一色いろははいつから比企谷八幡のことを好きになったのか?〜俺ガイルの恋愛心理を推察する試み

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(俺ガイル)において、一色いろははおそらく比企谷八幡に惹かれている、恋していると推測される。

本稿は一色いろはが比企谷八幡を「異性として意識した」のはいつなのかということを、恋愛心理面からアプローチし、推察していく試みである。

 

初めに結論

本稿が示す結論は「いろはが比企谷を異性として意識したのは『雨の日に比企谷、いろは、折本の三人で会話した時』である」(アニメ2期7話Bパート、原作9巻P187〜)。

下記にその時の会話を抜粋しておく。

いろは「そういえば、先輩とお知り合いなんでしたっけ」
折本「そうそう、おな中でさー」
いろは「先輩(比企谷)にも仲いい人、いたんですね」
折本「仲良いっていうか、うーん……。まぁ、ちょっとね!」
いろは「なんなんですかその意味深な言い方。せんぱーい、なんなんですかー」
比企谷「まぁ、昔いろいろあったんだよ」
折本「ま、昔の話だからさ」
いろは「えーなんなんですかー!」

俺ガイル続 7話Bパートより

 

なぜいろはは比企谷を異性として意識するに至ったのか?

下記で時系列順に説明していく。本稿が扱うのは「アニメ2期5〜7話」「原作8巻後半〜9巻前半」である。

生徒会選挙〜信頼関係を築くフェーズ

人間関係の基本は信頼であり、ここから全てが始まる。いかにして比企谷はいろはの信頼を得たのかを見ていく。

共感と肯定

比企谷「そういうの、腹立つよな。やっぱ、やられたらやり返さないとな」
いろは「はぁ、まぁ、できたらいいですけど」
比企谷「できる」

俺ガイル続 5話Bパートより

信頼関係を築くにあたって「共感」と「肯定」は鉄則だ。

比企谷といろはが図書室で推薦人名簿を書き写しているシーンである。この比企谷の台詞は、比企谷自身の目的を達成するためにいろはを焚きつけたものに過ぎない。しかし、いろはにとっては「そういうの、腹立つよな」とおそらく作中で初めて他人から気持ちを共感され、「できる」と生徒会長に推薦されている現状を肯定される。比企谷の発言内容は「自分はいろはの味方だ」と同義である。

いろはは同学年の人たちから良く思われていないらしい。雪ノ下と由比ヶ浜は生徒会長選挙の準備で手一杯。城廻先輩は「困ったことになったなー」という感じ。葉山は傍観。しかし、唯一比企谷だけはいろはに共感し、肯定し、明確に味方になる。

下心を見せない

比企谷「そういう時は葉山に相談すればいい。なんなら手伝ってもらえ。部活の後なら家まで送ってもらえるアフターケアまで付いてくる」

同上

下心のある行動はおそらくこの世で一番信頼されない。男女関係であれば特に。下心とは見返りを求める態度のことである。

比企谷はいろはが生徒会長になるメリットとして「葉山とお近づきになれる」を提示する。これはつまり、「比企谷はいろはの恋愛を応援している」そして「比企谷には下心がない」ことを示しており、いろはにとっては非常に信頼性が高い。

ちなみに余談だが、恋人のいる相手を自分(あなた)のものにしたい場合、最も有効な戦略は、下心を見せないで相手、相手の恋人、その二人の関係を褒めまくることであると言われている。なぜか。まず人は褒められると褒めてくれた人を信頼する。で、褒められすぎると人は「いやー実はこんな悪いところもあって」などと返答するようになる。やがて、相手は信頼できるあなたに恋人の不満を漏らしてくるようになる。そのうち、喧嘩したことを報告・相談してくるようになる。それでもあなたは「素敵な君が選んだ相手なんだからきっと素敵な人だよ」と褒め続ける。相手は「そっか、私の恋人は素敵なんだ」と一時的に気分が良くなるが、日常に戻って待ち受けるのはそこまで素敵ではない恋人への不満である。で、またあなたに相談してくる。あなたは「いや素敵なはずだよ。別れるなんてもったいないよ」と言い続ける。それを辛抱強く何度も繰り返すことにより、ある日、恋人への不満が限界に達した相手から世界で一番信頼できるあなたに「別れた」と報告して来、めでたしめでたしである。

そう考えると比企谷は、本人は全く意図しないままに、いろは=葉山ラインの応援をすることでいろはの信頼を勝ち取り、クリスマス合同イベントでも「葉山を頼ればいいじゃん」みたいなことさえ言い、ある日、後のディスティニーランドの帰り、いろはから「(葉山に振られた)責任とってくださいね?」と報告して来、めでたしめでたしであった。

