『俺ガイル。続』第3話の感想・考察。なぜ比企谷と雪ノ下雪乃は対立しているのか
第3話「静かに、雪ノ下雪乃は決意する。」
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』(『俺ガイル。続』、二期)の第3話、第4話、第5話は原作の8巻を映像化したものである。この8巻、私はとても気に入っている。それぞれの登場人物がそれぞれの意志を持って全速力で空回りしているので人物が生きている感じがして非常に良い。
さて、そのプロローグとなる第3話、原作を援用しながら時系列順に解説して行こう。
※他にも俺ガイル考察記事ございますので、「俺ガイルカテゴリ」からご覧くださいませ。
自宅 ―なぜ比企谷は小町に話さなかったのか
小町「で、何があったの?」
比企谷「しつけぇよ、いい加減にしろ」
前話の修学旅行回を受けての朝、小町は比企谷に何かがあったに違いないと確信して詳しく話すことを促す。しかし、比企谷は断固として口を割らないので二人の間に諍いが起きるという流れである。
おそらく小町はこれまでも比企谷の些細な異変をすぐに察知して問いかけ、比企谷もそれに応じて小町に何でも話してきたのだろう。しかし、今回だけは比企谷は頑なだった。なぜ比企谷は今回に限って小町に話さなかったのだろうか。
これまで比企谷の自己犠牲的なやり方を咎める者はほぼいなかった。一期の最終話で、葉山は「どうしてそんなやり方しかできないんだ」と、平塚先生は「誰かを助けることは君が傷ついていい理由にならないよ」と言っているが、比企谷の心には響かなかった。
しかし、修学旅行回で雪ノ下雪乃と由比ヶ浜にそのやり方を「嫌い」「やだ」とはっきりと断罪されて、初めて心に響いた。ショックを受けた。しかし、なぜショックを受けたのかについて現時点で比企谷は理解できていないので、言語化できない。なので小町に話さなかった、正確には「説明するための言葉が見つからなかった」のだと思われる。
教室 ―戸塚と普通に挨拶
戸塚「ああ、いや、なんか普通に挨拶だなーって」
比企谷「ああ、まあ、そうだな。普通だ」
比企谷が普通に「おはよう」と挨拶を返してきたことに対して戸塚が驚いている。これまで比企谷がどのように戸塚に対して挨拶をしていたのか詳しくはわからないが、おそらく「おお」とか「ああ」とかそっけない返答だったのだと思う。確かに比企谷の「おはよう」という台詞は珍しく、違和感がある。
ここで出てくる「普通」が今話のキーワードとなる。
放課後 ―時間を潰して部室へ
比企谷「苦ぇ…」
いつものマックスコーヒーではなくブラックコーヒーを選んで一気に飲み干す。個人的に、飲み物の選択で登場人物の心情を代弁させるやり方は結構好きである。
誰よりも早く教室をそそくさと出たものの、踊り場で時間を潰してから奉仕部の部室へ向かう。部室に行かないという選択肢もあったはずだが、敢えていつも通り「普通」に振る舞うことで修学旅行回の自らの行為を正当化しようとしている。ただ、足取りは重い。
部室1 ―奉仕部ソロ活動へ
雪ノ下雪乃との意見の対立
比企谷「俺たちも普通にしてやるのが一番なんじゃねぇの」
雪ノ下「そう、それがあなたにとっての普通なのね」
比企谷と雪ノ下雪乃との意見の対立が明確化する。キーワードとして「普通」が繰り返し出てくるが、これは「特殊」の反義語としての「普通」ではない。「欺瞞」の類義語としての「普通」と考えるべきだろう。「(何かがあったにも関わらず)何もなかったようにいつも通りに過ごす(=欺瞞)」ということだ。
雪ノ下雪乃は比企谷の何に憤慨しているかと言うと「1.自己犠牲」と「2.欺瞞」である。比企谷は前話で、再度の自己犠牲によって葉山グループを馴れ合い(=欺瞞)に収束させた。おそらく雪ノ下雪乃は比企谷を「自分に似ていて、自分を理解してくれる人物」と理想を押し付けていた。
しかし、比企谷は自己犠牲によって雪ノ下雪乃が傷つくことを理解できなかったばかりか、二人の暗黙の共通認識であった「馴れ合いは要らない」という行動原理から逸脱する。こうして部室で何事もなかったように過ごしていることさえも雪ノ下雪乃にとっては馴れ合いであり欺瞞であり嘘のようなものである。
雪ノ下雪乃は自分の信念・正義感に基づいて比企谷を糾弾する。比企谷のことを嫌いになったからでは決してない。同じ信念を共にする者として戻ってきてほしかったからという理由もあるだろうと思われるが雪ノ下雪乃の台詞として語られることはない。
「あなたは、その…」と雪ノ下雪乃が言葉に詰まる場面がある。ここは比企谷に対する言葉を飲み込んだと言うよりは、的確に表現する言葉が思い付かなかったのだと考えられる。比企谷が小町に何も話さなかったのと同じだ。
いろはす登場
一色いろは「よく言われるからわかるんですよぉ。トロそうとかぁ、鈍そうとかぁ」
二期でレギュラー入りする一色いろはが登場する。この登場シーンは何度見ても面白い。演じている佐倉綾音さん自身は全くこんなキャラでないと思うので余計に可笑しい。余談であった。
生徒会長選挙で一色いろはを当選させないために「応援演説が原因で落選させる」というアイデアを比企谷が提案する。文化祭、修学旅行に続いて三度目の自己犠牲による解決法であり、この展開には正直唸った。すごい作品だと思い始めた瞬間である。
