『俺ガイル。続』13話(最終話)の考察。由比ヶ浜結衣の目的と台詞の意味

アニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』13話(最終話)の考察

 アニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』(通称『俺ガイル。続』、『俺ガイル』二期)の13話(最終話)「春は、降り積もる雪の下にて結われ、芽吹き始める。」において問題となっているのは、後半部分、クライマックスにおける由比ヶ浜の台詞の難解さである。

 私は全部欲しい。今もこれからも。私ずるいんだ、卑怯な子なんだ。私はもう、ちゃんと決めてる。

 もし、お互いの思ってること分かっちゃったら、このままっていうのもできないと思う。だからこれが最後の相談。私達の最後の依頼は私達のことだよ。

 ゆきのんの今抱えている問題、私答え分かってるの。多分それが、私たちの答えだと思う。それで、私が勝ったら全部貰う。

 ずるいかもしんないけど、それしか思いつかないんだ。ずっとこのままでいたいなって思うの。どうかな? ゆきのん、それでいい?

 抽象的に過ぎてわけがわからない。「全部」「ずるい」「答え」「このまま」などの言葉が具体的に何を指しているのかが非常にわかりづらい。ただ、わからないが故に多様な解釈ができ、100回くらい見直しても飽きないのではないかと思えるくらい惹きつけられた。自分なりに考察を示していこうと思う。ちなみに原作は未読である。読みました。

※他にも俺ガイル考察記事ございますので、「俺ガイルカテゴリ」からご覧くださいませ。

※俺ガイル完まで観終わり、本稿を礎に改めて続13話について考えた記事はこちらです。➡俺ガイル続13話を改めて考察するという名の反省会

 

はじめに結論

 先に本稿における結論を示しておくと、上記の由比ヶ浜の台詞は「私は比企谷が好きだから諦めない。ゆきのん(=雪ノ下)が比企谷のことを好きなのは知っている。だけど、諦めて欲しい」と要約される。なぜそのように読み解いたのか、下記で説明していく。

 

「全部」とは何を指すのか? 何が欲しいのか?

 私は全部欲しい。今もこれからも。

 上記二つの文はイコールで結ばれていると考えられる。「全部=今もこれからも」である。つまり「今も欲しいしこれからも欲しい=全部欲しい=ずっと自分のものにしていたい」とみなして良いだろう。では欲しいものとは何か。考えられることは「1.比企谷との恋」「2.雪ノ下との友情」「3.奉仕部の存続」の3つが挙げられる。

 上記で「全部=ずっと」と推定したことから、本稿の論旨に従えば、この場合の「全部」は「1.比企谷との恋」「2.雪ノ下との友情」「3.奉仕部の存続」の3つを全部欲しいという意味ではないように思う。なぜならそれでは物語が進まないからだ。

 由比ヶ浜は、雪ノ下が比企谷に恋心を抱いていると思っている。にも関わらず由比ヶ浜が「比企谷との恋」を手に入れ「雪ノ下との友情」維持し「奉仕部を存続」させること、それはつまり人間関係における矛盾であり、三人が8話以前のような本音で話せない上辺だけのギクシャクした関係に戻ることを意味するからである。8話において比企谷が泣きながら「本物が欲しい」と吐露し、お互いが本音をぶつけ合った結果、三人の仲は元に戻った。今ここで再び本音を隠してしまうことはせっかく成長した三人の物語を巻き戻す行為であり、何の意味もないのではないか。

 一期の1話から由比ヶ浜の比企谷への思いは一貫している。一期11話では「待っていても仕方のない人は待たない。待たないで、こっちから行くの」と比企谷の前で抽象的にではあるが高らかに宣言している。で、この二期13話まで由比ヶ浜がその恋を諦める素振りは全く見えない。むしろ思いは強くなっているようにも思える。ここに来て諦めるというのはやはり物語としてどうかと思うし、私個人的にもそうであって欲しくない。

 従って「私は全部欲しい。今もこれからも」が意味するところは「今もこれからも比企谷の心が欲しい=比企谷への恋を諦めない」ということである。

 

「私ずるいんだ」とは何を指すのか?

