
School Daysにとって切っても切り離せないものが性愛であり、その自由奔放さが伊藤誠をクズたらしめている。本稿では悩んだ末に性愛の戦略については詳しく取り扱わないこととした。理由は、記事の性質上、どうしても男性側に偏ったものになってしまう懸念があり、本稿はそれを望まないからである。上で書いてきたことは、なんとか偏りのないところを攻めたつもりだが、4時間男以外の誰かを不快にさせてしまったら申し訳ないと思う。
とは言え、全く取り扱わないのは不自然であるので、性愛を含めたその他を下記で簡単に触れておく。
■戦略
・モテる者がさらにモテていくモテスパイラルと(いう陳腐な名称で)呼ばれている現象がある。なぜモテる者がさらにモテるのかというと、モテていると観測される者は優秀な遺伝子を持っている蓋然性が高いと客観的に推定されるからである。11話Aパートがそれに当たる。
・11話Bパートではモテモテ伊藤バブルが崩壊するが、それは世界が妊娠した(らしい)ことが直接の原因ではない。世界の妊娠に真摯に向き合わなかったことが原因である(世界の台詞「真面目に考えて!」が教室中に響き渡る演出がある)。従って、ここで伊藤バブルを崩壊させないための手段は、「体調は大丈夫か。一緒に育てよう」と思ってもいないことを嘘八百で世界に伝えることであった。そうすれば「誠実な男」という印象を周囲に与えることができ、むしろ株が上がり、おそらく永久にAパートみたいなものが続くことになったであろう。だが、これはこれで先のことを何も考えていないクズの態度であり、どっちもどっちであった。
・誠は各女子一人ひとりと数回に渡って行為をしており、拒否をされないということは、おそらく「行為がかなり上手」なのだと思われる。「行為が上手」というのは端的に言えば、少なくとも二人きりの時には優しく、思いやりがあり、コミュニケーションが取れている、を意味する。
・あるいは物体の大小の問題もあり、「伊藤は大きい」と邪推することも可能だが、作中で伊藤のそれが計測されるシーンは出てこないから、藪の中である。大きければ汎用性が高いというものでもおそらくない。生まれつきテストステロン値は高そうである。
・女性は行為をした後に必然的に相手のことを好きになる、なぜなら、認知的不協和を解消するため(好きだから行為をした、と脳が整合性を持たせようとする)、という言説がある。それはわかるし、ありふれた事象であると思われるが、本稿においてはそれを支持しない。つまり、何が言いたいかと言うと、誠と関係を持った女子たちは、「一度行為を持った」からという単純な理由で誠に好意を抱いて二度三度となったのではなく、前述の通り、「行為が上手」だったから誠にハマったのである。そう解釈することで、伊藤誠という人物に深みが出て良い。
■結果
伊藤誠は死んだ。
■教訓
本稿の目的は伊藤誠を志向、あわよくば超えることである。しかし、死んでしまっては元も子もない。我々は伊藤誠を志向しながら、伊藤誠とは異なる道を、伊藤誠とは別のやり方で生きなくてはならない。共に生きよう。来たるべきクズのために。
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