『俺ガイル。続』第5話の感想・考察。「わかるものだとばかり思っていたのね」の意味とは?

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第5話「その部屋に、紅茶の香りはもうしない。」

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』(『俺ガイル。続』、二期)の第5話である。ここで生徒会長選挙に関する話が解決し、解決したが故に次話以降に新たな問題が生じる契機となる。

本稿においては「1.小町との仲直り」「2.”わかるものとばかり思っていたのね”という台詞の意味」「3.なぜバッドエンドになってしまったのか」という3つに論点を絞って解説して行こう。

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1. 小町との仲直りが意味するものとは?

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小町「でもね、それを理解できるのは小町だからだよ。ずっと一緒に暮らしてきた小町だからわかるの。でも、他の人は違うよ。全然意味わかんないし、すごく苦しいと思う」

小町は比企谷の唯一の理解者

比企谷がなぜ小町に相談したかというと「比企谷が奉仕部を守っていい理由」を与えてもらうためである。しかし、それだけのことにしては比企谷と小町が仲直りするシーンは丁寧に描かれすぎている。更なる真意があるはずだ。

ここで重要なのは、比企谷という人間の唯一の完全な理解者は、現時点では小町ただ一人であるということである。第2話で比企谷は自分の信念である自己犠牲的なやり方を雪ノ下と由比ヶ浜に否定され、第4話では葉山にその信念を勘違いされる。

小町と比企谷が喧嘩をしているのは第3話冒頭で比企谷が小町の助けを拒絶したからであり、比企谷が勘違いされているわけでも信念を否定されているわけでもない。小町は比企谷を理解し続けている。同様にして、比企谷も小町を理解している。だからこうして少ない言葉で仲直りができる。

 

長い時間をかけて理解し合うということ

「……今から15年。ううん、もっと長い時間が経つことだってあるんだよ」
それはきっと可能性の話だ。俺が小町と15年かけて今の関係を築いたように、もしかしたら他の誰かともそんな風に時を重ねていけるのではないかという、可能性の話。
ただ、今の俺には現実味が薄い。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』8巻、P249

この二人の信頼関係が成り立っているのは「二人が一緒に暮らしてきた兄妹だから」以上の理由はない。かつては二人の間にも諍いや誤解があったのだろうけれど、時間が二人の理解を自然と深めて今に至っているだけのこと。生まれてからずっと相性が良かったわけではない。

『俺ガイル。続』の物語のテーマとして「本物」がある。比企谷の言う本物とは、比企谷と小町のような関係のことなのではないかと私は考えている。しかし、比企谷の唯一の理解者が小町であり続けるわけにはいかない。比企谷には比企谷の人生があり、小町には小町の人生がある。

上に引用した比企谷のモノローグでも示唆されているように、今後の物語としては「比企谷が誰かと理解し合えるようになること」が要点となる。雪ノ下雪乃や由比ヶ浜と今すれ違っているのはそのための助走期間であると考えることができるだろう。

 

2.「わかるものだとばかり思っていたのね」の意味

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雪ノ下雪乃「わかるものとばかり思っていたのね」

この台詞が難解なのは、抽象的だからである。主語も目的語もない。「(誰が・何を)わかるものとばかり(誰が)思っていた」のかわかりづらいのである。考察し甲斐のある秀逸な台詞回しだ。

結論から言ってしまうと「(あなたが・私の気持ちを)わかるとばかり(私は)思っていたのね」ということであると私は考えている。つまり、この台詞の真意を正確に記述するならば「私から何も言わなくても、比企谷君なら私の本当の気持ち(生徒会長になりたいということ)をわかってくれるだろうと、私は勘違いしていたのね」ということである。

 
雪ノ下雪乃は「何も言わなくても理解してもらえる関係」を望んでいる。そして、比企谷には理解してもらえていると思っていた。もしかしたら雪ノ下雪乃にとって世界で唯一の理解者は比企谷であると感じていたかもしれない。しかし、違った。次話以降、雪ノ下雪乃が何かを諦めたような態度に変わってしまうのはそのためである。

もちろん、これは比企谷が悪いわけではない。無条件で誰かに理解してもらえるなんてことがあるわけない。理解してもらうには長い時間と対話が必要だ。そういう意味でも「理解してもらうためには何が必要か」を雪ノ下雪乃が探していくことが彼女の成長物語としての要点となる。

 
ちなみに、「わかるものだとばかり思っていたのね」は英語版では「And here I was sure you’d understand(あなたが理解してくれるだろうと私は思っていたのね)」となっている。わかりやすい。

スペイン語版では「Pensaste que habías entendido, ¿no?」であり、Google翻訳にかけると「あなたはあなたが理解したと思った、そう?」となる。何が「そう?」なのかはよくわからないが、いずれにしても「わかる」の主語は「あなた(=比企谷)」であり、「思っていた」の主語は「私(=雪ノ下雪乃)」との見方で各言語に訳されているのがわかる。

 
余談だが、外国の翻訳者が日本語の文章を自国語に訳す際に最も難儀するのは「主語がない」ことであるらしい。例えば「ご飯食べる?」は日本人では誰もが理解できる普通の文だけれど、日本語を勉強する外国人(特に英語圏)にとっては主語がないので意味がわからないことが多いようである。