 私ずるいんだ、卑怯な子なんだ。

 二期の後半から度々、由比ヶ浜は「ずるい」と口にしている。12話の最後、比企谷が「送るよ」と一緒に帰ろうと提案した際、「ずるい気がするから」とそれを断った。このずるいは「抜け駆け」を指すのではないか。雪ノ下が母親によって強制退場させられた後、残された二人で帰るのはフェアじゃないと思って「ずるい気がする」から比企谷と一緒に帰らなかった。

 で、この13話。由比ヶ浜はバレンタインデーという特別な日に敢えてデートと称して終日三人でいる時間を作り上げ、比企谷に「ただのお礼だよ」と言って手作りクッキーを先に渡した。雪ノ下も比企谷へのプレゼントを持ってきていたことが映像の中で示唆されるが、由比ヶ浜が先に渡してしまったことによって雪ノ下はタイミングを失ってしまった。

 増して、由比ヶ浜は「お礼」という理由をこじつけて渡した。「バレンタインだから」でもなく「思いを寄せているから」でもなく「ただのお礼」として。対して、雪ノ下が比企谷にプレゼントを渡す理由はどこにもないから、余計に渡しづらくなる。自分の意志を表明できない雪ノ下に比企谷へのプレゼントを渡す理由を与えなかった、とも言えるかもしれない。それを計算した上で抜け駆けを計ったから「ずるい、卑怯」と自分のことを言っているのだ。

 同様にして、12話から13話にかけて「優しいね、思いやりがあるね」という意味としての「由比ヶ浜らしいね」と言われて「私らしいって何だろうね」とつぶやくシーンが散見される。「私、ヒッキー(=比企谷)が思ってるほど優しくないんだけどな」と。「優しい」とは「利他的」と同義。「理想を押し付けられている=それは本物じゃない」ことを示すと同時に利己的なずるい手を使うことへの伏線と考えられる。

 この「ずるい」については下記でも引き続き検証していく。

 

「私はもう、ちゃんと決めてる」が意味するもの

 敢えて「私はもう、ちゃんと決めてる」という台詞を差し挟むことによって「本心で話している」ということを示唆している。嘘や欺瞞や取り繕いではなく、きちんと自分が望むことを自分で決めて、自分の本心を正直に話しているということを強調しているように思う。従って、由比ヶ浜は三人のなあなあな関係を求めているのではない。本当に欲しいものを欲しいと言っているのである。

 これは自分では何も決められない雪ノ下との対比にもなっていることに加え、一期2話で示されたように、場の雰囲気を変えてしまうような行動を自ら進んでできなかった由比ヶ浜が、今は自分の欲しいもののために三人の関係を壊すことも厭わずに自己主張できている成長の証とみなすこともできる。

 

「お互いの思ってること」とは何か?

 もし、お互いの思ってること分かっちゃったら、このままっていうのもできないと思う。

 難解な台詞である。極めて抽象的。「お互い」とは誰と誰を指すのか。「分かっちゃったら」とは何がわかるのか。「このまま」とは何を指すのか。

 ただ、今ここにきてずるい手を使ってでも由比ヶ浜が行動を起こさなければならなかったのは、雪ノ下が比企谷に思いを寄せているらしいことに気づいてしまったからである。従って、「思ってることが分かっちゃったら」というのは「恋心が知れてしまう」ことであり、「このまま」とは「三人の関係」のことであると考えて間違いないだろう。「恋心が知れてしまったら今までの三人ではいられないと思う」ということである。
 では、「お互いの思っていること」とは誰と誰の恋心を指すのか。

