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『俺ガイル。続』第7話の感想・考察。なぜ雪ノ下は「もう無理して来なくていいわ」と言ったのか

      2018/08/21

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第7話「されど、その部屋は終わらぬ日常を演じ続ける。」

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(『俺ガイル。続』、二期)第7話。特にこの最終部分にある雪ノ下雪乃との会話はここまでのストーリーの総括となっており、なぜ比企谷と雪ノ下雪乃との間に微妙な齟齬が生じてしまっているのかについての端的且つ的確な示唆となっている。

本稿においては特にこの部分について過去回や原作を援用しながら解説して行こう。

 

なぜ雪ノ下は「もう無理して来なくていいわ」と言ったのか

雪ノ下雪乃は常に論理的である。この比企谷との会話も一貫した論理性に立脚して主張が行われている。従って、雪ノ下雪乃が「もう無理して来なくていいわ」と言ったのは、怒りや憎悪などを理由にしたものではない。論理的に考えた結果「比企谷が部活に来るのは論理的でない」という結論が導き出されたに過ぎないということである。

下記で雪ノ下雪乃の台詞を詳しく見てこう。

 

雪ノ下雪乃「わざわざあんな嘘までつかなくても良かったのに」

「あんな嘘」とは、比企谷が「小町の受験とかもあるからしばらく早く帰る」と言って一色いろはを手伝っていたことについてである。それに対して比企谷は「別に嘘はついてねぇよ。それも理由の一つだ」と返答し、雪ノ下雪乃は「そうね、確かに嘘ではないわね」と返す。ここで原作を引用すると、比企谷が何を考えていたのかが詳しくわかる。

その仕草を見て、いつだかもそんなやりとりをしたことを思い出した。
雪ノ下雪乃は嘘をつかない。俺はそのことを頑なに信じていて、だからこそ、雪ノ下が真実を言わなかったことで幻滅した。
雪ノ下に対してではない。そんな理想を押し付けていた自分自身に、昔の俺は幻滅したのだ。
引き換え、今の俺はどうだろう。あのときよりもなおひどい。真実を言わないことは嘘ではないと、そんな欺瞞を飲み込んで、あまつさえそれを利用している。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』9巻、 P211

「いつだか」とはアニメ一期で描かれていることである。かつて比企谷は雪ノ下雪乃の乗るクルマにはねられて怪我をしたが、比企谷は雪ノ下がそれを知りながらずっと黙っていたのではないかと疑念し、「雪ノ下は嘘をつかない」と思い込んでいた自分自身に失望する。

「黙っていることは嘘ではない」というのは雪ノ下の論理であり確かに正論ではあるが、比企谷はその不誠実さにがっかりした。それなのに今は比企谷がその論法を駆使して雪ノ下への言い訳に使ってしまっている。そうやって取り繕うしか奉仕部を守る方法がないと比企谷は思っている。そして、それが自身の一貫性に反することであることも自覚している。

 

比企谷「勝手にやって悪かったな」

あんなにも拒んでいたはずの虚偽を平気で使い分けている自分が醜悪なものに思えた。だから、口にする言葉も懺悔している。
「……勝手にやって悪かったな」

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』9巻、 P211

比企谷が謝ることしかできないのは、それ以外に言うべき言葉が見つからないからである。雪ノ下に謝っているというよりは、自分自身の一貫性の破綻に説明を見つけられず、それを自戒している。

 

雪ノ下雪乃「私の許可が必要?」

雪ノ下雪乃が比企谷の謝罪を論理的に反証しようとしている。「謝られるのは嫌だ」とか「謝られても困る」とか「あなたが謝るのを見るのは心苦しい」とかではなく、「私の許可が必要?」という何の感情も介入していない客観的な台詞回しは雪ノ下の行動様式に即する。雪ノ下には一貫性がある。感情が入っている台詞ではないので、比企谷を責めているわけでもない。なのに比企谷は「真綿で首を絞められるような圧迫感」(原作より)を感じている。

 

比企谷「いいや、ただの確認だ」

「確認」というのは、さっきの台詞が「勝手にやって悪かったな(と自分は思っている)」のではなく「勝手にやって(気分を害したなら)悪かったな」という意味だったのだという比企谷の弁解である。雪ノ下に謝罪を否認されたことで、感情を表に出さない比企谷も「自分が悪いと思って謝った」とは言えない。だから、「悪いことをしたね?」という意味で発した台詞だと後付けで弁解するしかない。