(※正確には「葉山に振られた」責任ではない可能性があるが、文意のわかりやすさを担保するため敢えてそのように表記しました)

 

生徒会選挙〜恋愛関係への足がかり

男性は目の前に好みのタイプの女性が現れたり、女性に何か親切にされたり、挨拶をされたりしただけで一気に好き好きメーターがマックスになり一瞬で恋に落ちることが可能(中学の時の比企谷)だが、女性の好き好きメーターは長い時間をかけてある程度の段階を踏む、と言われている。異性と一対一の関係を築くことは女性には高いリスクがあるからである。

下記では、信頼関係から恋愛関係へ発展するための足がかりとなったであろう事象を見ていく。

ギャップの提示(ゲインロス効果)

いろは「もしかして先輩って頭いいんですか?」

同上

ギャップを提示することのできる人物は魅力的に見える、というのは有名な言説である。単なる信頼関係からその先へ発展させるための重要な要素がギャップである。

ギャップって何やねん、というところだが、「俺ガイル」もギャップであると思われる。「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」というふざけたタイトルであるにも関わらず(少なくとも私はそう思った)、文学性を孕み、硬派で、考察の余地が無限にある素晴らしい作品だった。そのギャップに知らず知らず引き込まれる。「『百年の孤独』は文学」なんて誰も言わないが、「『俺ガイル』は文学」とよく聞くのはギャップが根底にある。

さて、いろはが比企谷に対してどのような先入観を持っていたのかは不明だが、ここで比企谷のクレバーさに心底感銘している様が観察されることから、「何を考えているのかわからないただの冴えない男→いろはのために知力を尽くしてくれる頭のいい男」のようなギャップの提示ができたとみなすべきだろう。ギャップにより人物像に深みと振り幅が出る。

返報性の原理

人は自分のために好意ある何かをしてもらったら、自分も好意をお返ししなければと考える習性がある。いろはが比企谷の行動の真の目的(雪ノ下と由比ヶ浜を生徒会長にさせない)を知っていたか否かはわからないが、いろはの直面していた問題が比企谷によって解決されたことは事実である。

その比企谷による問題解決はいろはへの好意によるものでは必ずしもなかったが、いろはの脳内では「自分の問題を解決してくれたのだからもしかしたら好意によるものかもしれない。とすれば、好意をお返ししなくては。好意じゃないにしても何かをお返ししなくては」と潜在的に思考せざるを得ない。つまり、比企谷はいろはの心の中に入り込むことに成功したと言える。

この生徒会選挙の段階では、いろはは比企谷を異性として意識はしていないと思われる。なぜなら、生徒会選挙終わりで、いろは曰く「なんですかそれ口説いてるんですかごめんなさい狙いすぎだし気持ち悪くて無理です」だからである。全く脈がない。

 

クリスマス合同イベント〜親密になる二人

荷物を持つ比企谷〜信頼を重ねて主導権を握る

いろは「はっ! もしかして、今の行動って口説こうとしてましたかごめんなさいちょっと一瞬ときめきかけましたが冷静になるとやっぱり無理です」

俺ガイル続 6話Bパートより

クリスマスイベントの会議に向かう途中、コンビニで買い物してきた重そうな荷物を比企谷が持とうとしたところ、いろはは無意識に身を引き警戒する。このことから、いろははその時点では比企谷をまだ全面的に信頼しているわけではないことがわかる。

だが、その直後、いろはは「一瞬ときめきかけ」ている。なぜか。素のいろはに対して比企谷がアプローチしたらしいからである。仮にいろはが荷物持ってくださいアピールをしている時に相手が荷物を持つことは、いろはにとっては当たり前のことであり、主導権はいろはにある。しかし、いろはが素の状態であるにも関わらず自然に荷物を持とうとする行動は、いろはにとっては善意・優しさ・エスコートと映る。「荷物を持ってやる」という相手の指示に従うわけだから、主導権は相手に明け渡される。

こうして比企谷は信頼を重ねると共に、主導権をも握りつつある。主導権を握ることは、こちらの多少わがままな振る舞いを相手は許容せざるを得なくなるということである。比企谷の行動に相手を振り回す意図は全くないが、比企谷の天然な行動によっていろはは勝手に振り回される。

単純接触効果(ザイオンス効果)