 
1. 比企谷と雪ノ下が実は両思いである(と由比ヶ浜は思っている)こと

2. 由比ヶ浜と雪ノ下が共に比企谷に思いを寄せていること

 
 どちらかと言えば、前者の解釈のほうがすんなり意味が通るように思う。由比ヶ浜はずるいやり方で比企谷に先にクッキーを渡すことで雪ノ下を牽制し、比企谷への思いを諦めるように仄めかしているのではないだろうか。そう考えれば「このままっていうのもできない」の主語は由比ヶ浜であると考えるのが妥当である。つまりは「雪ノ下と比企谷がお互いの思いを通い合わせてしまったら、私(由比ヶ浜)は今まで通りに二人と接することができないと思う」という意味である。

 由比ヶ浜は比企谷のことが大好きなので、恋仲になってしまった雪ノ下と比企谷を目の当たりにするのは耐えられないだろうし、かと言って、それを取り繕って一緒にいるとしてもそれは欺瞞である。比企谷の求める「本物」ではない。由比ヶ浜はここで行動を起こさなければいずれ比企谷の言うところの「本物」になれないのである。

 

「最後の相談」「最後の依頼」とは何か

 だからこれが最後の相談。私たちの最後の依頼は私たちのことだよ。

 比企谷、雪ノ下、由比ヶ浜は奉仕部という部活をしている(あるいは、させられている)。奉仕部は誰か困っている人から受けた相談、依頼を解決することを目的としている。

 由比ヶ浜がここで敢えて「最後の」と強調して言っているということは、その由比ヶ浜がこれから出そうとしている「依頼」によって三人の関係はこのままではなくなってしまう可能性があることを示唆している。この依頼によって奉仕部は解散を余儀なくされることを意味しているのである。

 このことは13話の前半、水族館でのデートにおいて由比ヶ浜が「三人で行きたいの」「三人で見れてよかった」と「三人」を強調して口にしていることからもわかる。三人の関係は心地よくて奉仕部は自分の大切な居場所だけれど、それを壊しても一歩踏み出さなくてはならないと決心した。三人での思い出をきちんと作れたことは、由比ヶ浜にとって一つの区切りでもあったのだろう。

 「最後の依頼」の内容は下記で述べられる勝負のことである。

 

「雪ノ下が抱えている問題」とは何か?

 ゆきのんの今抱えている問題、私、答え分かってるの。

 雪ノ下(=ゆきのん)の抱える問題とは具体的に何を指しているのかというのも考えどころである。

 
 1. 比企谷に恋心を抱いているという問題

 2. 「自分がない、自分で選んで行動できない」という問題

 3. 姉や母など雪ノ下の家庭の問題

 
 いろいろと考えた結果、私は「1.比企谷に恋心を抱いているという問題」であると結論づけた。問題というと仰々しいけれど、要するに「比企谷のことを好きだけれどプレゼントを渡せないこと」程度の解釈で良いと思う。
 
 「2.「自分がない、自分で選んで行動できない」という問題」という考え方も確かに有効である。13話前半では、雪ノ下が比企谷に自分の意志でプレゼントを渡せないこと、雪ノ下姉の陽乃から「雪乃ちゃん(雪ノ下)に自分なんてあるの?」ときつい言葉を突きつけられたこと、その後、比企谷が考えた言い訳をそのまま雪ノ下が自分の言葉のように流用してした(俗に言う「コピペのん」)ことが印象的に描かれていた。雪ノ下にとっての問題は確かに「自分がない、自分で選んで行動できない」であり、雪ノ下にとっての大きな問題であると共に本作における重要なテーマの一つである。

 しかしながら、比企谷にずっと想いを寄せている由比ヶ浜にとっては、雪ノ下に「自分がない」という抽象的なことよりも、雪ノ下が自分で用意したプレゼントを比企谷に自分の意志で渡せないこと、比企谷が考えた言い訳をそのまま言ったことという、比企谷に関連する具体的なこと目が行くはずである。その具体的なこととはつまり「雪ノ下が比企谷に恋心を抱いている」ということに他ならない。また、作中において由比ヶ浜が雪ノ下の「自分がない」という問題を重要な問題として認識しているとわかるシーンは一度も出てこないから、ここで言う問題とは「自分がない、自分で選んで行動できない問題」ではないと思う。

