俺ガイル完(3期)第9話の感想・考察その1。「ヒッキーのお願い」とは何か?

俺ガイル完(3期)第9話「きっと、その香りをかぐたびに、思い出す季節がある。」の前半部分の考察をしていく。この第9話から原作最終巻である14巻のストーリーとなる。佳境である。

本稿は文字数は約3500字とこれまでの記事に比べて文字数が少なく、ストーリーも複雑なところはあまりないので、読みやすくなっているかなと思います。是非とも最後までご覧くださいませ。

後半部分の考察はこちら:
俺ガイル完(3期)第9話の感想・考察その2。「ありえない想像」なのは何故か?

 
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小町とのやりとり

小町「お兄ちゃんなんかあった?」
比企谷「ああ、あった」

2期第3話の焼き直しである。その時は「なんかあった?」と聞かれて「なんもねぇよ」みたいなことを言って喧嘩に発展した。この時の比企谷には「話して理解してもらうことに意味はない」というような思考が根底にあった。

しかし、今は「本物が欲しい(=相手を理解したい)」ことを比企谷ははっきりと自覚しており、翻って考えれば、小町が比企谷を理解したい(=なんかあった?)ことを拒むことは一貫性がないため、「ああ、あった」と素直に答えているのだと思う。

「全部終わったらちゃんと話す」というのは、比企谷自身も現状についてうまく整理ができていないことを示すものと思われる。

由比ヶ浜との帰り道

なぜ比企谷はブランコを断ったのか?

比企谷は由比ヶ浜のお願いを叶えてやるために二人でいる。従って、比企谷が隣のブランコに座らなかったのは、今、二人の関係は対等でないことを示すものであろう。

ごめんねを連発する比企谷

由比ヶ浜が連射する比企谷へのダメ出しに、比企谷は「ごめんね」を連発する。

もし相手が雪ノ下だったらきっとこうはならない。同じことを言われてもおそらく屁理屈で返すなどし、「ごめんね」と話を打ち切るようなことはないはずだ。もしもの話だけれど、そのような想像が容易につくのではないだろうか。

由比ヶ浜に反論できないのは、由比ヶ浜が「正しい」からだろうか。そうだとすれば、やはり二人の関係は対等ではない。

初めてのブラックコーヒー

大変にわかりやすく比企谷がブラックコーヒーを飲んでいる。俺ガイル完では初めてではないだろうか。まさかほぼ毎話でマックスコーヒー/ブラックコーヒーの対比が出てくるとは思わなかった。

マックスコーヒー/ブラックコーヒーは明らかに暗喩だが、それが何のメタファーなのかは考えどころである。

もし仮に雪ノ下エンドになるとして、第7話で比企谷が雪ノ下と並んでマッ缶を飲んでいることを引き合いに出して「マッ缶=ハッピーエンド」の象徴、由比ヶ浜ルートではないから「ブラック=バッドエンド」という暗喩ではないだろう。

おそらく、比企谷の心情を映し出すツールとして缶コーヒーが用いられている。例えば、ブラックコーヒーは「停滞」の象徴とか、事態が比企谷の思い通りに進んでいないことを示すものとか、様々な考え方があると思う。いろいろな人の見解を聞いてみたい。

「俺自身への裏切り」とは?

比企谷のモノローグ「ずっとこうやって話していられたなら、どれだけ楽だっただろう。肝心なことは何も言わずに、いつも通りを装って、わざと核心に触れないまま。だが、そうすることを自分に許してしまうのは俺自身への裏切りだ」

「肝心なことは何も言わずに、いつも通りを装って、わざと核心に触れない」というのは、2期のクリスマス合同イベントの頃の態度と同じである。奉仕部という関係を取り繕うために、心を閉ざしてしまった雪ノ下にいつも通りを装うことで、奉仕部は停滞のスパイラルに陥ることとなった。

その時の彼らの心情は非常に「心苦しい」ものであった。しかし、ここではいつも通りを装うことが「楽だ」と比企谷は言っている。そこが対比になっている。

「肝心なことは何も言わずに、いつも通りを装って、わざと核心に触れない」ことが「俺自身への裏切り」であるということは、それは「本物(=相手を理解するために、追い求め、問い直すこと)ではない」ということになるだろう。比企谷は楽な選択をせずに、苦しくも信念を貫く。

屁理屈な勝敗の行方

比企谷「例の勝負の件だ。勝ったらなんでも言うことをきくってやつ」
由比ヶ浜「……まだ勝負終わってないじゃん」
比企谷「まぁ、そうなんだが……。でも、俺が負けを認めちゃったからな。そうなった以上、……勝負は終わりだ」
由比ヶ浜「そんなの、ヒッキーが勝手に言ってるだけだよ」
比企谷「いや、俺の負けだ。気持ちいいくらい完璧に負けた」

この勝ち負けの話は要するに屁理屈である。比企谷も雪ノ下も屁理屈をこねているだけであり、雪ノ下の屁理屈のほうが少しだけましだっただけに過ぎない。だから由比ヶ浜の「そんなの、ヒッキーが勝手に言ってるだけだよ」は正しい。

プロム開催を巡り、比企谷と雪ノ下のエゴによって由比ヶ浜は突然に勝負の蚊帳の外に置かれてしまった。それにも関わらず、「雪ノ下に言われたから、由比ヶ浜のお願いを叶えてやる。さあ、お願いを言ってみろ」というようなことを唐突に言われているのであり、由比ヶ浜目線ではかなりの超展開であると思われる。駒みたいに扱われてよく怒らなかったな、と思った。余談であった。

