俺ガイル完(3期)第5話の感想と考察。「責任」とは何なのか?

俺ガイル完第5話「しみじみと、平塚静はいつかの昔を懐かしむ。」の考察をしていく。原作13巻の12〜95頁である。

約5,000字の長文となっていますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

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平塚先生との会話

二人の飲むコーヒー

比企谷は平塚先生にブラックコーヒーを勧められるが、それを拒否してマックスコーヒーを選択する。2期第8話ではブラックコーヒーを平塚先生から受け取るがままに飲んでいたのと対照的だ。

また、2期第3話で雪ノ下と意見が対立した際、比企谷は自動販売機でブラックコーヒーを選び「にげぇ…」と言っていた。

今話では雪ノ下と意見が対立することとなるが、その対立はネガティブではなく、むしろポジティブなものと比企谷は考えているらしいことが表現されている。

平塚先生はブラックコーヒーを飲んでいる。単なる趣味嗜好かもしれないし、深読みすれば、ブラックコーヒーはネガティブな事象の暗喩、すなわち、この危機的状況を変える術を平塚先生自身も持っていないことを表しているかもしれない。

「問題は問題にされない限り問題にはならない」

「問題は問題にされない限り問題にはならない」は2期第5話の生徒会長選挙のときと同じものである。

アニメ映像で、リンゴを持ったおばあさんを吹き出しが埋め尽くしていく表現がされているが、これは何だろう。リンゴを持ったおばあさんは何かのメタファーになっているのだろうか。

※コメント頂き解決しました。ありがとうございます。

平塚先生「君はやっぱりプロムを実現させようとするんだな」

比企谷は意地になってプロムを実現させようとしているように見える。比企谷自身が実現されたプロムに参加したいわけではないし、雪ノ下には助けを拒絶されている。

なぜ比企谷はプロムの実現にそこまでこだわるのか。それは、比企谷自身が答えを言っている。「(雪ノ下に)関わらないという選択肢はない」からである。

これまでは「頼まれたから」を理由に比企谷は動いていた。今は違う。「関わりたいから」という理由を自分で作り上げ、自分の意志で動いている。

昔を懐かしむ平塚先生

「やりたいことやなりたい自分がたくさんあった。やりたくないことも、なりたくない自分も、たくさんね。その度にちゃんと選んで、挑んで、失敗して、諦めて、また選び直して、その繰り返し。……未だにそうだよ」

比企谷の言う「本物」とは「理解するために追い求め、問い直す」というような概念であった。とすると、ここでの平塚先生の言葉「ちゃんと選んで、挑んで、失敗して、諦めて、また選び直して、その繰り返し」は比企谷の言う「本物」にかなり近い態度である。

「関わらないという選択肢はない」

平塚先生に「どう関わるつもりだ」と聞かれて、「少なくとも関わらないという選択肢はない」と返すのは詭弁である。質問に答えていない。

しかし、平塚先生は納得したので、比企谷は「え、それだけ?」と拍子抜けしている。

いろはすとの会話

比企谷「手伝いに来た」

「ご用件を」といろはに聞かれて、比企谷は「手伝いに来た」と答えている。

物事の順序的には本来「雪ノ下と話しに来た」とか「手伝うための交渉をしに来た」とかになるはずなのに、全てをすっ飛ばして「手伝いに来た」と結論ありきで比企谷は断言する。おそらくその意志の強さにいろはは驚いた。

比企谷「責任がある」

過去回との対比

「……責任がある。話が拗れてるのも、依存がどうとか、そういうのも、俺が招いた責任だ。だから、その帳尻はちゃんと合わせておきたい。それだけだ」

「責任」という言葉が印象的に出てくるのは、2期第8話の雪ノ下の台詞「あなた一人の責任でそうなっているなら、あなた一人で解決するべき問題でしょう」である。「責任」があるなら「一人で解決するべき」という文脈となっている。

しかし、ここでは「責任」があるから「関わりたい」という対比となっていると読める。

「帳尻を合わせる」とは?