 「3.姉や母など雪ノ下の家庭の問題」という可能性もあるけれど、今この場でする話ではないように思う。前段で由比ヶ浜は「私達の最後の依頼は私達のことだよ」と言っている通り家庭の問題は今は関係ない。第一、雪ノ下の家庭の事情の答えを由比ヶ浜がわかっているはずがないし、次段の「多分それが、私たちの答えだと思う」にも繋がらない。従って、ここで言う「ゆきのんの抱えている問題=雪ノ下の家庭の問題」である可能性はかなり低い。

 

由比ヶ浜の言う「私たちの答え」とは何か?

 私、答え分かってるの。多分それが、私たちの答えだと思う。

 由比ヶ浜は「雪ノ下の抱える問題の答えがわかる」と言う。で、その答えが同時に「私たちの答え」であると言う。つまりは雪ノ下の抱える問題の答えが示されれば、私たちの答えも自ずと出るということを言っている。前項で「雪ノ下の抱える問題」を「比企谷への恋」としたので、ここで言う「答え」はシンプルに導き出される。つまり「答え」とは「雪ノ下と比企谷が結ばれること」要するに「由比ヶ浜が比企谷への恋を諦めること」である。

 比企谷と雪ノ下の二人はお互いの思いに気づいていないけれど、由比ヶ浜だけは二人が実は両思いであると気づいている(あるいは、思い込んでいる)。従って、雪ノ下における「比企谷への恋心」「比企谷のことを好きだけれどプレゼントを渡せないこと」の答えを知っているのも由比ヶ浜だけである。二人は両思いだと提示すること=答えである。

 つまり、比企谷と雪ノ下がお互いの思いに気づき、心を通わせて恋仲になってしまうことが由比ヶ浜の言う「私たちの答え」というわけだ。お互いに思い合っている二人が結ばれて、比企谷へ片思いしているだけの自分が身を引けば物語はハッピーエンド。めでたしめでたし。だけどそれは由比ヶ浜にとってのバッドエンド。このまま黙っていればいずれ行き着いてしまうかもしれない「私たちの答え」を避けるために、由比ヶ浜はこうして行動を起こしている。

 ちなみに、比企谷と雪ノ下が両思いになって付き合い始めることは、現時点では作中の誰からも望まれていないことである。望んでいるとすれば雪ノ下本人だけである。特にストーリーの方向性を決定づける存在である雪ノ下姉から現在の比企谷と雪ノ下の関係について「ひどい何か」と唾棄されていることは注目に値する。そう考えれば「由比ヶ浜の言う「私たちの答え」=比企谷と雪ノ下が結ばれること」と「物語としての答え=物語の結末(まだわからない)」とは大きくかけ離れているとも言える。

 

「全部貰う」とは何を指しているのか? 

 それで、私が勝ったら全部貰う。

 由比ヶ浜のこの台詞の前に、ちょっとした会話がある。

 由比ヶ浜:ねえゆきのん、例の勝負の件ってまだ続いてるよね?
 雪ノ下:ええ、勝った人の言うことを何でも聞く

 奉仕部顧問教師曰く「誰が一番人に奉仕できるか、人の悩みを解決できるかって勝負だ。勝ったらなんでも言うことを聞いてもらえる」。奉仕部にはそのようなルールがあった。あってないような形骸化したものだったけれど、二期3話で由比ヶ浜を交えて上記のルールが再確認されている。ここでの「勝ったら」というのはそれのことを指している。

 「全部貰う」とは「奉仕部の関係を全部貰う=自分の思い通りにする」ということだと思う。つまりは、雪ノ下をこの恋から撤退させ、由比ヶ浜が比企谷に思いを伝える権利を堂々と手に入れることである。

