アニメ『七星のスバル』支離滅裂なストーリーを第1話から最終話まで振り返る

Amazonプライムビデオで配信されている2018年夏アニメの中で、ダントツの低評価を集めている作品がある。『七星のスバル』である。

その低評価っぷりは、あの伝説の『異世界スマホ』と比肩し得るものであり、第一話からカクカク作画だった『コンビニカレシ』と並ぶほどのものである。

しかし、『七星のスバル』はまるで将棋の謎展開ハーレムアニメではないし、作画は最終話までほぼ崩壊なしのハイクオリティであった。

本稿では『七星のスバル』のあらすじを第一話から最終話まで振り返り、その低評価の所以を探っていく。というか、低評価の理由は「ストーリーが支離滅裂」という一点にあるのであり、それがどれくらい支離滅裂だったのかを提示していく。ちなみに原作は未読である。

 

登場人物

・陽翔(ハルト)→主人公
・旭姫(アサヒ)→ヒロイン
・咲月(サツキ)→ハルトに想いを寄せている
・貴法(タカノリ)→サツキに想いを寄せている
・クライヴ→大学生?
・希(ノゾミ)→タカノリに想いを寄せている
・エリシア→謎の人物

 

各話のあらすじ

第1話 再会と再開

・主人公陽翔(ハルト)を含む小学生6人が、ユニオンというゲームの中「スバル」というクランで最強を謳っていた

・旭姫(アサヒ)がゲーム内で死亡すると共に、それが引き金となって現実世界でも死亡、スバルは解散

・時は過ぎ、ハルトは高校生になっていた。ユニオンがリニューアルされたリユニオンというゲームの中で陽翔(ハルト)は宝箱の中から死んだはずの旭姫を発見する

感想
このアニメは第一話から低評価が多かった。レビューの大半は「『SAO』と『あの花』のパクリ」という感想に占められていた。とは言え、この時点では私は期待して見ていた。

現実世界とゲーム世界がどのように絡み合っていくのか、主要な登場人物6人がどのような群像劇を繰り広げるのか、示唆されていたラブコメ展開はどうなるのか、などである。

その期待は大きく裏切られることになる。

 

第2話 秘めたる想い

・ハルトは同じくスバルのメンバーだった咲月(サツキ)に「アサヒが生きている」と報告、サツキも半信半疑

・謎の人物エリシア登場。結果から言うと、最後まで謎で何のために出てきたのかわからない

感想
ここからストーリーはハルト、アサヒ、サツキに加え、第二話序盤で登場する貴法(タカノリ)を中心に進行する。この時点でタカノリは敵対勢力。全員が「スバル」の元メンバー。

この四人は四角関係みたいなことになっており、ラブコメ好きとしては結構楽しく見ていた。第一話を受けての第二話なので、特に事件らしい事件は起こらない。この頃は平和だった。

 

第3話 あの日の約束

・ハルトとサツキは「アサヒが現実世界で死亡して、ゲーム内で生き返った」という事実を受け入れるようになる

・ハルトとアサヒが両想いであることが明確に表されている

・主に三人の三角関係がメインの話

感想
第一話が「起」だとすれば、第二話と第三話は「承」である。三人の関係を描いている。

この辺から「バトルシーン、必要か?」という疑問が頭をもたげてくる。特に、バトル中に各キャラクターが技の名前みたいなものを叫んでスキルが発動されるのだけれど「それ何?」以上の感想が出てこない。

だけど、個人的にはまだ楽しみにして見ていた。「低評価だけどそんなに悪くないじゃん」と。あの頃の自分をぶん殴りたい。

 

第4話 不協和音

・アサヒが持つプロペアータ(?)という能力は貴重なもののようで、ゲーム内の各勢力から脅かされるようになる

・アサヒが赤い宝石の欠片のようなアイテムを手に入れる。くだらない伏線である

・アサヒを巡ってハルトとタカノリが直接対決する

感想
「転」である。

特に感想はないけれど、ゲーム内でしか会えないアサヒに対する現実の主人公の葛藤とか切なさみたいなものが全く描かれないのはどうかと思った。『シュタインズゲート ゼロ』ではスマホ画面内でしか会えない牧瀬紅莉栖に対する喜怒哀楽があんなにもエモーショナルに描かれてたというのに。

 

第5話 渦巻く陰謀


 
・四角関係の話

・アサヒがさらわれる

感想

前話の伏線通り、アサヒが強プレイヤー集団にさらわれてしまう。ここまでは良かった。ここまでは高評価。次話で私の高評価は音を立てて崩れる。

 

第6話 獅竜、共闘

・ハルトがたった一人でアサヒを奪還しに立ち向かう

・なんやかんやでサツキとタカノリがハルトを援護

・なんやかんやでアサヒの奪還に成功する

感想
まず、アサヒがさらわれたという一大事件が、このたった1話であっさり解決してしまったことに腰を抜かした。

その解決についても全くひねりがなく「みんなで力を合わせて本気を出したから敵を倒せた」という稚拙なものになっている。アマゾンのレビューで何件か「小学生向けのストーリー」と書かれていたが、この第六話を目の当たりにして腑に落ちた。