辞書で「帳尻を合わせる」を調べると「つじつまを合わせる」と出てきて、「つじつまを合わせる」とはデジタル大辞泉によれば「筋道が通るようにする。理屈を合わせる。」の意味である。ちなみに精選版日本国語大辞典では「都合よくすじみちが通るようにする。工作して前後や二つの物事が矛盾しないようにする。」とある。

つまり「理屈を合わせたい」から手伝いたい、と言っている。感情の介入しない言葉選びをしていることがわかる。先程平塚先生に言った「関わらないという選択肢はない(=関わりたいから手伝う)」とは真逆の態度だ。

共依存という考え方を参照すれば、依存が発生したのは双方に問題があったためである。

・雪ノ下:比企谷に問題を解決してもらうことに依存している
・比企谷:雪ノ下に頼られることに快楽を感じて依存している

今は依存を克服するために雪ノ下が孤軍奮闘しているが、比企谷にも問題(責任)があってそうなったのならば、比企谷も同じく奮闘しなれけばならない。そういう意味での「帳尻はちゃんと合わせておきたい」であると思われる。

「責任」とは?

ここで比企谷の言う「責任」とはこじつけの言葉である。比企谷は大事なことは言葉にしない。だから、比企谷の中で本心(極端に例示すれば「好き」など)はあったはずである。

それを言葉に「しないために」理詰めで考えた結果、「帳尻を合わせる」ために「責任を取る」という論理が紡ぎ出された。言葉にしないままに雪ノ下に関わるために、「責任を取る」という重い選択をしたという見方もできるだろう。

比企谷は「責任がある」とそれ以下の台詞をいろはの目をきちんと見て話しているので、少なくとも嘘や誤魔化しではないことがわかる。

いろはが思っていた答えとは?

いろは「あ、すいません、なんか思ってたのと違う答えが来たので、ちょっとぼーっとしてました」

比企谷の「責任がある」はいろはにとっては意外だったようである。

比企谷は平塚先生に「いつか助けるって約束したから」と理由を述べたが、いろはには「いつか助けるって約束したから」を開陳せず、「責任があるから」という言葉にすり替えている。

おそらくいろはは「いつか助けるって約束したから」のような答えを予測していたのではないだろうか。しかし、単なる「約束」を飛び越えてガチガチに理論武装したが故に「約束」よりも重い「責任」という言葉がいきなり出てきたので驚いた、というところだろうか。

また、単純に「責任、とってくださいね?」(2期第10話)と重なって動転したという理由もあるだろう。

雪ノ下と対面

比企谷「由比ヶ浜と一緒だったんでな」

「由比ヶ浜と一緒だったんでな」の台詞の後、雪ノ下が驚いた表情(原作参照)をしたのはなぜだろうか。

単純に嫉妬みたいな感情もあるかもしれないし、「由比ヶ浜さんと一緒にいたのになんで君は一人でここに来ちゃったんだよ」みたいに思ったのかもしれない。

雪ノ下は由比ヶ浜に「譲った」ことが前話の由比ヶ浜のモノローグで示唆されているので、嫉妬はなさそうかなと思う。

比企谷「二人で考えたのか?」

いろは「雪乃先輩が出す案をわたしが潰して、わたしが出す案を雪乃先輩がダメ出しして進めるって感じですけど……」

2期のクリスマス合同パーティーでは、玉縄率いる海浜総合高校が誰の意見も否定しなかったために話が前進しなかった。しかし、それを克服した雪ノ下といろはは、ここでは互いにダメ出ししながら立案をきちんと前進させている。成長の証だ。

比企谷「普通なら」

比企谷「相手の要望ほぼ丸呑みなら通るよな。……普通なら」

雪ノ下母は、プロムをより良くするためではなく、問答無用で中止にするべく学校に押しかけてきた。第4話で全く議論になっていなかったのはそのためである。中止という結論ありきの一方的なカウンターになっていた。

従って、生徒会側がいくらプロムを改善したところで、開催は難しいだろう。普通の相手ではないのである。

雪ノ下は「それなりには(勝算がある)」と言っていたが、比企谷に手伝わせないための強がりだろう。どうあがいてもプロムの実現は難しいことは、雪ノ下もいろはも、比企谷もわかっているはずだ。

いろははなぜ離席しようとしたのか?

比企谷「雪ノ下、ちょっといいか」
いろは「……あ、わたしちょっと」(と離席しようとする)
雪ノ下「待って。プロムの話でしょう? なら一色さんもいてもらったほうがいいわ」

後にいろははモノローグで「あんなのほとんど告白だ。それか痴話喧嘩か別れ話」と言っていることから、比企谷の「責任」うんぬんを二人だけの極めてプライベートな話だと解釈していたようだ。だから離席しようとした。

比企谷「俺は、お前を……助けたいと思ってる」

雪ノ下「姉さんが言おうとしていたこと、わかるでしょう?」
比企谷「けど、……その責任も俺は取るべきだと思う。今までのやり方に問題があったなら、違うやり方とか違う考え方、違う関わり方を探して……。それで、……どういう結果になったとしても、その責任もちゃんととりたい。だから……。俺は、お前を……助けたいと思ってる」

