『俺ガイル。続』第11話の感想・考察。葉山はなぜ何も選ばないのか?
第11話「いつでも、葉山隼人は期待に応えている。」
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』第11話である。かなり駆け足な展開となっているが、葉山という謎めいた登場人物の考え方が垣間見える回であり、特に「何も選ばない」と言う最後のシーンは好きである。過去回や原作を参考にしつつ、考察・解説をして行こう。
※他にも俺ガイル考察記事ございますので、「俺ガイルカテゴリ」からご覧くださいませ。
葉山と雪ノ下雪乃が噂になる
葉山「誰がそんな無責任なことを言ったんだ?」
雪ノ下雪乃「そんなことあるわけないでしょう?」
葉山と雪ノ下雪乃が付き合っているのではないかと学校中の噂になっているらしい。そのことについて何気なく問われて、葉山と雪ノ下雪乃はそれぞれ憤慨とも取れるリアクションをしているのが印象的である。二人の間に過去に何かがあったらしいことは作中で度々示唆されるが、具体的に何があったのかは推測さえも難しい。「葉山が雪ノ下雪乃を救えなかった」というようなことは一期の林間学校で仄めかされている。
二人はそもそも親同士が親しくしており幼馴染とも言うべき間柄だけれど、ここに来て偶然の目撃情報によって噂になるということは、学校では敢えて近しく接しないようにしているようである。
一色いろは「先輩って、いま付き合ってる人、いますか…」
いつものいろはす。
パソコン用メガネ
雪ノ下雪乃が徐ろにかけるPC用メガネは比企谷が誕生日プレゼントとして用意したもののようである。ここでのやり取りをを下記に抜き出してみる。
由比ヶ浜「やっぱりゆきのん、それ似合う」
雪ノ下「(由比ヶ浜ではなく比企谷に向かって)そ、そうかしら」
由比ヶ浜「…(声なき声)」
比企谷「(目を逸らしながら)まあ、そうだな」
雪ノ下「(目を伏せて)ありがとう…」
由比ヶ浜「…(比企谷と雪ノ下を交互に窺う)」
由比ヶ浜は二人のやり取りに何か思うところがあったようである。比企谷と雪ノ下が互いに照れたようになっているのはなぜだろうか。雪ノ下が比企谷に憧れみたいなものを抱いているらしいことはわかるが、比企谷がなぜ雪ノ下を意識しなければならなかったのかはわからない。意識されていることに対して意識しているのだろうか。
三浦優美子の依頼
三浦と雪ノ下の対立
三浦「何かあるんじゃないの…? 昔にとか」
雪ノ下「何かがあったとして、それを全て語って、それで何か変わる? あなたは、周りは、それを信じる? 結局、意味がないことなのよ」
三浦が雪ノ下に望んでいたことは「何もなかった」とか「こんなことがあった」とか、何か具体的な返答が欲しかったに違いない。しかし、雪ノ下はそれには答えずに「答えることには意味がない」と一蹴する。三浦に敵意があるわけではなくて、本当にそう思っている。
これはおそらく過去に葉山と雪ノ下の間に何かがあって、弁解の甲斐なく結局は周りに理解されなかった出来事があるのだろう。雪ノ下がかつて持っていた「それで壊れてしまうものなら、それまでのものでしかない」という信念はこの辺の事情に起因するものと思われる。
比企谷はなぜ依頼を受けたのか?
きっと今のままでいられないことを知っていて、もっと先の未来を想っていても叶わないことを理解していて、口にすれば壊れてしまうのをわかっていて、けれど失いたくはないから。
「知りたい。……それでも知りたい。……それしかないから」
叶わないことを知りながら、それでも抗って、求め続けるなら。
なら、それはどっかの誰かと変わらない。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』10巻、P177-179より抜粋
比企谷が三浦の依頼を受ける決断をしたのは、三浦に共感したからに他ならない。どの辺に共感したのか。3点ある。
1) 比企谷は第8話で「本物が欲しい(=相手を完全に理解したい)」という言葉を吐露したが、ここでの三浦も「葉山の進路を知りたい(=葉山を理解したい)」という一点のみを望んでいる。比企谷と三浦の望むものは本質的に同じものである。だから共感した。
2) 三浦は葉山という「今」を失いたくないから「知りたい」と思っている。比企谷も修学旅行から「今」という考え方には共感していて、奉仕部を失いたくないという思いは確固たるものになっている。その今を失いたくないという思いに共感した。
3)「嫌がられるかもしれない」にも関わらず、三浦は知りたいと言う。比企谷はこれまで相手の望むことを望む通りに解決してきたのであり、相手の望まないことは決してしなかった。だけど、三浦の「嫌がられても知りたい」という考え方は新たな発見であり、比企谷の「本物なんてないってわかっているのに求め続ける」という姿勢とも合致した。だから共感し、迷いなく依頼を受けた。
陽乃の登場