 由比ヶ浜にはこの勝負に勝つ自信があるのだと思われる。由比ヶ浜が雪ノ下の問題を解決するということは、雪ノ下が由比ヶ浜に「私の問題を解決してくれ」と「最後の依頼」を出すことである。つまりそれは雪ノ下を意のままに操ることができることを意味する。

 また、この勝負に乗ってしまえば雪ノ下は比企谷に思いを伝えることができない。なぜならそれは「問題の解決=由比ヶ浜の勝利」を意味するからである。この勝負は引き受けた時点で雪ノ下の負けが確定している出来レースだ。自分の勝利が確定している勝負に雪ノ下を乗せようとしている。だからずるい。

 

なぜ由比ヶ浜は具体的なことを言わなかったのか

 比企谷のモノローグ:
 何一つ具体的なことは言わなかった。口に出してしまえば確定してしまうから。それを避けてきたのだ。

 由比ヶ浜がなぜこのような曖昧で抽象的な言い回しで勝負を持ちかけたのかということを、少なくとも比企谷は理解していることがわかる。

 上記で言及してきた通り、比企谷と雪ノ下は互いを意識しているようであるけれどお互いがそれに気づいていない。あるいは、はっきりとした形にはなっていない。つまり、具体的なことを口にするということは比企谷と雪ノ下が両思いであることを二人に提示してしまうことになる。由比ヶ浜がこのタイミングで勝負を持ちかけたのは二人がお互いの気持ちに気づく前に行動を起こす必要があったからに他ならない。

 「確定してしまう」とは「由比ヶ浜の提案がこの三角関係の恋についてであることが確定してしまう」という意味である。由比ヶ浜の提案が恋についてであることが確定してしまうということは、雪ノ下と比企谷が両思いである可能性を二人に示唆してしまうことになる。由比ヶ浜はその確定を避けるためにこうしてずるい手段を使っているのである。

 

(追記)「避けてきた」という表現による再考

「それを避けてきたのだ」という表現が気になったので考え直してみた。「それを避けたのだ」ではなく「それを避けてきたのだ」という過去完了形に近い表現となっており、由比ヶ浜がこのシーンだけでなく、物語中においてこれまでもずっと「避けてきた」ことが示唆されている。

由比ヶ浜が物語中において胸に秘めながらも具体的に口に出していないことは「比企谷への想い」しかない。「待たないで、こっちから行くの」も「人の気持ち、もっと考えてよ(第2話)」も「そういうことじゃないんだけど(第9話)」もその他の多くのシーンも、由比ヶ浜は比企谷に想いを寄せていることを仄めかしはすれど、具体的なことは言わない。

それはなぜか。告白してしまったら「比企谷に受け入れられるかフラれるかが確定してしまう」からである。由比ヶ浜は比企谷のことが好きだけれど、フラれることを恐れている。

好きな相手には告白する(確定させる)というのが筋である。誰かと競い合っているのであればなおさら。しかし、由比ヶ浜はずるいのでフラれるというリスクを取らないで(確定させないで)雪ノ下だけをこの恋から撤退させようとしているのである。

こちらのほうがしっくり来る気がするので、追記しました。

 

由比ヶ浜のずるいポイント総まとめ

 ずるいかもしんないけど、それしか思いつかないんだ。

 改めて由比ヶ浜は自分のことをずるいと言う。どの辺がずるいのかまとめてみよう。

 
・「全部欲しい」欲張りなところ。

・先にお礼という形で手作りクッキーを比企谷に渡して、雪ノ下を牽制したところ

・勝利が決まっている勝負を敢えて持ちかけたこと

・具体的なことを言わず、確定させないままに同意を促そうとしているところ

・雪ノ下自身の言葉(勝負に同意すること)によって比企谷への思いを諦めさせようとしているところ

 
 確かにずるい。でもそれは、由比ヶ浜が狡猾な人であるとか、思いやりがない人であるということにはならない。由比ヶ浜は自分の感情に従って、自分に嘘をつかない行動に出た。それがずるくて自分の我を通すためだけの手段であるというのは本人も自覚している。けれど、彼女にとってはそれが最善で、自分の気持ちに最も誠実な手段だったのだ。

 12話の最後で由比ヶ浜は「ずるい気がする」と言って比企谷と一緒に帰らなかった。でも今は「全部欲しい」という本心を実現するために決心して自分で「ずるい」と自覚している手段を取っている。比企谷の本心が「本物が欲しい」であるのに対して、由比ヶ浜の本心は「全部欲しい」であると見ることもできるかもしれない。

 

「このままでいたい」とは何を指すのか?