比企谷は単独でいろはのクリスマス合同イベントを手伝うこととなり、二人は共に過ごす時間が増えた。つまり、単純接触効果である。共に過ごす時間が多いと相手に好意を持ちやすいというあれだ。

比企谷は優しく、紳士で、知的で、普通程度には清潔感があり、リーダーシップがあり、ユーモアさえあり、その上いろはに対して下心が全くない。生徒会選挙の時の返報性もあるし、今回も無償で手伝ってもらっている。そんな比企谷のことをいろはが気になり出すのは自然な成り行きだろうと思われる。

まして、いろはは、彼女のプライベートがどうなっているのか全くわからないが、おそらく相当に異性にとって魅力的なキャラクターである。にも関わらず、比企谷という男はいつまで経ってもいろはに全く関心を払わない。それなのに優しい。「普通の男とは違う。どうして優しいの? 何を考えているんだこの男は」と余計にもやもやし、比企谷のことを考える時間が増えるだろう。比企谷のことを考える時間が増えるということは、比企谷と会っていない時でも単純接触効果が発動されることと同義である。

この時点では「一瞬ときめきかけ」ているだけであり、人として信頼できる・興味がある程度ではないかと推測される。つまり、まだ異性として意識はしていない。

 

雨の日の比企谷、いろは、折本の会話

冒頭で示した通り、私はこの場面でいろはが比企谷を異性として意識したのではないかと推察している。

異性の影をちらつかせる

いろは「先輩(比企谷)にも仲いい人、いたんですね」
折本「仲良いっていうか、うーん……。まぁ、ちょっとね!」
いろは「なんなんですかその意味深な言い方。せんぱーい、なんなんですかー」
比企谷「まぁ、昔いろいろあったんだよ」

俺ガイル続 7話Bパートより

余談だが、好意を持っている相手から「付き合ってる人いますか?/好きな人いますか?」と聞かれた場合のおそらく完璧な回答は「いるけどうまくいってないんだよね/いるけどうまくいきそうにないんだよね」である。もしいなくてもこうである。なぜなら、背後に異性の影がちらつくことによって嫉妬・闘争心・独占欲などのより激しい感情を相手に生じさせることができるからである。フリーであることをアピールする「いないんだよね」は一見良さそうだが「いないということは魅力がないことの証左では?」と相手に疑念を持たせ得る。そのため、嘘を付きたくない場合は「恋人を作る気分ではない」とでも言ったほうが比較的良いと思われる。そうすることで相手が勝手に攻略を試みてくる。

話を戻す。いろはにとっては比企谷は全く異性の影を感じられない男であったのだと思う。紳士ないい人。もしかしたら魅力的かもしれない人。それ以上でもそれ以下でもない人。異性としてはまだ見れない。

だがそこに、中学の時に「いろいろあった」らしい女が唐突に出てくる。その女は陽キャで男友達も多そうな感じで、彼氏が絶え間なくいてもおかしくなさそうである。同じ中学校ということは、少なくともいろはよりも長い関係であり、家も近いだろう。「いろいろあった」って何だ?

いろはは「なんなんですかー」と相当に気になっている様子であり、これは本心だろう。比企谷の前では基本的に素であるし、敢えて気になっている演技をする理由がない。比企谷に再度のギャップも感じたと思われ、本当に心底気になっている。いろいろあったのはその時だけなのか? 今も続いているのか? 続いていないにしてもこれがきっかけで再び始まる可能性はあるか? てゆうかいろいろあったって何だ??

秘密を秘密のままにしておく〜ツァイガルニク効果

折本「ま、昔の話だからさ」
いろは「えーなんなんですかー!」

同上

俺ガイル2期及び原作11巻は、非常に続きが気になる謎めいた終わり方をしており、その上、アニメ3期及び原作12巻の刊行がそれから数年をまたぐことになったため、ファンは続きが気になって困惑し、困惑したが故にアニメを何度も見返したり、原作を読み返したり、ブログに書いて整理したりし(私である)、その過程で我々はさらに俺ガイルのことを好きになっていった。

さて、比企谷と折本は結局、いろはに何も教えず秘密のままにしておいた。物語では描かれないが、彼らは解散し、それぞれの家に帰っただろう。気になる謎を謎のままにされたいろはは、嫌でもそのことを考えずにはいられない状態に陥っていたと強く推測される。それはまるで俺ガイル続13話を見た後、続きを知ることができないために俺ガイルのことしか考えられない体になってしまった我々のように。

比企谷について、そして比企谷の恋愛事情であるかもしれない「いろいろあった」についてもやもやと考え続けてしまうこと。それはすなわち「異性として意識した」とみなして良いだろう。