雪ノ下雪乃が比企谷の案をやや感情的になって否定するのは、比企谷を再び自己犠牲に陥れないためである。不正をすることまで仄めかして比企谷の自己犠牲を阻止しようとしていることで、雪ノ下雪乃は比企谷のことを嫌いになったわけではなく、むしろ心の底では友好的に思っていることがわかる。
勝敗の行方
平塚先生「君のやり方では、本当に助けたい誰かに出会ったとき、助けることができないよ」
奉仕部の理念であった「人の悩みを最も解決した人は、何でも言うことを聞いてもらえる」という勝負事を平塚先生がすっかり忘れていたことで、それは単なる口実に過ぎなかったことが明白にされている。奉仕部の目的は「勝負」ではなく、他の何かにあるということ。
ちなみに原作では、雪ノ下雪乃の「馴れ合いなんて、私もあなたも一番嫌うものだったのにね」という台詞の前に、比企谷が由比ヶ浜に「……お前も、ちゃんと考えたほうがいいぞ」と言い放つ意味深な場面がある。
ミスド的なカフェ
折本かおりの登場
折本かおり「あ、そういえば、あたし比企谷に告られたりしたんですよー」
比企谷の中学時代の黒歴史に関与している折本かおりが登場する。比企谷が「自意識の化物」を堅牢に保つきっかけとなった人物である。陽乃に「比企谷くんの恋バナ聞きたーい」と尋ねられて、あっさりと告られたことを話してしまうこのシーンは次話以降のちょっとした伏線になっている。
雪ノ下陽乃と遭遇
雪ノ下雪乃の姉である陽乃は「おもしろそう」「つまらなそう」という基準で行動しているように思える。何を考えているのかさっぱりわからなくて、心がないように見える。陽乃の人間性を覗けるようになるには原作12巻を待たなければならない。
修学旅行のお土産のくだりで、陽乃は雪ノ下雪乃の性格について「(相手を)嫌いだけど、(相手に)嫌われたくない」と評しているのは物語を読み解く上で何かのヒントになるかもしれない。
葉山による陽乃評
葉山「あの人(=陽乃)は、興味のないものにはちょっかい出したりしないよ。何もしないんだ。好きなものを構いすぎて殺すか、嫌いなものを徹底的に潰すことしかしない」
上記は葉山による陽乃の評価である。綺麗に3つに分類されているので詳しく見ていこう。
興味のないもの:
おそらく葉山は陽乃に好意を抱いているが、「興味のないもの」に葉山が分類されているのは明白である。由比ヶ浜もおそらく興味のないものに分類される。接点は少ないが折本もここだと思われる。何事も間違えずに卒なくこなしてしまう人物に陽乃は興味がない。
好きなもの:
葉山によれば比企谷は陽乃に好かれているらしい。恋とかそういうことではなくて、興味を持たれている程度のことである。先の話になるが、第9話において遊園地で陽乃にいつもちょっかいをかけられていたというエピソードが披露されるので雪ノ下雪乃もここに入ると考えて良い。
嫌いなもの:
文化祭で実行委員長をしていた相模という人物はここに分類されるだろう。なぜ嫌われてしまったのかはわからない。
部室2 ―埋まらない両者の主張
雪ノ下雪乃「今回に限って。いえ、違う。あなたは前もそうやって回避したわ」
再び比企谷と雪ノ下雪乃の意見が食い違う。
比企谷の主張
比企谷の考える最も効率的な方法は「応援演説が原因で落選する」というアイデアである。比企谷は目の前の問題を合理的に解決することだけを考えていて、それ以外のことは頭にない。
比企谷の「馴れ合いは要らない」という信念はおそらく先天的なものではなく、後天的に植え付けられたものであると推測される。それは中学時代の折本かおりとの黒歴史によって「自意識の化物」が形成されたことに由来する。比企谷の言う「馴れ合いは要らない」は感情を「自意識」によって必死に押さえつけた結果の自らに対する単なる言い訳に過ぎないのではないか。
その自意識が修学旅行回で葉山と対話することによってほんの少しだけ低まった。葉山グループの「今を大事にしたい」という気持ちを理解してしまったからである。冒頭の戸塚に対する「おはよう」も比企谷の自意識というバリアが弱まった証左であるように思う。
雪ノ下雪乃の主張
しかし、雪ノ下雪乃にとって「馴れ合いは要らない」は確固たる信念であり続けている。雪ノ下雪乃がその信念を貫き続けられるのは、他人を理解しようとしていないからとも言えるし、先天的にそのような考え方であるからかもしれない。
「あなたは前もそうやって回避したわ」と比企谷の欺瞞を追及する。雪ノ下雪乃にとっての本物は馴れ合いや欺瞞を排除した後に残る人間関係である。嘘でその場しのぎを取り繕って解決することは欺瞞に欺瞞を重ねる行為でしかなく、全く意味がないと信じている。
「そんな上辺だけのものに意味なんてないと言ったのは、あなただったはずよ」と雪ノ下雪乃は一貫性に固執する。雪ノ下雪乃の求める本物とはつまり一貫性のことであり、永久に損なわれないものだからである。馴れ合いで磨かなくても輝き続けるものを求めている。比企谷にも一貫性があって欲しいと願っている。
善悪はない
二人の対立に善悪はない。どちらが正しいという正解もないし、どちらも間違っているとも言える。両極端な二人の意見がぶつかり合っているに過ぎない。しかし、正解がないからこそ、この物語は魅力的で、何度も見返すことができる。
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