 ずっとこのままでいたいなって思うの。どうかな? ゆきのん、それでいい?

 「このままでいたい」というのは「由比ヶ浜が比企谷への恋を諦めて三人の馴れ合いの関係を続ける」ことではないように思う。前述の通り、それではストーリーが振り出しに戻ってしまうし、由比ヶ浜が比企谷の何も理解していないことを示してしまう。馴れ合いの関係は比企谷の言う「本物が欲しい」とは逆の行為である。由比ヶ浜がそれを理解していないとは考えにくい。そして恋を諦めるとも思えない。由比ヶ浜は強い女の子だ。

 ここでの「このままでいたい」というのは、比企谷と雪ノ下の二人に言っているのではなく、雪ノ下一人だけに提案している。直後、雪ノ下の元へ歩み寄り、手を取って「どうかな? ゆきのん、それでいい?」と訊ねているからである。

 そもそも本稿において検証している由比ヶ浜の台詞の前に「これからどうしよっか。ゆきのん(=雪ノ下)のこと。それと、あたし(=由比ヶ浜)のこと。あたしたちのこと」と枕があって、話は本題に入る。従って、本題における当事者は雪ノ下と由比ヶ浜の二人だけであることが明確に示されている。由比ヶ浜は最初から最後まで雪ノ下にだけ向かって話しているのである。

 雪ノ下だけに「このままでいたい。どうかな?」と敢えて提案しなければならない内容は一つしかない。「このまま比企谷に思いを伝えないで欲しい」ということである。つまり「比企谷への恋を諦めてくれ」ということを仄めかしているのである。このままでは自分に勝ち目はなさそうだから、自分の勝利が確定している勝負を敢えて雪ノ下に持ちかけている。雪ノ下は自分の意志を表明するのが苦手で常に受け身であり、出された提案に同意することしか選択できないことを由比ヶ浜は知っている。「ゆきのん、それでいい?」と雪ノ下が同意することを前提にした言い回しに強い意志を感じる。

 つまり、ここから由比ヶ浜が思い描くストーリーは、

 
 勝負する約束を雪ノ下に同意させる
  ↓
 同意してしまった雪ノ下は比企谷に思いを伝えることができない
  ↓
 少なくとも比企谷は雪ノ下のものにはならない

 
 というものであろう。比企谷に手作りクッキーを渡したくだりを含めて、本稿にて検証している由比ヶ浜の台詞の目的は「比企谷への告白」でもなく「由比ヶ浜が恋を諦めて三人の馴れ合いの関係を続けたい」ことでもなく「雪ノ下に比企谷への思いを諦めてもらう」なのだと思う。

 つまり、これまで検証してきた由比ヶ浜の台詞の意味を読み解いて要約すると「私は比企谷が好きだから諦めない。ゆきのん(=雪ノ下)が比企谷のことを好きなのは知っている。だけど、諦めて欲しい」ということになるのである。

 

その他の論拠(追記)

観覧車での由比ヶ浜の台詞

 この由比ヶ浜の「最後の依頼」のシーンの直前、三人は観覧車に乗っている。で、一周して地上に着く直前あたりに次のような台詞が差し挟まれる。

 比企谷のモノローグ:
 不安定さを偽りながら、ゆっくりと回り続ける。前へ進むことはなく、ただ同じところをいつまでも。それでも、やがて。

 由比ヶ浜:
 もうすぐ、終わりだね。

 観覧車は三人の関係のメタファーである。何も確定させないまま、曖昧に茶を濁しながら同じような日常をぐるぐると回り続ける自分たちの状況を比企谷が観覧車に照らし合わせて独白していることは明らかである。

