全力でふざけていたい!『日本一「ふざけた」会社のギリギリセーフな仕事術』シモダテツヤ【著】
あれはオモコロというサイトによるものだったと思うが、株式会社バーグハンバーグバーグという企業があることを知ってしまった時、こんなにふざけた会社があっていいのかと戦慄した。
その企業サイトは、とにかくやりたい放題だった。何を目的にしているのかわからない禍々しいイラストに彩られ、企業案内、会社概要、採用情報などの各種コンテンツの内容も徹底的にふざけ倒していた。
ページ最上部には、
両手を振り上げ、口から火を吐きながら、のっしのっしと歩く
と、標語か企業理念みたいなものが掲げられているが、それは一体何だ。
その日から私は株式会社バーグハンバーグバーグのことが気になって仕方がなかった。本当に会社なのだろうかあれは。それにしてはふざけすぎている。
一方で、そのふざけ方が突き抜けすぎていて、情熱さえ感じたのも事実だ。
万が一それが会社であるとすれば、あのような会社は今までに見たことがなかった。
最初に株式会社バーグハンバーグバーグという存在に触れた時に感じた戦慄は、同社の企画「インド人完全無視カレー」が発動された際、震撼へと変わった。狂気さえ感じた。こんな無茶苦茶なことをやってしまっていいのかと唸った。
インド人シェフを監修として招き、そのアドバイスをすべて無視して作ったカレー
ウェブ上ではプロモーションサイトが特設され、インド人シェフのアドバイスが一つも聞き入れられずにカレーが出来上がっていく様をまとめた動画が配信され、それらのひとつひとつに私は腹を抱えて笑った。
緻密なプロモーション戦略が功を奏し、「インド人完全無視カレー」は大盛況のうちに完売したようである。
同書は、株式会社バーグハンバーグバーグ社長のシモダテツヤ氏が自身の仕事術や企画論を惜しげも無く披露した、初めての著書である。
その発売を知ってすぐに書店に足を運ぶと、目的の新書はすぐに見つかった。帯に「残り一冊!」と記されていたので、手にとって急いでレジに持っていった。書店に並んでいた三冊くらいの同書の全ての帯に「残り一冊!」と書いてあった。
この本を書くために平仮名とカタカナを覚えました。
書き出しからしてこれである。どうかしている。
だがしかし読み進めると、端々のふざけはそのままにきちんと書かれている。
僕の中でのパロディー論について少し真面目に語らせていただこうと思います。
少し堅苦しい話になってしまうかと思いますが、この本を読んでくださっている方はそんなこと気にせず、リラックスして、乳首にオロナインやサラダ油を塗りこみながら読んでいただければ幸いです。
例えば、過去の企画についての紹介、どのようにしてアイデアを思いついたか、なぜそれをやろうと思ったか、おもしろい企画はどのように考えるか、コンプライアンス問題をどのように切り抜けたか、会社運営の仕方、社員への接し方など、その他のことについても詳しく丁寧にわかりやすく解説されている。
ビジネスマンが同書を読んで参考になる部分あるかどうかは各人に任せるとして、良質な息抜きにはなるのではないかと思う。少なくとも私にとってはそうであった。
私事になるが、社会人のよく言う向上心という言葉があまり好きではない。
そういった向上心を掲げる者は、上だけを目指すことに気をとられて周りが見えていなくなりがちであると私は考える。例えば、出世を第一に考える者は上司に好印象を与えることに躍起になるあまり、今優先してすべき細かな仕事が目に入らなくなりがちというように。
散々述べてきた前言に真っ向から逆らうようだが、株式会社バーグハンバーグバーグは真面目な会社だ。
前述の「インド人完全無視カレー」においては、どうすればおもしろいか、インパクトがあるかを考え、「せっかくのインド人シェフのアドバイスを蔑ろにするなんて」というクレームへも慎重に気を払い、大成功させた。
その成功は、向上心の産物によるものではないと私は考える。もし向上心とやらがあったなら、インド人のアドバイスを全て聞き入れて、それはそれは美味しい普通のカレーがリリースされていただろうからである。
恐らく「インド人完全無視カレー」は、おもしろいと思ったからやった、それ以上でもそれ以下でもないのだと思う。上を目指すとかそういったものとは全く無縁に私には思える。だからそれはおもしろかった。
社会人とやらは、向上心をなくしたら終わりだとかよく言うが、間違いではないだろう。
ただ、その押し付けられた向上心にがんじがらめにされて上しか見えなくなってしまうことになってしまっては、人生の楽しさは半減するし、くだらなさという名の豊かさはそこにはない。
社会人になってしまうと、自分が何だかつまらない人間になったように感じる時が誰にでもあるだろう。
そういった際、本書『日本一「ふざけた」会社のギリギリセーフな仕事術』は非常に有用である。社会人という名の大人がこんなにもふざけている、それでいて会社が健全に運営されているという驚異的な事実だけで、もはや一つのギャグなのではないかと思える。
本書はビジネス書ではあるが、私にとっては人生における教科書と位置づけたい。もっとふざけた人生を送りたい。
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