ストーリーはご都合主義で退屈、バトルシーンは冗長。一体何を見せられているのだろうと呆然としてしまった。

 

第7話 剣を求めて

・プレアデスという伝説の剣を求めて海底に向かうハルト一行

・唐突に「スバル」の仲間だったクライヴに遭遇する

・タカノリが「アサヒは現実世界でも生きているかもしれない」との仮説を披露する

感想
まず、なぜその伝説の剣が必要なのかの説明が全くないので「サブクエストでもこなしてるのかな」という印象である。冗長なバトルの末に剣を引き抜くことに成功するのだが、この先のストーリーでもその伝説の剣が重要なアイテムとして扱われることはないので、いよいよ「命懸けで手に入れたその剣、なんなの?」という感想しか出てこない。

ここで登場するクライヴという人物はハルトたちの幼馴染ではないようで、かと言ってどういう人物なのかも最終話まで見てもわからないので、何のために出てきたのかわからない。次話で仲間に加わる。

「アサヒは現実世界でも生きているかもしれない」とのストーリーの方向性を決定づけそうな極めて重要な仮説は結局、話が進むに連れて立ち消えになっていく。一体何だったんだ。

 

第8話 未来の選択

・唐突に別の世界線に移行し、ハルトが6年前に死んだことになっている

・ゲーム内での力(センス)は現実世界でも発現可能との衝撃的事実

・赤い宝石の欠片は世界各地に散らばっていることが示唆される

感想
問題の第八話である。

OP曲をスキップしてまで前半では急転直下、別の世界線の話が描かれるが、はっきり言って何を言っているのかわからない。そこはアサヒの予知能力が生み出した偽りの世界であり、ハルトはその世界に別れを告げて元の世界線に戻る。劇中曲もしっとりとなるので感動のシーンみたいだけれど、何が何だかわからないので感動のしようがない。

リユニオンというゲームは現実世界でゲームの能力を使えるようにするための実験場であるとの衝撃の事実がエリシアから披露される。おいおい、風呂敷広げ過ぎじゃないか。気宇壮大なんてもんじゃない。そしてこの伏線は回収されない。

度々登場していた赤い宝石の欠片を7つ集めると何かいいことが起こる的なことが示唆される。この伏線も回収されない。

この第八話、ネット上では「『SAO』と『あの花』に加えて『シュタインズゲート』と『ドラゴンボール』展開になった」と苦笑いされていた。アニメ史上最も意味不明な第八話だと思う。

 

第9話 巡り合う星々

・かつての「スバル」メンバーである希(ノゾミ)をゲームに誘おうと画策する

・ノゾミはタカノリに思いを寄せている

・舞踏会がテーマ

感想
唐突なラブコメ展開でひっくり返るかと思った。前話で示唆されたシュタインズゲートとかドラゴンボール展開はどこに行ったんだ。

ノゾミを加えて一瞬だけ五角関係みたいなことになるが、舞踏会でハルトはアサヒと踊り、フラれた者同士のタカノリとサツキが踊り、それを見ていたノゾミ(タカノリに思いを寄せている)はショックを受ける。

ラブコメにしたってありきたりな展開すぎるだろ。ここから怒涛のくだらないクライマックスに向けて物語は驀進していく。

 

第10話 消えた少女

・現実世界でノゾミは姿を消したが、ゲームにはログインしているという不可解な現象が観測される

・ノゾミは嫉妬の怨念に駆られ、ゲーム内で悪魔のような存在になってしまった!

・現実世界で時間のワープが発生する

感想
現実世界でノゾミが姿を消しながらもゲームにログインできているという謎は結局、最後まで解き明かされない。

ノゾミは前話で受けた負の情念のためにゲーム内での悪の集団グノーシスの一員としてラスボスのような存在に変貌してしまったらしいけれど、単なる仲良し集団の中で感じた嫉妬のような感情によって悪魔に変貌してしまうとか大げさすぎるし、短絡的すぎる。感情移入の余地はない。

この第十話で「現実世界で時間のワープ(スキップ?)」みたいな現象に見舞われるが、ここにきてまでも更に大風呂敷を広げる度胸。グノーシスが現実世界で力(センス)を発動させたことによるものらしいが、何の伏線にもなっていない。

とにかく支離滅裂すぎる。

 

第11話 這い寄る悪夢

・悪の集団グノーシスが現実世界で力(センス)を発動してきたことに恐れ戦く一行

・アサヒが予知能力を使えないという事態に見舞われる

・ノゾミとタカノリは和解

感想
このアニメ、所々に過去の追憶が差し挟まれるのだが、全くと言っていいほど上手く機能していない。次の展開のために都合よく過去を持ち出してきているような印象を受け、一貫性が感じられない。行き当たりばったりでシナリオを書いていたと推測されても文句は言えまい。