「その責任も俺は取るべきだと思う」

前述の通り、共依存になった原因は比企谷にもあるので、雪ノ下だけが責任を負う(=依存から脱出しようと孤軍奮闘する)のはフェアじゃない、ということを言っている。

「違う関わり方を探して」

「今までのやり方に問題があったなら、違うやり方とか違う考え方、違う関わり方を探して」というのは「理解するために追い求め、問い直す」という態度であり、要するに「本物」と同義である。

「それで、……どういう結果になったとしても、その責任もちゃんととりたい」

責任を取るためにアクションを起こし、どういう結果になったとしてもその責任も取る、ということは、延々と続く責任の連鎖である。責任のPDCAサイクルをずっと回していきたい、というようなことを言っている。

「だから……。俺は、お前を……助けたいと思ってる」

文脈としては「全ての責任を取りたい、だから、助けたい」ということになり、「責任を取りたい≒助けたい」という論理になっている。「責任」が詳細に何を意味するのかにもよるが、いろはが「ほとんど告白」と解釈するのもわかる。

比企谷「お前を手伝ったりしない」

比企谷「わかった。もう言わない。お前を手伝ったりしない。……だが、対立しないとは言ってない。俺とお前の間で意見が割れたらどうするかなんて、決まってるだろ」

2期の生徒会長選挙(第3〜5話)の焼き直しである。この時はいろはを生徒会長にさせないために比企谷と雪ノ下の意見が対立、奉仕部はソロ活動をすることとなった。

「勝負」とは1期第1話、2期第3話あたりに詳しい。勝負の内容を改めて確認すると「私は私のやり方で、あなたはあなたのやり方でプロムを実現させる。この勝負に勝てば言うことをひとつ聞かせる」ということである。二人とも合意して勝負が始まる。

いろはのモノローグ

「痴話喧嘩か別れ話」

あんなのほとんど告白だ。
それか痴話喧嘩か別れ話

「責任」という重い言葉が放たれているので「告白」はわかる。だが、「痴話喧嘩か別れ話」とはどういうことだろう。

「痴話喧嘩」については、比企谷と雪ノ下どちらが責任を取るかの言い争いになっていたことを指したものだろう。

「別れ話」とは何だ。消去法で考えれば、おそらくは雪ノ下がこの勝負に乗ったことを指していると思われる。比企谷が介入した結果として雪ノ下の自立が阻まれれば、雪ノ下は比企谷と対等な立場になることができず、比企谷に思いを伝える資格がなくなる(とおそらく雪ノ下は考えている)。

3期第2話でいろはは、比企谷と雪ノ下のやり取りを見て「なるほど、だいたいわかりました」と言っているが、それは上記のような事情を推測していたと考えることもできよう。

いろは「責任とってほしい」

ほんとに、ちゃんと責任とってほしい。

いろはの言う「責任」とは、言うまでもなく2期第10話の「責任、とってくださいね?」と関連している。

いろはは比企谷の「本物が欲しい」(同8話)に感化され、葉山に告白して振られる(同9話)。おそらく「責任、とってくださいね?」を補完すると「(比企谷に感化されたが故に葉山に振られた)責任、とってくださいね?」である。

例えば、比企谷はプロムを手伝う理由として「いろはに頼まれたから」を提示してもよかったわけだし、実際にいろはに頼まれていないこともない。しかしそれをスルーして「(雪ノ下に)責任がある」と言って手伝うことになるので、モノローグにもあるけど、いろはとしては蚊帳の外感が半端ないだろう。

「責任」という名の言い訳

責任だなんて言い訳みたいに軽々しく言わないでほしい。

いろはは比企谷の「責任」という言葉を「言い訳みたいに軽々しく」言ったと解釈しており、いろははおそらく正しい。

上で述べてきた通り、比企谷の「責任」という言葉は、本心を言うのを避けるための理屈からひねり出されたものだからだ。シナリオ上では「責任」はキラーワードとして扱われているが、いろはには「軽々しい」と見破られている対比がおもしろい。

なぜ雪ノ下は泣いている(ように見えた)のか?

振り返ってみた雪乃先輩は。
泣いているように見えた。

原作者のリアルタイム実況ツイートを参照すれば、雪ノ下はプロムが実現されると確信している。つまり、雪ノ下の目標は果たされる。それにも関わらず、いろは曰く「泣いているように見えた」。

なぜそうなるのか、というのが次話以降の展開である。

 

 
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