陽乃「自分でよく考えなさい」
雪ノ下雪乃が陽乃に葉山の進路を尋ねるが「自分でよく考えなさい」と一蹴される。雪ノ下雪乃は依頼のために聞いてみただけだけれど、陽乃は「雪ノ下雪乃が葉山の進路を参考にして自分の進路を決めようとしている」と誤認して突き放したのではないかと考えられる。
また、このシーンから雪ノ下雪乃が陽乃に何か尋ねることができること、つまり口も利かないくらいに常に喧嘩をしているわけではないことが示されている。
陽乃「見つけてくれること、かな?」
陽乃「隼人も期待してたんだね」
比企谷「何を?」
陽乃「見つけてくれること、かな?」
葉山が誰かに「見つけて欲しい」と思っていることがわかるシーンは今まで一度も出てこないから、これは葉山のパーソナリティにおける重要な見解である。「見つけてくれる」が何を意味するのか具体的にはわからないが、葉山の快活なイメージとは異なる受動的なニュアンスがそこにはある。
葉山と比企谷の対峙
比企谷はマラソン大会という好機において葉山に進路を直接聞き出そうとする。戸塚らテニス部が壁になって後方を塞ぐことによって、葉山と二人きりの時間を作り出した。
比企谷の推論
比企谷「お前はみんなの望む葉山隼人をやめたいんだ。理系ならそもそも人が少ないし、女子も少ない。お前が煩わされている問題からはとりあえず距離を置ける。それに、進路が違うなら、みんな納得して離れられるわな。自然消滅なら誰も傷つかないし、誰の期待も裏切らずに済む」
「三浦は女よけには都合が良かったか?」という比企谷の邪悪な一言は、葉山を感情的にして本音を引き出すための巧妙な罠である。
比企谷の言う「みんなの葉山隼人をやめたいんだろ?」という推論が正しかったかどうかは葉山本人にしかわからない。マラソン大会後に示される葉山の発言では比企谷の推論は否定されるけれど、全く的外れだったかどうかまではわからないのが実情である。本心では「みんなの葉山隼人をやめたい」と思いながらも、「みんなの葉山隼人」であり続けているのかもしれない。葉山という男はあまりにも謎が多すぎる。
葉山のカウンター
葉山「やっぱり仲良くできなかっただろうな。俺は君が嫌いだ。君に劣っていると感じる。そのことがたまらなく嫌だ。同格であって欲しいんだよ。君に負けることを肯定するために。だから君の言う通りにはしない。……いいや、勝つさ。それに、君に負けたくないんだよ」
少ない台詞ながら情報量が多く何一つ具体的でないが、下記3点を考察した。
1)「やっぱり仲良くできなかっただろうな」とは何を意味するのか。「比企谷の言うことが全く的外れだった」から仲良くできない、あるいは「比企谷に本音を見透かされた」から仲良くできないの2種類の考え方がある。おそらくは前者であると思われる。
2) 葉山が比企谷を嫌いというのは、比企谷を憎悪しているということではなく、比企谷に劣っている自分が嫌いというような意味だと思われる。なぜ劣っていると感じているのだろうか。手掛かりとしては、第10話冒頭の葉山「君はすごいな、そうやって周りの人間を変えていく」という台詞がある。現状維持に終始するだけの葉山には、周囲の人間にポジティブな影響をもたらすことのできるように見える比企谷に嫉妬のような感情を抱いているのかもしれない。
あるいは、葉山は過去に雪ノ下雪乃の問題を解決できなかったことが後悔として残っているようだが、比企谷は雪ノ下を変えることができた。自分ができなかったことを容易くこなしてしまうので、比企谷に劣っていると感じているのかもしれない。
3)「いいや、勝つさ。それに、君に負けたくないんだよ」という言葉から、あくまでも葉山はこれまで同様のやり方を崩さずに突き通すことが宣言されている。つまりは「みんなの葉山隼人」をやめないし、「現状維持と停滞」という行動原理を貫きながら比企谷に対抗するということだ。
保健室で雪ノ下との邂逅
雪ノ下の進路
比企谷「進路、どっちに進むか聞いてもいいか?」
雪ノ下雪乃「あなたがそういうことを聞くのって初めてね。一応、文系ということにはなっているわ」
ここで比企谷が雪ノ下の進路を尋ねるのは、陽乃に「雪乃の進路を聞いておいてよね」と言われたからだろうか。ただ、陽乃に言われたのは「学部の志望」であり、ここで比企谷が聞いたのは「文理選択」なので、一概に陽乃に言われたからとは言えないかもしれない。単純に比企谷が知りたいと思ったからかもしれない。
「一応、文系」と雪ノ下が答えているのは、原作を参照すると雪ノ下は同じ高校でも「国際教養科」という学科に属しており文理選択はないので「一応、文系」なのである。ちなみに、原作ファンの間では「雪ノ下は留学して自分の道を歩みだすのではないか」と推測されていたりする。どうなるかはわからない。
二人のやり取りを聞いていた由比ヶ浜
由比ヶ浜「ちょうど今来たとこなんだけど…」
と由比ヶ浜は言っているが、どう考えても二人のやり取りを聞いていたに違いない。負けヒロインになってしまうのだろうか。