この「わかるものだとばかり思っていたのね」は日本人である私たちにとっても一見意味がわからないので、外国語への翻訳者はかなり苦悩したであろうと推測される。

 

3. なぜ比企谷は間違えたのか -バッドエンドの意味

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例えば。
例えばの話である。
例えばもし、ゲームのように一つだけ前のセーブデータに戻って選択肢を選び直せたとしたら、人生は変わるだろうか。
答えは否である。
それは選択肢を持っている人間だけが取りうるルートだ。最初から選択肢を持たない人間にとってその仮定はまったくの無意味である。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』8巻、P357

この第5話、バッドエンドである。第3話〜第5話までが原作の8巻に相当するが、その中で登場人物の全員がバッドエンドに向かって突き進んで行くので、キャラクターが生きている感じがしてとても好きである。

バッドエンドに突き進む時系列

バッドエンドに向かっていくさまを時系列順に見てみよう。

まず、「一色いろはを当選させない」という目的のために比企谷が再び自己犠牲による「間違った」解決法を提案する(第3話)。それに対して、雪ノ下雪乃は姉に言われたからという「間違った」理由で生徒会長に立候補しようとする。それを受けて、由比ヶ浜も自分が立候補しようとするが、もし由比ヶ浜が当選して生徒会長になったとしても部活との両立は難しいので、やがて奉仕部はなくなるだろう。従ってこれも「間違った」解決法にほかならない(第4話)。

小町は比企谷の相談を受けて比企谷に奉仕部を守っていい理由を与えるが、そもそも雪ノ下雪乃を生徒会長にしないという選択肢は間違いなので「間違った」助言であった。で、比企谷は一色いろはの推薦人を無理やり集めることで、一色いろはを生徒会長に推すと共に、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜が立候補する理由をなくす。

比企谷は自己犠牲をすることなく、雪ノ下雪乃も生徒会長をやらずに済んでめでたしめでたし問題は解決した、ように見えるが、それは表面上だけのこと。表面上とは要するに「馴れ合い」であり「欺瞞」のことである。「わかるものだとばかり思っていたのね」という言葉と共に雪ノ下雪乃は心を閉ざしてしまう。つまり、その解決法も「間違って」いた(第5話)。

 

なぜバッドエンドになったのか

本当は雪ノ下雪乃は生徒会長になりたかったようである。けれど、比企谷のスマートな解決策の前に阻止されてしまった。

あのまま雪ノ下雪乃が立候補して当選すればトゥルーエンドになったかというと、そうでもない。奉仕部はなくなってしまうし、雪ノ下雪乃に必要なのは「自分の意志で」生徒会長に立候補することである。第4話で陽乃に「雪乃ちゃんが生徒会長をやるんじゃないんだ」と指摘されていた時点で、雪ノ下雪乃の成長物語にとっての正解は生徒会長になることではなくなった。

 
比企谷が雪ノ下雪乃の立候補を阻止したのは、文化祭(一期、原作6巻)の二の舞にしたくなかったからである。雪ノ下雪乃の行動様式は「最終的な意志決定は自分でしない」というものであった。比企谷はその行動様式が雪ノ下雪乃の本心であると誤認してしまった。従って、雪ノ下雪乃が本当は生徒会長をやりたいと心の中で思っていたなんてことは比企谷の頭の中にはなかった。比企谷は人の行動様式や心理を見抜くのは得意だが、感情は全く理解していない。

それに加え、雪ノ下雪乃が生徒会長に立候補したのは自分(=比企谷)を守るためであると比企谷は認識していた。自分を守るために他人が犠牲になるのは比企谷の信念に反する。その上、比企谷も奉仕部をなくしたくなかった。

 
それぞれの登場人物がそれぞれの行動原理で動いたがためにバッドエンドになった。従って、回避不可能。「ゲームのように一つだけ前のセーブデータに戻って選択肢を選び直せたとしたら、人生は変わるだろうか。答えは否である」は起こるべくして起こったバッドエンドであることを表している。

 

では、トゥルーエンドは何だったのか? -めぐり先輩の言葉

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「ほんと言うとね、期待してたんだ。雪ノ下さんが会長になってくれたらなって。で、もっと言うと、由比ヶ浜さんが副会長。それから……比企谷くんは庶務っ! ……そういうのちょっと憧れてた」
そんな未来もあり得たのだろうか。
きっとあったのだろう。
けれど、それは見果てぬ夢だから、叶わない仮定だから。
取り返しはつかない。ただ、やり直すことしか許されていない。時に、やり直すことすら許されない。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』8巻、P350-351より抜粋

最後のシーンでめぐり先輩が、奉仕部メンバーがそのまま生徒会になっていたらなあ、という仮の話をする。これこそがトゥルーエンドであったと仄めかされている。しかし、ここに到達するためには最低でも2つの壁がある。

 
1. 雪ノ下雪乃が自分の意志で生徒会長に立候補すること
2. 比企谷が雪ノ下雪乃の本心(生徒会長をやりたい)を理解していること

 
おそらくこのゲームを何度やり直しても、雪ノ下雪乃は自ら立候補をすることはないだろうし、比企谷は雪ノ下雪乃の感情を理解できない。だからやり直しても人生は変わらない。

しかし、間違いを問い直すことはできる。やり直すことはできなくても、流れる時間の中で問い直すことはできるのだ。それが次話以降の話である。

 
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