比企谷の行動に雪ノ下の許可が必要であるはずがないので、比企谷はそれを否定することしかできない。比企谷は雪ノ下の恐るべき一貫性と信念の前に謝ることさえも許されない。

 

比企谷「別に解決なんかしてねぇよ。それに、ひとりだからひとりでやってるだけだ」

雪ノ下雪乃の「あなたなら、一人でも解決できると思うわ。これまでもそうだったのだし」を受けての比企谷の台詞である。雪ノ下の台詞は皮肉ではなく本心である。

同じく比企谷の台詞も謙遜ではなく本心である。林間学校のときも、修学旅行も、生徒会長選挙も、比企谷は解決のための手段を講じて解決したかに見えたが、新たな問題を引き起こしてしまった。解決なんかしてないから今こうして奉仕部は微妙な関係に成り下がってしまっている。比企谷はそれを自分の責任だと感じている。

 

雪ノ下雪乃「私は、違うわ」

「いつも、できているつもりで……、わかっているつもりでいただけだもの」
それは誰のことなのだろう。彼女のことか、それとも、俺のことだろうか。ただ、きっと同じだと思った。わかるものだとばかり、そう思っていたのは果たして誰だったのか。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』9巻、P213

雪ノ下雪乃が自分自身に対して失望して無力感のようなものを抱いていることが初めて言葉として示されている。これは第6話以降に何かを諦めたように雪ノ下が変わってしまった理由のヒントとなり得る。

「わかるものだとばかり」とは第5話の最後で語られる雪ノ下雪乃による独り言のような意味深な台詞のことである。その時の「わかるものだとばかり思っていたのね」とは「(私が何も言わなくてもあなたが私の気持ちを)わかってくれるものと(私は)思い込んでいたのね」という意味でほぼ間違いない。

ここに来て比企谷はあの台詞を自分と照らし合わせている。自分もただわかっているつもりだっただけなのではないかと、自分自身に疑念を抱いている。

 

雪ノ下雪乃「それで壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない。違う?」

「けど、別にもう無理する必要なんてないじゃない。それで壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない……。違う?」
その問いかけに俺は今度こそ黙ってしまった。
それは、俺が信じていて信じきれなかったものだ。
けれど、雪ノ下は信じていた。あの修学旅行のとき、俺が信じきれなかったものを。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』9巻、P214-215

修学旅行のとき、比企谷は葉山に「それで壊れるくらいなら、元々その程度のもんなんじゃねぇの?」と確信を持って言っている。しかし、結果的に葉山たちの「今をなくしたくない」という思いに少なからず共感して、彼らの関係を守る。比企谷には「馴れ合いは要らない」という信念があったが、自分が犠牲になることで彼らの馴れ合いを維持した。結果、彼らの問題は解決したが、比企谷と雪ノ下の考え方に乖離が見られるようになってしまう。

俺は彼らを自分と重ね、その在りようを容認してしまった。俺は俺であの日々をそれなりに気に入っていたし、失くすのは惜しいと感じ始めていた。
いつか必ず失うことを理解していたのに。
だから、心情を歪めて自分に嘘をついた。大事なものは替えが利かない。かけがえのないものは失ったら二度と手に入らない。故に守らなければならないと、そう偽って。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』9巻、P215

修学旅行で比企谷が葉山グループの関係性を守ったのは、彼らを自分と重ねたからであると比企谷は独白している。上辺だけで取り繕う高校生活だけの儚い人間関係なんて何の意味もないという信条がありながら、比企谷は心のどこかで奉仕部を大事に思うようになっていた。なくしたくないと思っていた。だから、葉山の「失ったものは戻らない」という言葉に共感してしまい、理性で作り上げた信念を歪めて感情のままに彼らを助ける。

 
しかし、雪ノ下はその「馴れ合いは要らない」「それで壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない」という信念をいまだに保っている。それが正しいことかどうかは別として、雪ノ下はその論理性と一貫性を堅牢に守っている。そして、比企谷にもそれがあって欲しいと願っている。だから「違う?」とわざわざ念押ししている。

それに対して比企谷は、理性と感情の板挟みに遭うからこそ黙ってしまう。理性を否定することはかつて自分が持っていた信念と雪ノ下がいまだに信じている信念を否定することに繋がるし、感情を否定することは奉仕部を守ることの否定を意味する。

 

