俺ガイル完(3期)第10話の感想・考察その1。由比ヶ浜はなぜ比企谷と踊りたかったのか?

俺ガイル完(3期)第10話の考察をしていく。例によって一日では書ききれなかったので前半・後半に分け、本稿は前半部分(その1)である。

およそ4,000文字です。是非とも最後までご覧ください。

 
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なぜ比企谷は結局プロムを手伝ったのか?

結局比企谷はプロムを手伝うこととなるが、それはいろはに頼まれたからである。比企谷の中の論理は「いろはに頼まれたいろはのプロムを手伝う」ということになっているに違いない。で、結果的に雪ノ下と関わることができている。上記は全く重要なことではないが「結局手伝うんかーい」とは思った。

いろはが比企谷(と由比ヶ浜)にプロムを手伝わせた理由は、ただ単に人手が足りないということではないように思う。比企谷が手伝いたいと思っていることを見抜いて言い訳を作ってあげた、雪ノ下には比企谷と由比ヶ浜が必要であることを見抜いてそれを提供してあげたなど、いろいろな考え方があるが、明確には示されない。

いろはには他人のための行動を「自分のため」と言い張って周囲に影響を与える行動様式があるので、少なくともいろはは自らの私利私欲のためだけに比企谷を引っ張ってきたということではないように思う。

いろはとの会話

なぜ比企谷は奉仕部がなくなると思っているのか?

比企谷「そういうのは部長に聞いてくれ。部活に関して俺には何の権限もない。……それに、この部活はなくなる。だから、俺が仕事をする理由がない」

奉仕部がなくなるであろうことは過去回でも仄めかされてきた。由比ヶ浜もそのように予感していた描写があった。なぜ奉仕部はなくならなければならないのだろう。

幾つか考えられることはある。例えば、彼らの関係が終わりになるから。あるいは、雪ノ下が自立することによって奉仕部は存在理由を失うから。雪ノ下が自立できなくとも奉仕部に頼ることはもうないから――など。

これらをまとめると、奉仕部がなくなる理由の根本は「雪ノ下が奉仕部を必要としなくなるから」であると思う。比企谷の台詞にもあるように、比企谷には奉仕部存続に関する何の権限もない。だから、雪ノ下が奉仕部を必要としないのであればそれで解散だ。雪ノ下の存在しない奉仕部には何の意味もない。

奉仕部→生徒会が正解のルートなのか?

いろは「部活動としてじゃなくてもいいです。形は問題じゃないんです。生徒会としてでもいいんです。……ぶっちゃけ一番現実的なラインだと思うんですよね〜。可愛い後輩の可愛いワガママに付き合わされて、なし崩し的になぁなぁな関係続けるのって悪くなくないですか?」
比企谷のモノローグ「それはひどく魅力的な提案だ。もしかしたら、一番理想に近い形だったのかもしれない」

2期の生徒会長選挙(第3〜5話)の際、雪ノ下を生徒会長にしなかったが故にバッドエンドになり、奉仕部の関係がそのまま生徒会に移行することが正解ルートであったことが仄めかされている。雪ノ下が自分の意志で生徒会長になることができた時点で、陽乃とは違う選択をしたこととなり、雪ノ下の自立が確定するからである。

さて、ここでいろはに奉仕部→生徒会の提案をされている。きっと奉仕部の関係がそのまま生徒会に移行して来年も続くならば、それはそれで楽しいだろう。ただ、それはどうやら正解ルートではないようである。

なぜかというと端的に言えば「本物ではない」からだろう。自分の意志で掴み取ったものではないものは全て偽物だ、というような信念が比企谷にはある。いろはにもそれはわかっているので「可愛い後輩の可愛いワガママに付き合わされて、なし崩し的になぁなぁな関係続けるのって悪くなくないですか?」と、どう考えても比企谷がYESと言わないような言葉選びをしている。

比企谷はなぜいろはを「マジでいい奴」と思ったのか?

いろは「……言い訳、わたしがあげてもいいですよ?」
比企谷のモノローグ「たぶん、一色が本当に、本気で生徒会を手伝ってくれと言ったら、俺が断れないことはわかっていたろう。なのに、今みたいな手練手管を使って」
比企谷「お前、マジでいい奴だな……」
いろは「でしょ? こう見えて都合のいい女なんです」
比企谷「その提案については前向きに検討できるよう善処する」

まず「手練手管」とはWikipediaによれば「思うままに人を操りだます方法や技術のこと。あの手この手と、巧みに人をだます手段や方法」のことである。他の辞書にも同様の意味として掲載されている。

比企谷のモノローグ部分の文脈は「本気で手伝ってくれと言われたら比企谷は断れない。なのに、いろははあれこれと巧みに手段を講じてきた」ということである。「なのに」と逆説になっていることで、その「手練手管」は比企谷をYESと言わせるためのものではないことがわかる。YESと言わせたいなら、手練手管などを使わず、直截的に「先輩がいないとやばいので生徒会を手伝ってほしいですぅ〜」と比企谷に懇願すればいいからである。そのくらいのことはいろはには簡単だろう。

つまり、ここでいろはが用いたのは、いろはの「生徒会に来てほしいなぁ」という本心をきちんと伝えながらも、意思決定は比企谷に委ねるという高度なテクニックである。それを見抜いて比企谷は「マジでいい奴だな」と言った。このシーンの前の雪ノ下の台詞「頼られたら、あなたはきっと助けるわ」も小さな伏線になっている。

前回の第9話でも、比企谷は三浦に「いい人だなぁ」「善処する」と言っている。「善処」とはデジタル大辞泉によれば「適切に処置すること」である。比企谷が、他人からの提案に対して一方的に反論するのではなく、一旦は受け入れて「善処する」という曖昧ではあるが何らかの言葉を返答するくらいにはまともになった、ということだろうか。

由比ヶ浜と踊る

比企谷「他にもお願いがあればいつでもどうぞ」
由比ヶ浜「ほんとに? ……あたしと踊ってくださいませんか」

突拍子もなく差し挟まれる由比ヶ浜とのダンスシーンである。「おいおい二人とも急にどうした?」と思った。下記3点を考察した。

1.なぜ由比ヶ浜は比企谷と踊りたかったのか?