打ち上げ会場
葉山「君は少し変わったな」
葉山「すまない。変な噂とか、迷惑をかけた」
雪ノ下「迷惑というほどでもないわ。それに、気遣ってくれたことには感謝しているの」
葉山「君は、少し変わったな」
雪ノ下「どうかしら。ただ、昔とはいろんなことが違うから」
この葉山と雪ノ下雪乃の会話からわかることは「かつて二人の間に同じようなことが起こったことがあったが、雪ノ下は今回は違うリアクションをしている」ということだろう。
葉山は雪ノ下のどの辺を察知して「変わった」と言っているのだろうか。葉山に感謝の言葉を述べていることからもわかる通り、人の気持ちを理解しようと努めているところだろうか。
雪ノ下の言う「いろんなこと」とは、由比ヶ浜と比企谷に目線を送っていることからおそらく「ひとりじゃない」ということなのだと推測される。
葉山「気づいてないのか?」
葉山「やっぱり彼女は少し変わったな。陽乃さんの影はもう追ってないように見える。けど、それだけのことでしかない」
比企谷「いいんじゃねぇの、それで」
葉山「気づいてないのか?」
「気づいてないのか?」の意味は明白で「陽乃の影は追っていないけれど、代わりに比企谷(あるいは奉仕部)に依存し始めている(ことに気づいてないのか?)」ということを言っているはずである。葉山が何を論拠にそう言っているのかはわからない。洞察力かなり鋭い人物だ。
葉山「それを自分の選択とは言わないだろ」
葉山「それしか選びようのないものを選んでも、それを自分の選択とは言わないだろ」
葉山が文理選択を誰にも教えなかった理由が語られている。葉山は周りに「きちんと自分の意志で選択して欲しい」と思っていた。これはおそらく葉山自身が家庭の事情か何かによって選択の余地がない人生を歩まされているから、周りの人間にはそうなって欲しくないという優しさであり厳しさであったのだろう。
またこれは比企谷自身にも響く言葉であっただろう。生徒会長選挙で、比企谷は選択の余地なくバッドエンドとなった。それは「例えばもし、ゲームのように一つだけ前のセーブデータに戻って選択肢を選び直せたとしたら、人生は変わるだろうか。答えは否である」という独白にも表れている。
比企谷「俺もお前が嫌いだよ」
そうやって葉山は人の期待に応え続けるのだろう。これからは自分自身の意志で。
だから、俺だけは否定しないと。期待を押しつけない奴がいると思い知らせてやらないと。的を射た否定だけが、きっと本当の理解で、冷たい無関心こそは優しさだと思うから。無理解者の肯定は彼にとって足枷にしかならない。
「俺も一つ言い忘れてた。……俺もお前が嫌いだよ」『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』10巻、P335
比企谷の「俺もお前が嫌いだよ」は葉山への逆説的な優しさであったことが示されている。
葉山「俺は選ばない」
葉山「それでも、俺は選ばない、何も。それが一番いい方法だと信じてる。自己満足だよ」
おおよそ、俗に言う「リア充」や「スクールカースト上位者」は自分の確固たる意志で自分の選択をしているように見える。しかし、この物語では葉山という「究極のリア充」であり「スクールカーストの頂点」に君臨する者が「何も選ばない」という台詞を吐き、それを全肯定する。しかも、葉山の葛藤みたいなものは殆ど描かれない。
基本的に私はラブコメというジャンルが好きだけれど、この『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』に関しては恋愛要素に加えて、葉山隼人という存在がスパイス以上のものになっていると感じる。そのおかげで単なるラブコメではなく人間ドラマとでも言うべき物語になっており、人物像に圧倒的なリアリティが彩られている。本当に感心する。
由比ヶ浜「そっか、もっと簡単でよかったんだ」
三浦「そういうめんどいのも含めてさ、やっぱいいって思うじゃん」
由比ヶ浜「そっか、もっと簡単でよかったんだ」
次回予告での会話である。原作から引用されている。三浦の言わんとするところは「そばにいたいと思うからそばにいる、それだけでいい」ということである。それに対して由比ヶ浜が「もっと簡単でよかったんだ」と何かを悟る。
三浦という登場人物は比企谷を共感させるばかりか、由比ヶ浜にも何らかの影響を与えた。ここに来て端役以上の役割を果たしている。
ちなみにこの第11話は原作約300頁が凝縮されて駆け足で展開されたものであり、オリジナルのストーリーからカットされた場面が多くある。登場人物における進路についての具体的な話や、雪ノ下雪乃と葉山の関係などについても言及があるので、時間があれば是非とも読んでもらいたいと思う。
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