俺ガイル完(3期)第10話の感想・考察その2。「代償行為」とは何か?

俺ガイル完(3期)第10話の後半部分の考察をしていく。前半はこちら(俺ガイル完(3期)第10話の感想・考察その1。由比ヶ浜はなぜ比企谷と踊りたかったのか?

6,500字くらいあります。是非とも最後までご覧ください。

 
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雪ノ下母との会話

雪ノ下は実家に帰ったのではなかったのか?

陽乃「こういうの雪乃ちゃんがやりたいことだもんね。進路もそっち系を目指すんでしょ?」
ははのん「そっち系? どういうことかしら」
雪ノ下「そのことだけれど、私は父さんの仕事に興味があって〜」

第2話で雪ノ下は「だから、実家に戻るわ。そこで私の将来の希望について、母さんにちゃんと話をしておきたい」と言っている。しかし、雪ノ下母は雪ノ下から今まで進路について何も聞かされていなかったようで、今初めて雪ノ下から説明を受ける。

どういうことだろう。雪ノ下は何のために実家に戻ったのだろうか。雪ノ下にとって、責任者としてプロムを成功させたことを実績として提示した上で将来の話をしたい、というのはわかる。でも、実家で将来の話をしないなら実家に戻る必要はない。雪ノ下は実家で何をしていたんだ。失神していたのか。

その上、ここでも結局は陽乃に進路の話に誘導してもらってから、雪ノ下は核心を語り始める。この有様で果たして依存から脱却したとみなせるのだろうか。

ストーリーの本筋には全く関係のないことであるが、気になったのでメモしておいた。

興味のなさそうな陽乃

雪ノ下と母が将来についての話をしている際、陽乃は爪を眺めて全く興味がなさそうにしている。陽乃は以前から「将来のことはどうでもいい」と言っているので、本当に興味がないのかもしれない。しかし、雪ノ下の将来がどうなるかは、陽乃の未来にも直結する。果たしてそれを無関心でいられるだろうか。

下記2点を考察した。

1.敢えて無関心を装っている
無関心を装うことで自分は家のことについて全く興味がない、雪ノ下に譲っても構わない、なんなら吝かではないことを示すことができる。

2.自分の未来が変わるわけないと思っている
この後描かれるが、雪ノ下母はこれで納得したとは思っていないようである。何があっても陽乃に家のことを継がせることに変わりはないだろう、と諦めているとも考えることができる。

葉山がいない

そう言えば、プロムに葉山が全く登場しなかった。この場にも戸部はいるけど葉山の姿は確認できない。ストーリー上の都合だろう。あるいは失神していたのかもしれない。

陽乃との会話1

なぜ由比ヶ浜に視線を向けたのか?

陽乃「んー、まぁ、お母さんはあれで納得したんじゃない? 他の人はどうか知らないけど。ね?」
由比ヶ浜「……なんでこっちに聞くんですか」

ここで由比ヶ浜に「ね?」と問うた意味は、由比ヶ浜も納得していないということだろうか。残念ながら由比ヶ浜が納得している/していないとわかるシーンは示されていない。後に「ゆきのんがそれでいいなら、いいよ」と言っているので、由比ヶ浜にとっての本心はどこかにあるに違いないが、ストーリーとしては由比ヶ浜が納得する/しないはあまり関係がないように思える。

由比ヶ浜は正しいキャラクターとして描かれている。アニメ版ではカットされていたが、原作には陽乃が由比ヶ浜を「全部わかってる」(12巻P342)と評するシーンがある。比企谷も「由比ヶ浜は間違えない」(2期13話)と言っている。

だから、ここでの「ね?」は「これは正しい有様なんですか?」という意味が込められているように思った。比企谷が用いた奇策によって雪ノ下のプロムは大団円、それは正しいんですか? 1年という時間を共に過ごした奉仕部の終焉の形、これは正しいんですか? 雪ノ下に譲られたままにして自らは核心に触れない由比ヶ浜の態度は正しいんですか?

なぜ陽乃は納得していないのか?

