爆笑不条理コメディ『ハッピーシュガーライフ』アニメを最終話まで見た感想

『ハッピーシュガーライフ』はおおよそサイコホラーとカテゴライズされている。キラキラふわふわした表層とは裏腹に、内容は殺人を含むサイコホラーというギャップが一番の見所とされていたようである。そして、そのサイコに至る動機が愛であり「愛とは何か?」を提示する作品であると。

果たしてそうだろうか?

かなり人を選ぶ作品であることは間違いなく、第3話あたりで見るのをやめようかと思ったのは事実である。おおよそ、下記のように思った。

 
・愛とか、甘いとか、苦いとか、甘くてふわふわしたとかうるせえ
・一直線でご都合主義のひねりのないストーリー
・だいたいこの作品のメッセージって何?

 
しかし。第3話を見終わった後、ぼんやりと別の考えが浮かんだ。

「これはもしや難しいことは考えずにただただ笑って見ればいいだけの話なんじゃないのか。これって特に何のメッセージも受け取らなくて良い不条理コメディなんじゃないのか?」

登場人物

・さとう:主人公の女子高生。しおをとにかく愛している
・しお:幼女。さとうに懐いている
・おばさん:さとうの保護者
・あさひ:行方不明のしおを探す少年
・しょうこ:さとうの友人。作中で唯一まともな人物
・変態教師:さとうに執着する変態教師
・太陽:しおに執着する変態高校生

爆笑不条理コメディ

愛とサイコホラーの皮を被ったコメディ。そう考えると全て合点が行った。第4話からは思う存分笑って見ることができたし、続きが気になりさえした。当期アニメの中で最も楽しみにしていたのが『ハッピーシュガーライフ』だったとさえ言える。

あんなにも不快だった変態教師が人間国宝級のコメディアンに見える。太陽がしおを渇望するというわけのわからない展開も「そんなもんか」とすんなり受け入れられる。まともなキャラクターが殆ど出てこないし、警察が機能していないように思えるのも「不条理コメディだから」と片付けることが可能だ。

一話ごとに笑えるポイントが必ずある。第5話最後の大いなるミスリードはどう考えても笑わせるために設計されているようにしか思えない。主役のさとうは常に真面目であり、だからこそおもしろい。変態教師と太陽の怪演がそれを彩る。

それぞれのキャラクターの過去のトラウマのようなものが所々に挟まれはするものの深くは立ち入らないのにも理由がある。本作はコメディなのであり、ヒューマンドラマではないからだ。

全く曲がりくねらない一本道の群像ストーリーであるのもそう。コメディに複雑なプロットは必ずしも要請されない。

最終話の落とし所 ※ネタバレあり

それぞれのキャラクターの最後は下記の通りである。

 
・さとう:自殺
・しお:さとうに守られて生還
・おばさん:逮捕
・あさひ:現状維持
・しょうこ:第9話で死亡
・変態教師:逮捕
・太陽:変態のまま

 
カタルシスが得られるためのストーリーの基本は因果応報であると思う。良いことをした者は報われ、悪いことをした者は罰せられて物語が終わること。

『ハッピーシュガーライフ』の結末は因果応報に従っているだろうか? 下記で見ていこう。

まず、太陽は第1話で理不尽にトラウマを植え付けられた上に、最終話では散々な目に遭い、トラウマを抱えたまま廃人のようになって終わる。この最終話の太陽には本当に笑った。含み笑いではなく、「ガハハ」と声を上げて笑ってしまった。報われなさがすごい。これだけでも不条理コメディであることが明白になっている。

さとうのおばさんの目的が何だったのかはよくわからない。さとうのための利他的行為であるとすれば一貫性がある。

変態教師は物語の後半で出番が少なかった。もう少し登場回数が多ければ圧倒的なカオスになっていて、もっと笑えたのではないか。

さとうは自殺を選び、死亡する。つまり、殺人などの罪を償わなかったということ。幸せの絶頂の中、あり得たかもしれない未来を想像しながら絶命する。これがさとうにとってのハッピーエンドであることは明白である。このあり得たかもしれない未来を思い描くシーンはちょっと感動してしまった。こういうのに弱い。

因果応報になってない結末

で、こう見てみると全く因果応報になっていない。正当なプロットから逸脱しまくっている。

 
・さとう:罪を償わず自殺
・しお:不本意に生き延びる
・おばさん:罪を償う(さとうに依頼された死体処理の件)
・あさひ:しおに拒絶される
・しょうこ:もっともまともな登場人物だが殺される
・変態教師:罪を償う(おそらくさとうに依頼された死体処理の件がきっかけ)
・太陽:何の罪もないのに報われない

 
この物語はさとうが犯した罪を他人が償い、本人は「ハッピーシュガーライフ」を全うして幸せのまま死亡し、何の罪もない善人が死亡もしくは精神崩壊するというわけのわからないものだ。これを説明するには、やっぱり「不条理コメディ」であると片付けるしかないじゃないか。

何かこの物語にメッセージがあるとすれば、さとうがしおを守ったところだろうか。だけどそれにしてもしおに何らかの明るくてまともな未来が訪れることは暗示されていない。何ならこの不条理劇がしおを主人公にして再発されることさえ仄めかされている。

—–

『ハッピーシュガーライフ』は「何も考えずに見るべき不条理なエンターテイメント」だ。

愛って何? 罪は報われるべきでは? 甘いとか苦いとか何なの? ストーリーにひねりがなくてつまらない? 作者の言いたいことって何?

うるせえ。真面目か。

とにかく頭をからっぽにして見るのだ。そうすれば爆笑することができるし、その中にもしかしたら愛とやらを見出すこともできるかもしれない。

 
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