 そうであれば、由比ヶ浜の「もう、終わりだね」は「観覧車がもう終わり」であると同時に、「前へ進むことはなく、ただ同じところをいつまでも回り続ける三人の関係がもう終わり」ということを表明していると解釈できる。由比ヶ浜はそのぐるぐる回るだけの日常を打破するために「最後の依頼」を出すのである。

 

バレンタインパーティーでの雪ノ下姉(陽乃)の台詞

 二期12話、クラスの皆や他校を巻き込んでのバレンタインチョコの試食会において、雪ノ下姉が三人に向かって「ふーん、それが比企谷君の言う本物?」とかなり冷たく水を差すシーンがある。これは比企谷に「表面上だけの欺瞞の関係はいらない=本物が欲しい」という信念があるにも関わらず、このバレンタインチョコの試食会はまさに表面上だけの欺瞞で形作られたものになってしまっていることを指摘されたものである。

 これ以降、三人はテンションガタ落ちで暗い表情になってしまうのだが、由比ヶ浜を「最後の依頼」に駆り立てた契機にもなっている。それはこの13話前半で、陽乃に「ちゃんと考えてます。ゆきのんも私も」と発言していることからもわかる。雪ノ下と比企谷が互いに意識しているような様子を目の当たりにしてしまったことよりも、「それが本物?」と問われたことがきっかけになっていることは注目すべきである。

 由比ヶ浜の「最後の依頼」は「それが本物?」への回答であり、つまりその本意は「なあなあの関係を続ける」ことではないように思う。

 

比企谷のモノローグ

 由比ヶ浜の依頼の最後の台詞「どうかな? ゆきのん、それでいい?」の直前に比企谷のモノローグがある。

 比企谷のモノローグ:
 由比ヶ浜はたぶん間違えない。彼女だけはずっと正しい答えを見ていた気がする。

 本作品『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』はそもそものストーリーの始まりから「表面上だけの欺瞞的な人間関係なんて嘘だし悪じゃないのか?」という問いから出発しており、比企谷自身も様々な経験を経て揺れ動きながらも、あがきながら悩みながら問い続けながら自分で考えて「本物」を見つけるべくここまで来ている。

 「本物」を求める比企谷が「正しい答えを見ていた気がする」と評価しているということは、少なくとも由比ヶ浜の「最後の依頼」の本意が「欺瞞的に三人がなあなあの関係を続ける」ことではないように思う。

 

で、由比ヶ浜の目的は果たされたのか? ―涙の理由

 「ゆきのん、それでいい?」との由比ヶ浜からの強い提案に対して雪ノ下は半ば屈しつつあり「私はそれでも構わな…」と言い終えそうになるのだが、ここで比企谷が「いや、その提案には乗れない。雪ノ下の問題は雪ノ下自身が解決すべきだ」と割り込み、由比ヶ浜の提案を断る。

 重要なことは、比企谷がその提案を断ったのは雪ノ下への好意を理由にしたものではないということである。この比企谷の台詞には裏はない。「雪ノ下の問題は雪ノ下自身が解決すべきだ」というただそれだけの理由で断ったのであり、それ以上でもそれ以下でもない。従って、比企谷は雪ノ下を贔屓して助けたわけでもないし、由比ヶ浜が振られたわけでもない。だけど結果として雪ノ下は主体性を取り戻し、由比ヶ浜はずるい手段を完遂することがなくなった。二人とも救われた。

 提案が断られた後、由比ヶ浜は「ヒッキー(=比企谷)ならそう言うと思った」と明るげな声で言い、涙が一筋頬を伝う。雪ノ下への提案の中で「ずるいかもしんないけど、それしか思いつかないんだ」と言っていたのは本音である。完璧な解決策は思いつかないけれど、自分にとっての最善の策がこれだった。もし比企谷ならこんな時に完璧な解決策を捻り出したかもしれない。けれど由比ヶ浜は自分なりに考えに考えて、この方法しか思いつかなかった。比企谷に手作りクッキーを渡す際の由比ヶ浜の台詞「あたしが自分でやってみるって言って、自分のやり方でやってみるって言って。それがこれなの」がリンクしている。