「由比ヶ浜のお願い」

比企谷「だから、お前のお願いを叶えさせてくれ」
由比ヶ浜「あたし、欲張りだから一つに決めらんないや。……それでも、いいのかな。全部叶えてもらうのってあり?」
比企谷「……まぁ、できる範囲ならなんとかする」
由比ヶ浜「それ、やめたほうがいいと思う。ヒッキーいつもそうじゃん。できないのに、できる範囲でって言って、それで、結局なんとかするの。すっごい無理して。……だから、簡単なことだけお願いしよっかな」

この会話からわかることは、3点ある。

1. 由比ヶ浜がこれから述べるお願いは一番望んでいるお願いではない
「簡単なことだけお願いしよっかな」と言っていることからわかる。

2. 由比ヶ浜が一番望むお願いがある
「欲張りだから一つに決めらんないや。全部叶えてもらうのってあり?」で言及している部分が本当のお願いであると強く推測される。

3. 由比ヶ浜は比企谷に負担をかけたくないから本当のお願いを言わない
「結局なんとかするの。すっごい無理して。……だから、簡単なことだけ」という文脈でわかる。由比ヶ浜は比企谷をボロボロにしてまで自分のお願いを主張することはしなかった。優しさといえば優しさだけど、そもそも、由比ヶ浜は蚊帳の外だったにも関わらず突然に棚からぼた餅状態で「お願いを叶えてやる」と言われているので、ここでヘビーなお願いを言ってしまうのは筋が違うことを由比ヶ浜もおそらくわかっている。

「比企谷のお願い」とは?

由比ヶ浜「それから、ヒッキーのお願いを叶えること、かな」

「ヒッキーのお願い」は、過去回を援用すれば「比企谷の依頼」を指すと考えられ(2期第10話)、つまりは「本物が欲しい」を指すだろう。そこから踏み込んだ具体的な比企谷のお願いが何なのかはまだわからない。

由比ヶ浜はカップルを見遣った後に「ヒッキーのお願いを叶えること」と言っているが、そのカップルに「由比ヶ浜自身と比企谷」を投影したのか、それとも「雪ノ下と比企谷」を投影したのかはわからない。「お願い」に恋愛がらみの何かが含まれていることはわかる。

由比ヶ浜は何を「ちゃんと言う」のか?

由比ヶ浜「だから考えといてよ。あたしのお願い叶えてる間に。あたしも考えとくから。……それで、ちゃんと言う。……だから、ちゃんと聞かせて」

この由比ヶ浜の台詞には目的語が全くないので、下記で補完する。

由比ヶ浜「だから(ヒッキーのお願いを)考えといてよ。あたしのお願い叶えてる間に。あたしも(自分の本当のお願いを一つだけ)考えとくから。……それで、(自分の本当のお願いを)ちゃんと言う。……だから、(ヒッキーのお願いを)ちゃんと聞かせて」

他に考えようがないのでほぼ間違いない補完であると思われる。

「あたしも考えとく」というのは、「全部」叶えてもらうと比企谷が無理をするので、その中から叶えてもらうものを一つだけ考えとく、ということだと思われる。

由比ヶ浜は「自分の本当のお願いを言う」条件として、「比企谷のお願いを聞く」を提示しているようである。お願いがあるなら一方的に告げればいいのに、なぜ相手のお願いを同時に聞かなければならないと由比ヶ浜は考えているのだろうか。

おそらく由比ヶ浜は、比企谷の出方によってお願いを変えようとしているのではないだろうか。比企谷のお願いが仮に「由比ヶ浜との恋愛」であれば「私も好きだから付き合ってください」というお願いを発動することができるし、比企谷のお願いが「何も選ばない」であればそれに対応する最善のお願いを提示する、という具合に。コミュニケーション能力の高い由比ヶ浜であればそういった選択をすることは可能だ。

また、そもそも「由比ヶ浜のお願い」とは、おそらくは「雪ノ下との友情」「比企谷との恋愛」「三人の関係の維持」の全部のことであると思われるが、そのように明言されているわけではないのでミスリードである可能性も否定できない。

三浦(あーしさん)はいい人

あーしさん「だから、半端なことしないでくんない? そういうのムカつくから」
比企谷「善処する」
あーしさん「んだけ。じゃ」
比企谷「いい人だなぁ……」

あーしさんは1期の最初のほうでは嫌なキャラみたいな造形だった気がするが、実は面倒見の良いいい人である。

あーしさんにこうして指摘されていること(比企谷が中途半端な態度を取っているように見えること)は、おそらく周りの人物たちが皆気づいていることであると思う。あーしさんはいい人なので黙っていられず、比企谷に直接告げたというところだろう。

それにしても比企谷の「いい人だなぁ」とは何だ。全くの他人事である。「もしかしたら由比ヶ浜を傷つけていたかもしれないなぁ」ではなく「いい人だなぁ」である。なんだその感想は。見れば見るほどおもしろく笑えてくる。

考察すれば、比企谷には由比ヶ浜がいろいろな感情をもって泣いたり悲しくなったり切なくなったりしていることに、全く想像が及んでいないのかもしれない。あーしさんが由比ヶ浜のために何かをする動作だけを見て、それはいい人っぽい行動に違いないから、「いい人だなぁ」という究極にシンプルな感想が出てきたのかもしれない。

 

 
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