比企谷を異性として意識したいろはには次のような変化が現れる。

 

いろはが比企谷を異性として意識して起こった変化

なぜいろはが比企谷を異性として意識したと言えるのか。それは折本とのやり取りの次のシーンでわかる。比企谷と鶴見留美が折り紙を折っていて、そこにいろはがやって来るところだ。

いろは「先輩ってもしかして年下好きですか?」
比企谷「別に苦手じゃねぇな(妹もいるし)」
いろは「……もしかして今、わたしのこと口説いてますかごめんなさい年上結構好きですけど無理です」

同上

 

「年上結構好きですけど無理です」

結論は「無理です」ではあるが、「好き」というワードが含まれているため、そこまで「無理」という印象は受けない。

例えば我々が、交際したいと全然思えない後輩に告白されたとしよう。その際のお断りの言葉で、たとえ年下好きだったとしても「”年下結構好きだけど”付き合えない」と言うだろうか。たぶん言わない。何らかの含みをもたせてしまうし、意味のないフレーズであるため単純に気持ち悪い。「好き」と思わない相手には、そもそも「好き」などの何らかの含みを持たせたワードは使わない。

それを逆手に取って、相手に直接「好き」と言わないで、相手の気に入ってるものや相手の属性に対してどんどん「好き」と言う、という戦略がある。相手に直接「好き」と言うのは要するに告白であり、適期を見極めて行いたい。玉砕覚悟の告白は独りよがりなだけだ。しかし、相手の気に入ってるものや相手の属性に対して「好き」と言うことは、相手に対する共感・肯定であり、相手に直接「好き」と言いたいところを代替物に告げることでバッファを持たせることができるし、相手にとっても共感・肯定されることは嬉しく印象の良いことであり、もし相手がこちらに少しでも気があるなら「好き」というワードそれ自体が魔力を持つことになる。

いろはがどのような戦略を採用しているのかしていないのかはわからないが、「年上結構好きですけど」というワードはこれまでにはなかった特殊なものである。

 

「先輩ってもしかして年下好きですか?」

鶴見留美は小学生である。だから、このシーンをギャグにすることは可能だ。

いろは「先輩ってもしかして年下好きですか?」
比企谷「別に苦手じゃねぇな(妹もいるし)」
いろは「……はぁ? 先輩ってロリコン豚きもきもきも糞ナメクジカナブン野郎だったんですね。てゆうか、きもいんで近寄らないでもらえますか?」
比企谷「いやお前から近づいてきたんだろ」

小学生女児を隣にした比企谷に問うた質問なのだから、上述の流れの方がむしろ自然であるとみなすことも可能だろう。しかし、実際はそうはならず、いろはは不自然でちぐはぐな受け答えをする。なぜ不自然になってしまうのか。異性として意識しているからである。

いろははたまたま見かけた小学生女児にかこつけて「年下好き」を無理矢理に不自然にひねり出し、それを比企谷に問い、比企谷の「苦手じゃねぇな」という無難も無難な回答に対して、勝手に「わたしのこと口説いてますか」と突拍子もなく飛躍した妄想を開陳している。これはやべー奴である。下記の如く、男女を逆にすればわかりやすいと思う。

比企谷はいろはがおじさん教師と話してるのを見かけた。

比企谷「お前って年上好きなの?」
いろは「別に苦手じゃないですね」
比企谷「(真顔で)……え、もしかして俺のこと好き? 口説いてる?」

この男女逆パターンの比企谷の状態は恋愛工学で言うところの「非モテコミット(男性が一方的に女性に好意を示すこと。中学の時の比企谷)」であり、気持ち悪がられるだけである。とすれば、翻って、いろはの「もしかして今、わたしのこと口説いてますか」のくだりも、いろはのあざとかわいいキャラでキラキラしたオブラートに包まれてはいるが、よくよく考えてみればただ単に気持ち悪いだけの行動である。

いろは程の理性的なあざとキャラがなぜわざわざ気持ち悪い行動をとってしまったのか。答えは一つしかない。比企谷を異性として意識し始めたからである。

後にいろははディスティニーランドにて葉山に告白する。比企谷のことを異性として意識しつつ、当然ながら葉山のことも意識していたのだと思われる。

ではなぜこの時、いろはは葉山に告白しなければならなかったのか。比企谷では駄目だったのか? 告白しないという選択肢はなかったのか? そもそも葉山と交際するために告白をしたのか? 違う意図はないか?

考察の余地がある。何か思い付いたら別の機会に書きたいと思います。