 自分の感情に正直に生きる由比ヶ浜は、この完璧じゃなくてずるい策を行動に移すしか選択肢がなかったのである。なぜならその日はバレンタインデーであり雪ノ下が先に比企谷にプレゼントを渡してしまったら、由比ヶ浜の恋はそこで終わってしまう可能性が大いにあった(と由比ヶ浜は考えている)からである。由比ヶ浜にとっての「今なんだ」はこの日だったのである。

 結果的に由比ヶ浜のずるい手段は比企谷によって防がれた。由比ヶ浜の企図した行為(=卑怯な手段を使って雪ノ下の恋を諦めさせること)は果たされなかったけれど、比企谷に止めてもらえて良かったとホッとして涙が流れたのだと思う。あくまで推測に過ぎないのだけれど、この涙にはとても複雑な意味が込められていると思う。このアニメに意味のないシーンは一つもないと私は考える。

 

で、比企谷は結局誰が好きなのか?

 肝心の比企谷は誰が好きなのか、それは誰にもわからない。比企谷自身もわかっていない。本作のヒロインは雪ノ下だけれど、雪ノ下と結ばれることは現時点では「ひどい何か」である。この先のストーリーでどうなるかはわからないがすぐに二人が結ばれることはなさそうであると私は考えている。

 二期から登場する一色いろはという人物はまずこの恋模様には関係ないとみなして良いものと思う。一色の物語中での役割は「比企谷は表面的な誘惑に流される男じゃない」ということを示すことにあると思われる。比企谷と一色が仲良さそうにしているのを目にしても由比ヶ浜が全く警戒していないばかりか、少しの嫉妬さえ見られないことからもそれはわかる。

 アニメ本編において比企谷が頬を赤らめるシーンが何度かある。特に一色と雪ノ下と戸塚(比企谷の同級生。かわいい系男子。恋愛対象外)に対して頬を熱くしているのが見られる。上述したように、特に一色と比企谷は絶対に恋仲にはならないと言えるわけで、戸塚と比企谷が恋愛に発展するBL展開も絶対にない。その絶対に恋愛関係にならない一色や戸塚と同じファクターが雪ノ下にも用いられていることは興味深い。雪ノ下とも恋愛関係にならないことを示唆しているのではないか。

 逆に、作中の主要人物で比企谷が頬を赤らめる演出がされないのは、一人は由比ヶ浜、もうひとりは比企谷の妹・小町である。二期の5話において比企谷と小町が仲直りするシーンがある。とても丁寧に描かれていて、二人が兄妹であるゆえに長い時間を共有した結果の信頼関係にあるのが伝わってくるのが印象的だったのだが、比企谷が求めている「本物」とはこのような関係なのではないかとふと思った。もちろん、比企谷はシスコンではないから妹と何かがあるような異次元的な展開にはならないに決まっている。

 で、あれば比企谷が頬を赤らめないもう一人の人物、由比ヶ浜の中に比企谷の求める「本物」があり得るのではないかと思った。ただ、由比ヶ浜と結ばれつつある物語は同時間軸のもしもの話を描くanotherというサイドストーリー(Blu-rayに同梱されている原作者描き下ろし小説)として用意されているらしい。本編でも同じようになるとはなかなか思えないものの、比企谷が手に入れるものが「本物」であるならどういう経過を辿っても答えは一つの場所に行き着くような気もする。

 またあるいは、この物語、恋が全てを解決するようにも思えない。むしろ、友情とか恋愛とかそういうものを超えた「本物」の人間関係がテーマとなっているとも考えられ、この先、どのような展開になるのか深読みし甲斐があって非常に楽しみである。

 
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