雪ノ下雪乃「もう無理して来なくていいわ」

雪ノ下雪乃は比企谷に奉仕部に来て欲しくないからこのように言っているわけではない。雪ノ下は比企谷が「無理して気を遣っている」と思っている。「無理して気を遣う」ことは雪ノ下の信念に反する。そのようにして無理して維持しなければならないものは上辺だけの馴れ合いに過ぎない。

極めて論理的な結論である。比企谷が無理して気を遣わなくなった結果として奉仕部の関係が壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない。

 
かつての比企谷であれば納得しただろう。しかし、今は違う。比企谷には「奉仕部という場所が大切だから守りたい」という感情がある。「比企谷が無理して気を遣わなくなった結果として奉仕部の関係が壊れてしまうのなら、それまでのものでしかない」のは確かだけれど、なくしてしまったものは戻らない。それが惜しいと感じている。

 
第2話での、

比企谷「それで壊れるくらいなら、元々その程度のもんなんじゃねぇの?」
葉山「そうかもしれない。けど、失ったものは戻らない」

この会話における葉山の立場に今、比企谷はいる。葉山グループは比企谷の行動で関係性を保ったが、ここで雪ノ下がかつての比企谷のように感情を理解するとは思えない。この状況を比企谷がどのように解決していくのかが次回以降に繋がる。

 

その他のシーンの考察

由比ヶ浜「あの依頼さ、やっぱり部活として受ければよかったと思う」

「あの依頼」とは一色いろはが「やばいですやばいですぅ」と持ち込んできたクリスマス合同イベントのことである。由比ヶ浜が台詞を放った理由として「逆境を乗り越えようとするのが雪ノ下だから」と由比ヶ浜は述べるけれど、「今はどうかわからない」という比企谷の言葉にも納得してしまい、結論は出ない。雪ノ下に踏み込むこともできないので、部活は停滞が続く。

 

葉山「俺は君が思ってるほど、いい奴じゃない」

葉山は第4話で比企谷に対して「君が誰かを助けるのは、誰かに助けられたいと願っているからじゃないのか」と問い、それを比企谷は本心で否定する。これは裏を返せば、発言者である葉山は「誰かに助けられたいから誰かを助けている」と読むこともできる。つまり、第4話で葉山が比企谷を助けようとしたのは、比企谷に助けられたいからという動機があることが示唆されている。

ということは、一色いろはが忙しそうにしていることに気づいていながら葉山が助けない理由は、葉山は一色には助けられたくないと思っている、あるいは、一色には葉山を救う能力がないと葉山はみなしているからと考えることもできる。そういう打算的な動機によって行動していることを葉山は自覚している。だから「俺は君が思ってるほど、いい奴じゃない」と言っているのではないかと考えることができる。

 
また、「断る理由も特にないから一色を手伝っている」という意味の比企谷の発言に対して、葉山が「それだけか?」と真剣な表情で問うのは、葉山にとって比企谷は純粋な正義感で他人を救っていると映るからだろう。比企谷はそれを自覚していない。だけど、葉山は「君は自分の価値を正しく知るべきだ」と思っている。その念押しが「それだけか?」の意味であると思う。

 

改めて一色いろはの荷物を持ってあげる比企谷

一色いろはが「今日は軽いからいい」と断っているのに、結局比企谷は一色の荷物を持ってあげる。これは正義感や善意ともみなせるし、過保護やお節介であるともみなせる。今後の展開を見る上で、比企谷の行動様式として重要な点だ。

 

戸塚「そういうの、かっこいいって思う」

帰り道でたまたま遭った戸塚が「つらくても大変でも、泣き言を言わないで一人で頑張ってる。そういうの、かっこいいって思う」と比企谷に言う。それを受けて比企谷は自問する。「かっこいいとかそういうんじゃないくて、意固地になっているだけ。それは本当に正しいだろうか」と。

戸塚は「かっこいい。けど、困ったら言ってね」と比企谷に言う。比企谷を責めるでも否定するでもなく「困ったら言ってね」と言える戸塚はこの物語の中でも間接的に比企谷を助け、無意識に比企谷の行動を促す稀有な存在である。

 

折本かおり「ああ、昔の話だからさ」

第3話で折本が陽乃に対して「そういえば昔、比企谷に告られたりしたんですよー」とあっさりと言っていたのに対し、ここでは「昔の話だからさ」と一色いろはに茶を濁す。その変化に比企谷は気付く。それまでは比企谷のことを見下してしきりに笑いの対象にしていたので、折本の中で比企谷に対する印象が変わっていることが明白になっている。

 
次の記事:
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