ノゾミが前話で仕掛けた毒みたいなものによって、アサヒが予知能力を使えない上に幻覚にとらわれてしまうという大ピンチに見舞われる。どれほど大ピンチなのかはよくわからない。

ノゾミとタカノリは二人きりで和解をするが、あまりにもくだらなすぎて見ていられない。

 

第12話 新たなる伝説

・みんなで力を合わせて本気で戦ったので強敵グノーシスをあっさりと撃破した

・「七星のスバル」のタイトル回収、エリシアが「スバル」の七人目みたいなことが示唆される

・こうして「スバル」は再結成されましたとさ、めでたしめでたし

感想
とにかく「みんなで力を合わせて本気で戦ったので勝った」みたいな展開が多すぎる。ラスボスに対してもこれでゴリ押し。

序盤から登場している謎の人物エリシアが「七星のスバル」の七人目であると示唆されるシーンがあるけれど「だから何?」以上の感想がない。要所要所で出てくるけど、エリシアが何のために出てきているのかさっぱりわからないので「スバルの七人目」と言われても「へーそうなんだ」と思うしかない。驚きや感動は1ミリもない。

物語の結論は「スバル」は再集結して元通りになりましたとさ、めでたしめでたし、である。おいおい、広げまくった風呂敷を広げたまま終わるなよ。「え、これが最終話?」と100人いたら1000人が思っていたと思う。

広げっぱなしの風呂敷については下記で提示する。

 

回収されていない伏線とつまらなさの理由

回収されていない伏線一覧

・アサヒがゲーム内で復活した謎

・アサヒが現実世界でも生きているかもしれないという希望

・ゲーム内スキルは現実世界でも発動できるという情報

・別の世界線が現れたシュタインズゲート展開

・赤い宝石の欠片のドラゴンボール展開

・現実世界で姿を消したがログインできていたノゾミの謎

ざっと見返しただけでもこれだけ出てくるので、細かく見ればもっとあるのだと思う。

 

つまらなさの最大の要因

この『七星のスバル』のストーリーのおもしろくなさは「成長と意志がない」という点に求められると思う。意識が極めて低い私から見ても「全く成長物語になっていない」と思えるのだからよっぽどのことだ。主人公ハルトはバトルシーンで吠えるだけ。

過去に「スバル」というクランがありました(第一話)。みんなで力を合わせて出てきた敵と本気で戦ったのでなんやかんやで「スバル」は元に戻りました(最終話)。ただそれだけの話に回収されない伏線がへばりついているだけ。

 

その他、作品に関する補足

アサヒ役の声優・大森日雅さんについて

『七星のスバル』のレビューにおいて「アサヒの声が合ってない、苦手」との意見がなぜか多くあったが、演技力は極めて高く思え、私は全く悪くは思わなかった。これからの更なる活躍を期待したい。

 

監督・シリーズ構成・脚本について

監督は仁昌寺義人氏。様々な作品で絵コンテや演出を経験し、監督も始めてではないベテランの方のようである。

シリーズ構成・脚本の吉岡たかを氏は『ゼロの使い魔』『四月は君の嘘』『亜人ちゃんは語りたい』など多くの作品でシリーズ構成と脚本を兼任しているベテラン。評価の高い作品がかなり多い印象を受ける。

アニメーション制作はLerche。クオリティの高い作品を制作し続けている印象がある。当期では『あそびあそばせ』も制作。

このような優秀な制作陣が配置されながら、なぜ『七星のスバル』はあんな低評価アニメになってしまったのか、本当に不思議でならないのだった。

 

OP・ED曲について

OP曲は人気声優である悠木碧さん・竹達彩奈さんのユニットpetit miladyの「360°星のオーケストラ」である。いい曲。

ED曲は山崎エリイさんの「Starlight」。山崎エリイという人は私はよくわからないのだが、この曲は当期アニメの中でも最も好きな曲のうちのひとつであった。

 

原作について

私は原作は未読なのだが、アニメ作品がほぼ低評価一辺倒であるのに対し、原作は賛否がわかれている印象がある。「神アニメ」という評価は一つも見かけていないが「神ラノベ」という意見はいくつか見かけた。原作5巻あたりまでをアニメ化したようである。

原作を読めばアニメ版で放棄されていた伏線が理解できるようになるのかもしれないし、ならないのかもしれない。

 
というわけで、今季最大の問題作『七星のスバル』の振り返りであった。なんやかんやで私も最終話まで見てしまったので、最終話まで見るに耐える魅力がある作品であるとも言えるかもしれない。声優陣は豪華で、アニメーションは最後までクオリティが高かった。

怖いもの見たさを含め、時間があれば見てみてはどうだろう。この記事を書くためにざっとではあるがもう一度鑑賞してしまった私がおすすめする。