陽乃「少なくともわたしは納得していないもの」
比企谷「……は?」
陽乃「こんな結末が、わたしの二十年と同じ価値だなんて、認められないでしょ。もし、本気で譲れって言うならそれに見合うものを見せてほしいのよね。ずっとああいう扱い受けてきて、それがいきなりはいそうですかってワケには行かないでしょ。それ納得するって結構難しいと思わない?」

これまで陽乃は「自意識の化け物」「それが本物?」「共依存」などと、俯瞰で比企谷たちを掻き回し、問題提起してきた。それに対して、ここでは陽乃が一人称で自身の感想を語っているのが特徴である。陽乃が自分語りをするのは非常に珍しく、「酔えない」のくだりとこの第10話くらいだと思う。

陽乃の言っていることは、端的に言えば駄々をこねているに過ぎない。「私は家のことはどっちでもいい」「雪乃ちゃんを応援する」と言っておきながら、いざとなったら「私の二十年の価値」という飛び道具を持ち出してきた。

余談だが、これは修学旅行回(2期2話)の雪ノ下の態度とも似ているかもしれない。「あなたに任せるわ」と言っておきながら、いざとなったら「あなたのやり方、嫌いだわ」という飛び道具を突然に投げつけてきた。

ただ、これは陽乃の衒いのない本心なのだろう。プロムは大成功に終わったが、これは比企谷の奇策によって成り立ったものである。そもそもプロムの発案者はいろはであり、雪ノ下は責任者ではあるがその船に乗っかっただけ。

それに加え、この雪ノ下がプロムに関わる理念は、後に陽乃に「代償行為」として提示されるが、雪ノ下が本音を押し殺した上での「納得して、諦めたい」というものによる。だから、元々プロム開催の理念からして本音ではなく、間違っている。

陽乃が具体的にプロムの何に納得していなくて、「それに見合うもの」が何を指していて、このプロムには何が足りなかったと思っているのかは不明確であるが、上記の理由で、物語としての正解ではないことはわかる。

3人の会話

由比ヶ浜「時間の長さじゃない」が意味するものは?

由比ヶ浜「ゆきのんの一年も、……あたしたちのこの一年も、負けないくらいに重いよ。時間の長さじゃないと思う」

由比ヶ浜はポジティブな意味として「時間の長さじゃない」と言う。つまり、「陽乃の20年=奉仕部の1年」である。

そのように捉えた上で、陽乃の言葉を、奉仕部として反映させてみたのが下記である。

3人の本音「こんな結末が、奉仕部の1年と同じ価値だなんて、認められないでしょ。もし、本気で終わらせるって言うならそれに見合うものを見せてほしいのよね。ずっとこういう活動をしてきて、それがいきなりはいそうですかってワケには行かないでしょ。それ納得するって結構難しいと思わない?」

たぶんこれは3人が心の底で思っていることだろう。いろいろなことがあった濃密な1年を、こんな偽物めいた結末であっさりと強引に終わらせようとしている。読者としてもそれ納得するって結構難しいと思わない?

上でも述べたが、これまで陽乃は本音を語ることはないままに、彼らに挑発的行為をしてきた。奉仕部は「感情」や「今」を武器にそれに対抗し、克服してきた。しかしここでは、陽乃が「今」の「感情」を漏らすことで、本音を語らない奉仕部を挑発(助言)しているという対比になっているように思う。

なぜ比企谷は逃げたのか?

雪ノ下「私は、終わらせるなら、今がいいと思う」
由比ヶ浜「あたしは、続けられるならそれでもって思うけど。ゆきのんがそれでいいなら、いいよ」
比企谷「俺は……」

雪ノ下はとにかく関係を終わらせたがっているようである。おそらくそれは本音ではないが、客観的に見てここが適期だと思ったのだろう。プロムは大団円、これから特に関わる理由はない、だから今解散、ということである。終わらせるというのは奉仕部の解散と同義だろう。

由比ヶ浜は妥協している。本来なら関係を続けることを切望しているはずだが、雪ノ下の意志を尊重する。かつて由比ヶ浜は「わかんないで終わらせたらダメなんだよ」(2期8話)と言っていたが、今は雪ノ下の意志を理解した上で同意したのだろう。ここで終わってもおそらく由比ヶ浜と比企谷の関係は続くはずで、それを見越して同意したのかどうかはわからない。

比企谷は言葉に詰まる。比企谷も、ここで終わらせるのが適期であることは理解している。反論する言葉を持たないことも自覚している。しかし、同意できない何かが比企谷の中にある。そして、結論を保留にしたまま逃げるように立ち去る。

この比企谷が逃げを選択する場面は、2期8話において、比企谷の「本物が欲しい」を聞いて雪ノ下が逃げ出したところと対比になっていると考えることもできる。その場面は、論理性を堅牢に保つ雪ノ下が感情で話すことを拒否した末の逃げであると私は考察しているが、ここでの比企谷も「本当は終わらせたくない」という感情を話すことを拒否した末の逃げである。

2期8話では、由比ヶ浜が雪ノ下を追いかけたが、ここでは由比ヶ浜は追いかけてこない。理由は、特に深刻とみなさなかった、雪ノ下が追いかけたので空気を読んだ、いろはと片付けをしていた、失神していた、などが考えられるだろうか。

雪ノ下との会話2

「うまくやる」とは何か?

