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『Just Because!』原作小説の感想とアニメ版との比較(ネタバレあり)

 2017年秋アニメの中では『Just Because!』に最も期待しており、第8話まで視聴した現在、その期待は裏切られずとても楽しめている。期待以上と言っていいかもしれない。

 そんな折、アニメ絶賛放送中の11月下旬に『Just Because!』の原作本が発売された。アニメ版のシリーズ構成・脚本を担当している鴨志田一氏の筆によるものであり、「ダ・ヴィンチ」2017年10月号~12月号の連載に、書き下ろしを加えたものである。私はあまり詳しくなく寡聞なのだが鴨志田一氏は『さくら荘のペットな彼女』『青春ブタ野郎』シリーズ等で著名であり、心の機微の描き方に特に定評がある作家であるそうだ。

 下記『Just Because!』原作小説を読み終わっての感想とアニメ版との比較を紹介していこう。記事の性質上ネタバレがあるので留意ください。

 

『Just Because!』あらすじ

高校三年の冬。
残りわずかとなった高校生活。
このまま、なんとなく卒業していくのだと誰もが思っていた。

突然、彼が帰ってくるまでは。

中学の頃に一度は遠くの街へと引っ越した同級生。
季節外れの転校生との再会は、
「なんとなく」で終わろうとしていた彼らの気持ちに、
小さなスタートの合図を響かせた。

Just Because!公式サイトより

 正統派青春群像劇である。「Just because」とは「なんとなく」という意味だそうだ。

 異世界転生はない。超能力もない。突飛な設定もない。痛いキャラは出てこないし、水着回もないし、無駄に透明度の高いお風呂回もない。誰もが安心して見られるザ・正統派。

 
 高校三年の冬から物語が始まるというのがとても良いと個人的には思う。このまま行けばつつがなく数ヶ月で卒業。もはやドラマなんて起こりそうない。終わりが決まっているこの先たった数ヶ月で何かが変わるだなんて絵空事だ。だけど、『Just Because!』では何かが起こり、変わる。大それたことじゃないけれど、確かに変わる。

 あらすじに「突然、彼が帰ってくるまでは」とあるので、視聴前、私はてっきり熱い情熱を持った人物が周囲を振り回して「変えていく」物語なのかと勝手に思っていた。違った。蓋を開けれみれば、彼の存在によって周囲がそして本人が「変わっていく」物語だった。もちろん良い方向に。

 暑苦しい物語ではない。アニメの演出も原作での描かれ方もかなりあっさりとしていて、ドライだ。モノローグや自分語りはほぼない。そこがいい。

 

原作小説とアニメ版の比較

原作の主軸は泉と夏目の恋物語

 アニメ版は登場人物5人(泉瑛太、夏目美緒、相馬陽斗、森川葉月、小宮恵那)それぞれの視点で描かれる群像劇であるが、原作小説は泉瑛太と夏目美緒の視点で紡がれるラブストーリーを主軸に構成されている。他3人の視点はない。従って、アニメ版で描写された下記のイベント・視点は原作ではごっそりカットされている。

・水族館に森川葉月の弟たちが登場すること
・相馬の森川葉月への告白シーン
・森川葉月宅へ遊びに行くシーン
・小宮恵那が泉瑛太に恋い焦がれるシーン など

 逆に、泉瑛太と小宮恵那のデートイベントではアニメ版で描かれないシーンも原作では描かれていて興味深い。夏目美緒が相馬陽斗に消しゴムを渡すシーンはアニメ版では手渡しだが、原作版では相馬陽斗のホームラン直後に野球さながらに投げて渡している。こういったちょっとした改変も多数あり、比較するのも面白い。

 

オリジナルはアニメの脚本で、小説はスピンオフ

 制作の順序としては、まず鴨志田一氏によるアニメの脚本があって、その後「ダ・ヴィンチ」連載用として小説が執筆されたようである。従って、正確には小説のほうがスピンオフである。適度なボリューム、スピード感に焦点を絞ることを考え、鴨志田一氏からの提案で小説では泉瑛太と夏目美緒の視点のみに絞ったとしている(参考記事:「Just Because!」特集 ダ・ヴィンチ関口靖彦編集長インタビュー)。