かつて由比ヶ浜は「ずるい気がするから」(2期12話)と言って比企谷と一緒に帰ることを拒否した。この「ずるい」は「抜け駆け」を指すのではないかと考察した。

で、このダンスシーンだが、雪ノ下が用意した舞台において、雪ノ下の仕事中に、休憩中の由比ヶ浜が比企谷に「お願い」という絶対に断れない口実を発動して、卒業生のためのダンスフロアで、ものすごく目立つであろう制服姿で二人で踊るという抜け駆け中の抜け駆けをしているのであり、ずるいなんてもんじゃないなと思った。

3期に入ってからの由比ヶ浜は自らの「ずるい」を容認してきたように感じられ、特に行動に矛盾はない。ただ、あまりにも突拍子もなさすぎて私には考察不可能であり、「比企谷と踊りたいと思ったから突然にお願いを発動した」としか考えられないのであった。

2.比企谷はなぜ由比ヶ浜と踊ったのか?

これはもちろん「お願いされたから」である。比企谷には由比ヶ浜のお願いを叶える義務があるから、「踊ってください」「YES」と二つ返事で承諾する。比企谷の意志はない。ロボットでもできることをしているに過ぎない。

また、もしかしたら、上でいろはが比企谷に敢えて「YES」と言わせない言い回しをしたことと対比になるかもしれない。客観的に見れば「三浦=いい人」「いろは=いい奴」「由比ヶ浜=ずるい」ということになる。

3.比企谷の自意識過剰が瓦解したか?

握られたままの手をぶんぶん振り回され、それに従って、俺の体もくるりと回り、たたらの代わりにステップを踏む。音と熱気と光にまみれて、大勢の中でもみくちゃにされながら、こじゃれた踊りには程遠いでたらめダンス。
けれど、どんなに不格好でもかまわない。
この場にいる誰も彼も、ただ楽しければそれでいいという連中だ。だから、周りがダンスしてようがベガ立ちしてようが気にしない。誰も見ちゃいないのだ。
ただ一人、俺を見ているのは由比ヶ浜だけだ。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』14巻、P247

比企谷は「自意識の化け物」「自意識過剰」であった。「自意識過剰」とはデジタル大辞泉によれば「他に対する自己を意識しすぎること。自分が他人にどう見られるかを考えすぎること。また、そのさま」である。

しかし、上の原作からの引用文によれば、比企谷は由比ヶ浜と不格好に踊っているところを由比ヶ浜を含めた不特定多数の人間に見られるという恥ずべき事象に対して、全く気にしていない。つまり、自意識過剰ではなくなっている。

今この瞬間に自意識が瓦解したのか、それともずっと前から瓦解しつつあったのかはわからないが、由比ヶ浜のおかげで堅牢な自意識が弱体化したことを示すには十分である。

由比ヶ浜「次で最後にするね」とは?

由比ヶ浜「次で最後にするね」

当然ながら「次で最後(のお願い)にするね」の意味だが、なぜ次で最後なのか。これはおそらく、由比ヶ浜にとって核心に近い部分までの「お願い」を叶えてもらったことを意味する。

当ブログではこれまで由比ヶ浜の意志について「比企谷に告られるのを待っている」「比企谷の出方によって「お願い」を変えようとしている」と考察してきた。

このオープンな舞台で二人で踊るという行為は、由比ヶ浜にとって「あなたに好意がある」ことを仄めかす最終手段のようなものであり、加え、公衆の面前でそれが行われることにより既成事実も担保できる。由比ヶ浜にとってこれ以上の大作戦はない。後は告られるのを待つだけ。

やれることは全てやった。だから「次で最後」である。比企谷に告られたら、「はい、こちらこそ」というお願いを言うだけ。告られなかったら違う「お願い」を言うのだと推測している。

雪ノ下との会話1

文化祭の焼き直しの会話

雪ノ下「で、あなたはどこにいるの? 客席?」

このあたりの会話は1期文化祭でなされたものの焼き直しである。文化祭の時はその会話はオンマイクで図らずも筒抜けだったが、ここではプライベートな会話として成り立っている。

雪ノ下の言う「お願い」とは?

雪ノ下「……お願い、絶対叶えてね」

「由比ヶ浜さんのお願いを叶えてあげて」のことを言っている。

雪ノ下の言うところの「由比ヶ浜さんのお願い」とは「由比ヶ浜と比企谷が恋仲になること」と思われる。しかし、由比ヶ浜自身が思う「由比ヶ浜のお願い」がそれと一致しているかは不明確である。

上でも示したが、由比ヶ浜は比企谷の出方によって自身の「お願い」をコントロールしようとしているように思えるし、前回に「ヒッキーのお願いを叶えること」とも言っている。堂々巡りである。

雪ノ下は、自身がこの関係から脱却するという前提の元で「お願いを叶えてね」と言っているようである。比企谷は果たしてその前提を是とするだろうか。

 

 
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