雪ノ下「これからは一人で、もっとちゃんとうまくやれるように頑張るから」

雪ノ下は「うまくやる」という言葉をこれまでも何度か使っているように思うが、それが何を指すのかは明確にされていない。方向性としては「自立」「依存からの脱却」「誰にも頼らない」というようなことを指していると思われるが、具体的なビジョンが見えない。

もしかしたら雪ノ下自身もよくわかってないのではないかと思った。現状が駄目らしいということはわかるけれど、じゃあどうすればいいのか、どうなりたいのかはわからない。だから「うまくやる」という抽象の極みみたいな言葉でそのビジョンを代用しているのではないか。

「だから……」の続きは?

雪ノ下「うまくやれるように頑張るから。だから……」
比企谷「ああ、わかってる」

文脈としては「だから」の続きは、どう考えても「これで終わりにしましょう」である。比企谷はそれを察知したので、雪ノ下がそれを発話にする前に「ああ、わかってる」と口を挟んだ。比企谷は何を「わかってる」のか。何もわかってない。雪ノ下の言葉を遮るためだけに放たれた虚言だ。

雪ノ下は「終わりにしましょう」を言うためにわざわざ追いかけてきたのだろうか。もしかしたら、比企谷にそれを否定して欲しかったのかもしれない。お互いを否定し合ういつもの何気ない掛け合いのように、何でも解決してしまう比企谷に一縷の望みを託して、「終わりにしましょう」という脆弱なテーゼを強烈なアンチテーゼで吹き飛ばして欲しいと思っていたのかもしれない。

比企谷が立ち去ろうとしても雪ノ下は比企谷の袖口を握ったまま離さない。それを雪ノ下自身が無自覚に行っていたようであると映像では示唆されている。つまり、それが雪ノ下の本音。終わりになんてしたくないのである。

しかし、二人とも終わりにしない理由を生み出すことができない。めんどくさい人たちである。

陽乃との会話2

代償行為とは?

陽乃「だって、あの子の願いは、ただの代償行為でしかないんだから。雪乃ちゃんも、比企谷くんも、ガハマちゃんも、頑張って納得したんだよね。形だけ、言葉だけこねくり回して、目を逸らして……」
比企谷のモノローグ「やめてくれ、それ以上言わないでくれ。わかっているから」
陽乃「うまく言い訳して、理屈つけて……。そうやって騙してみたんだよね?」
比企谷のモノローグ「わかっていた。男の意地などと嘯いて、やっていることは結局今までとなんら変わりがない。いや、今までよりもなお悪い。とんだ大嘘を飲み込むことを二人にも強要していたのだから」

そもそも、第1話での雪ノ下の依頼は、本音ではないことが示唆されていた。

雪ノ下「由比ヶ浜さん。あなた、私にどうしたいか聞いてくれたわね。……でも、それがよくわからないの。けれどね、昔はやりたいこと、やりたかったことがあったのよ」
由比ヶ浜「やりたかったこと?」
雪ノ下「私の父の仕事」

 *

雪ノ下「誰かに言われたからとかではなく、自分の意志で納得して、諦めたい。私の依頼はひとつだけ。あなたたちに、その最後を見届けてもらいたい。それだけでいいの」

 *

由比ヶ浜「ゆきのんの答えは、それ、なのかな」
雪ノ下「もしかしたら、違うのかもしれない」
由比ヶ浜「だったらさ」

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』第1話より

まず、現状、雪ノ下は「どうしたいのかわからない」と言っている。だけど、昔は父の仕事をやりたいと思っていた。だから「自分の意志でそれを諦めたい。それを見届けて欲しい」という依頼を出す。しかし、「ゆきのんの答えは、それ、なのかな」とこの時既にそれが「代償行為」的なものであると由比ヶ浜には見抜かれていた。