 

原作はあっさりだが、読んで損をすることはない

 原作の醍醐味は映像化できない心理描写を知ることができることであると考えられるが、『Just Because!』の原作小説については心理描写は比較的淡白であるものの、読んで損するということは決してない。

 特に、やなぎなぎさん作詞作曲のアニメED曲「behind」は原作で描かれる夏目美緒の心情に寄り添って歌詞が書かれていることが大いに推測される。この曲、控えめに言って傑作である。天才の所業。

 

アニメ版は後半の展開に注目

 原作は全312ページ。アニメは全12話。ところが、アニメ第8話終了時点が原作で250ページ部分である。つまりは原作の残り62ページ分をアニメ4話分に費やすということであり、9話以降は原作で描かれないエピソードがてんこ盛りになること必定である。原作を読み終わって結末を知ってしまったとしてもアニメを追いかける価値がある。

 原作で明確に描かれることがなかった主役以外の3名についての行く末が明示されることを期待したい。特に、アニメ版では人気の高い写真部の小宮恵那は、原作においては主人公の泉瑛太に振られるためだけに登場するといっても過言ではない強烈な負けヒロインとなっているので、彼女にも何らかの希望をもたらして欲しいと願っているのは私だけではないはずだ。

 

原作小説の感想

 上でも少し触れたが、原作は泉瑛太と夏目美緒だけの視点で物語が綴られていることに加え、ページの都合上か各種イベントがカット・圧縮されており、アニメ版を追いかけている読者にとってはかなり駆け足な展開に思えるに違いない。

 原作での物語の描かれ方はかなりあっさりとしている。悪く言えば物足りない、良く言えばテンポが良い。読み始めはこのあっさり感に驚いてしまい軽薄な読書体験になってしまうのではと不安になったが、結果としてそんなことはなかった。登場人物たちが思い悩みすぎないところには好感が持てるし、必要最低限のことだけが書いてあるので何しろテンポが良く、飽きたり疲れたりすることなく読み終えることができた。息抜きとしての読書にはちょうどいい。

 
 私が原作小説で印象的だったのは下記である。

 ずっと近くにいたら、今こんな気持ちにはなれていなかったと思う。
 伝えたいことも、伝えなきゃいけないことも……そんなのはいつでもできるって勘違いをして、今、この瞬間になっても、何もしていなかったんじゃないだろうか。
 そうやって、まだ大丈夫って思いながら、時間だけが過ぎていってしまったように思う。

『Just Because!』P248

 泉瑛太のモノローグである。泉瑛太は中学2年の時に父の転勤によって引っ越してしまい、今、高校3年になって同じ事情で同じ場所に戻ってきた。高校には中学の同級生であり同じ野球部仲間であった相馬陽斗、同じく中学の同級生で泉が好きだった夏目美緒がいた。『Just Because!』の特に原作は泉瑛太と夏目美緒のラブストーリー展開に主眼が置かれているが、今、こうして偶然にも戻ってきたからこそ泉は夏目に想いを伝えようという気持ちになっている。

 あのまま同じ中学、同じ高校で時間を過ごしていたら「そんなのはいつでもできるって勘違いをして今、この瞬間になっても、何もしていなかったんじゃないだろうか」と泉瑛太は想像しているというわけだ。

 人生には「そうやって、まだ大丈夫って思いながら、時間だけが過ぎていってしまった」ということが大いにある。私にもある。高校3年の冬から始まる『Just Because!』の物語は何かすごく重要なことを私たちに示唆しているようでならない。

 
 結末に意外性はないけれど決して悪いものではない。安心感がある。LINEの既読を用いた展開には唸った。Chapter8結末部は泉瑛太視点だけで展開されるが、描かれない夏目美緒の心情を想像するとさらに感動が増幅される。こちらもアニメ版でどのように描かれるのか、期待を込めたい。

 
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▲青春群像劇。高校3年間を4人の視点で描く。天才的な文体のテンポで読ませる読ませる。別れは旅立ちと同義だ。希望がある。青春ゾンビのための新たなるスタンダード。

 
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