比企谷はとにかく雪ノ下と関わりたいので、その代償行為であるプロムの実現に奔走、ダミープロムというどでかい虚像さえ屹立させ、結果、代償行為が実現され、雪ノ下に終わりにさせられ、今に至る。

確かに単なる代償行為によってこれまでの二十年を踏みにじられるのは、陽乃にとってもいい気は全くしないだろう。

代償行為と言うからには、雪ノ下には本来のゴールがあったはずである。おそらくそれは第1話で言っている「わからない」の部分だろう。なぜわからなくなってしまったのか。それは比企谷に依存しているため自分自身の意志がないからだろうか。それとも、2期13話で由比ヶ浜に「最後の依頼」を出されて身動きが取れなくなってしまったからだろうか。

陽乃には雪ノ下の恋愛面に土足で踏み込もうとする行動が1期から見られたし、3期2話で雪ノ下が家の話を相談する際「私の聞きたい話じゃなさそうだね」と恋愛話を示唆していた。

非常に陳腐な結論になるかとは思うが、陽乃は、雪ノ下が比企谷に思いを寄せていることをずっと前から知っていたのだと思われる。で、何の代償行為かというと「比企谷と恋仲になる」ことの代償行為であると陽乃は言っている、というのは極めて有力である。

で、あるなら雪ノ下の言う「わからない」とは、端的に言えば「比企谷を取るべきか、奉仕部の関係を取るべきか、わからない」というような意味にも捉えることができる。もちろん、由比ヶ浜はともかく、雪ノ下がそのような悩みを抱えている様子は全く見られないので、あくまで想像である。

「酔えない」とは何か再考

陽乃「だから、言ったじゃない。君は酔えない」

「酔えない」とは2話での陽乃の言葉を借りれば下記である。

「どんなにお酒を飲んでも後ろに冷静な自分がいるの。自分がどんな顔してるかまで見える。笑ったり騒いだりしても、どこかで他人事って感じがするのよね。……予言してあげる。君は酔えない」

要点は「どこかで他人事って感じがする」のところだろうか。後に比企谷は平塚先生に「酔えない」について「空気とか、関係とか、そういうことですかね」と言っている。「人と本心で向き合えない」みたいなことだろうか。

比企谷は本心では「終わらせたくない」と思っているにも関わらず、理屈や論理に阻まれて自らの意志を表明することができない。雪ノ下を助けた理由にしたって「男の意地」「帳尻を合わせたい」と嘯いている。

「酔えない」が具体的にどういう状態のことを言っているのかはよくわからない。第一、「酔えない」が良い状態なのか悪い状態なのかさえ不明である。考える点があるとすれば、今後の展開において、比企谷が「酔えない」を克服するのか、克服しないまま突き進むのか、といったところだろうか。

「本物なんてあるのかな……」

陽乃「ちゃんと決着つけないと、ずっと燻るよ。いつまでたっても終わらない。わたしが二十年そうやって騙し騙しやってきたからよくわかる……。そんな偽物みたいな人生を生きてきたの。ねぇ、比企谷くん。本物なんて、あるのかな……」

陽乃は自らを「偽物」であると自認している。つまり、これまでの挑発的助言も「偽物」という立場をわきまえた上で行っていたということに違いない。

陽乃は「いつまでたっても終わらない」と言っている。雪ノ下は「終わりにする」と言っているけれど、それは形式上・理屈の上であって、実際には終わらない。奉仕部の関係自体は終わるかもしれないけれど、後悔と共に人生を生きる羽目になる可能性がある。

「騙し騙しやってきた=偽物」ということは「決着をつける=自分の意志で自分の望んだものをしっかりと掴み取る=本物」とでも定義できるだろうか。

2期12話でも陽乃は「本物なんてあるのかな」と言っていたが、それは反語に近いニュアンスであったように思う(本物なんてあるのかな、いや、ない)。しかしここでは、僅かながらの希望のようなニュアンスが感じ取れる(本物(を叶える魔法のようなもの)なんてあるのかな、君はどう思う?)。

もちろん比企谷は魔法使いなどではなく、強固な論理性と卓越した行動力によって問題解決を図ってきたに過ぎない。しかし、陽乃にとってそれは自分では使うことのできない魔法のようなものだろう。陽乃は自分の自由な未来を比企谷に託しているように思える。

 

 
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